バッハ / ブランデンブルク協奏曲 聞き比べ
Bach: Brandenburg Concertos

      sun

 
取り上げる CD 36枚:

ピリオド楽器による演奏:アーノンクール('64/'81)/コレギウム・アウレウム/レオンハルト他/ピノック
(’78/’06)/コープマン/ホグウッド
/ゲーベル
/エージ・オブ・エンライトメント/サヴァール/ハルステッド/クイケン
('93-94/'09)/パールマン/ターフェルムジーク
/イル・ジャルディーノ・アルモニコ/ベルリン古楽/アレッサンドリーニ/アバド/エガー/ガーディナー/カフェ・ツィマーマン/フライブルク
/フロリレジウム

モダン楽器による演奏 : イ・ムジチ
('65/'86)カラヤン('64-65/'78)/リヒター/ブリテン/パイヤール/バウムガルトナー/マリナー('80/'85)
/ボッセ


 オーケストラ曲というのはクラシック音楽の中でも色々な楽器が出て来て楽しく、入門向けとしても相応しいものです。バッハの曲の中でそんな位置に着けているのがブランデンブルク協奏曲。もう一つの管弦楽組曲と並んで広く親しまれており、バッハの代表曲と言ってもいいでしょう。バロック時代のこの分野での最高傑作とか総決算などと言う人もいます。形式としては合奏協奏曲ですので、オーケストラをバックにソロを取る旋律楽器のいくつかが交代しながら競い合うような形であり、ロマン派のオーケストラ曲などとは違うわけですが、華やかであること(曲によっては弦楽合奏という形もあります)は間違いありません。技術的に高度なものも含まれます。全部で6曲あります。


作曲時期
 バッハがブランデンブルク協奏曲を作ったのは、その生涯の中でのケーテン時代と呼ばれる時期です。主な作品を作るようになってからは大きくワイマール時代、ケーテン時代、ライプツィヒ時代に分かれるけれども、ケーテン時代は1717年から23年、バッハ三十二歳から三十八歳頃ということになります。より具体的には、1721年の楽譜に書かれていた文言から1719年(三十四歳)から21年の間に一応なるものの、バッハのことですから以前に書き溜めたものを流用することはよくあり、曲によって異なる可能性も考えられて正確なことは分かりません。いずれにせよ、この頃バッハはアルンハルト=ケーテン候レオポルトという貴族に仕えていました。ケーテンはベルリンから南西へ130キロほどの位置にある都市です。ケーテン候はバッハより九歳年下で、大変音楽が好きでバッハとは気が合い、三十四歳で亡くなるまで友人として良好な関係でした。ルター派ではなく、礼拝での楽器の使用を禁じるカルヴァン派の信徒だったため、彼に仕えるバッハはカンタータなどの教会音楽を作る義務から解放されており、この時期にバッハは多くの世俗曲を作曲し、それらはまた傑作揃いという実り多き時代でした。管弦楽組曲、平均律クラヴィア曲集(第1巻)、ヴァイオリン・ソナタ、シャコンヌを含む無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ、無伴奏チェロ組曲などがあります。また、私生活ではこの期間の中程、1720年に最初の奥さんであるマリア・バルバラを亡くし、21年に二度目の奥さん、アンナ・マグダレーナと再婚するという出来事もありました。ソプラノ歌手でもあったアンナ・マグダレーナは音楽の才能があり、バッハを仕事の面でも支えました。


名前の由来
 ブランデンブルク協奏曲という名前については、ドイツの音楽学者でバッハの伝記を書いたフィリップ・スピッタ(1841-94)がそう呼んだからであり、楽譜に書いてあった本来の名前はフランス語による「いくつかの楽器による6つの協奏曲」というものです。その名称の「ブランデンブルク」はバッハが曲を献呈した相手であるブランデンブルク=シュヴェート辺境伯クリスティアン・ルートヴィヒ(1677-1734)から来ます。辺境伯といってもこの人の場合はプロシア(プロイセン)王家の王子ということであって、領地を持っているという意味ではありません。また、「ブランデンブルク=シュヴェート辺境伯」自体も元々主権は持っていません。紛らわしい話ですが、「ブランデンブルク=シュヴェート辺境伯領」はプロイセンのホーエンツォレルン家が治めるブランデンブルク辺境伯領の北部の名称で、ベルリンの北からポーランドにまでわたる広い地域です。都市としての「ブランデンブルク」(ブランデンブルク・アン・デア・ハーフェル)はブランデンブルク辺境伯領の旧首都(後にはベルリン)であり、ベルリンの西に位置します。ベルリンにある有名な「ブランデンブルク門」はそのブランデンブルクに通じていた道の門のことで、ベルリンの中心地の一つです(同じくホーエンツォレルン家が治めたポツダムにも別にブランデンブルク門が存在)。その後はナポレオンの凱旋パレードに使われたり、1961年にベルリンの壁がそのすぐ前に建設され、89年に崩壊したことから東西分裂と統合の象徴にもなりました。
 何はともあれ、ブランデンブルクというのはドイツの地名であり、そこを管理する貴族にバッハが曲を献じ、後世の人がその名で曲を呼んだ、ということです。


曲の成立経緯
 ブランデンブルク=シュヴェート辺境伯クリスティアン・ルートヴィヒに曲を献呈したのは、その献じた楽譜に書かれたことによれば、バッハがその人の前で演奏する機会が以前あって(「数年前」となっているけれどもバッハの旅の状況からして1719年のこと)、そのときに頼まれて(命じられて)作曲したから、ということになります。「音楽の捧げもの」と同じような経緯です。しかし当時仕えていた音楽好きのケーテン候(レオポルト)は1721年に結婚し、その奥さんが音楽嫌いだったことから本人も影響を受けてお抱え音楽家たちへの出費を抑えるようになり、その結果バッハもその頃、次の奉公先を探さねばならない事態となっていました。したがってブランデンブルク辺境伯に曲を献呈したのもその就職活動の一環だったのではないかという見方もあるようです。クリスティアン・ルートヴィヒの抱える音楽家たちではこの曲集を演奏するのに人数も技量も足りなかったし、献じられた楽譜はルートヴィヒの死まで使われた形跡がないという事実もあります(反対意見もあります)。


曲の構成
 全6曲の内訳です:

 第1番ヘ長調 BWV 1046
 比較的編成が大きく(全曲で最大)、ホルン、オーボエ、ファゴットなどが登場し、華やかで親しみやすい作品です。協奏曲だけど、唯一の四楽章構成でもあります。内容がほぼ同じで第三楽章と第四楽章の一部がないバージョン(シンフォニア)も存在しており、それは「狩のカンタータ(BWV 208)」のオープニングに使うためのものだっただろうと考えられています。ワイマール時代(ケーテン時代の前)の1713年の世俗カンタータです。また、それ以外にも同じ材料が色々使い回されています。

第2番ヘ長調 BWV 1047
 大変演奏が難しいトランペットのパートが含まれている曲です(第二楽章には登場しません)。したがって誰が吹いているかが話題になったりもします。輝かしい響きです。

第3番ト長調 BWV 1048
 通奏低音のチェンバロ以外は弦楽器という、弦楽合奏による曲で、管楽器が出て来ません。6曲中で一番短い曲であり、第二楽章が二音だけしか書かれておらず、即興のカデンツァが演奏された後にその二音で終わるべきものなのだろうと考えられています。時折その調性に合った二音で終えられるバッハの他の曲が代用で演奏される場合があります。

第4番ト長調 BWV 1049
 リコーダーが活躍します。あるいはフルート(アルト・リコーダーかフラウト・トラヴェルソかで議論があります)、それとヴァイオリンが競い、明るい雰囲気があります。ヴァイオリンのパートはかなりの技術が必要です。

第5番ニ長調 BWV 1050
 チェンバロ協奏曲のような作品です。音楽史的に初の試みともされ、ピアノ協奏曲の前身となる珍しい存在です。そのカデンツァは技量が必要です。そしてどの楽章もメロディアスで、大変人気のある曲です。編成も1番と並んで大きく、恐らく6曲中で一番人気でしょう。ケーテンの宮殿で使うためのチェンバロをベルリンの工房に特注し、バッハが取りに行ったという旅行の記録があり、そのときのチェンバロを皆に披露するための曲ではないかという説があります(それだと1719年作ということになります)。ブランデンブルク辺境伯と会ってその前で演奏したのもこのベルリンでのことではないかとも考えられています。あるいは、ドレスデンでフランスのクラヴサン奏者、ルイ・マルシャンとバッハが競い合うこととなり(マルシャンは現れなかったと言われます)、そのために作った曲(第二楽章にマルシャンのテーマが出て来るとされます)という説もあります。

第6番変ロ長調 BWV 1051
 珍しいことにヴァイオリンが登場しない弦楽合奏によるもので、その分音の構成が低くて渋い響きとなり、華やかさには欠けると言われます。演奏でどれだけ魅力的に出来るかが問われます。


ピリオド奏法について
 ブランデンブルク協奏曲の録音史を眺めてみると、演奏のマナーの上で大きく二つに分けられることに気がつきます。19世紀以来の伝統的なというか、モダン楽器のオーケストラによる演奏が一つと、もう一つは古楽器によるピリオド奏法です。演奏者たちの数を時期的に見ると、前者から後者へと切り替わって行ったのは大体1980年前後からということになるでしょうか。ピリオド奏法自体は60年代に登場して来て70年代に広がりました。でもその頃はまだまだモダン楽器による録音も多くありました。でも90年代以降はピリオド楽器とその演奏が当たり前であり、モダン・オーケストラによるリリースはほとんど見かけなくなってしまいます。

 「ピリオド奏法」という呼び名は正確ではないかもしれません。一般的にそう言われるだけで、この言い方だと、特にモダン楽器のオーケストラでありながらも古楽を演奏するときのようなマナー(主にノン・ビブラートとアクセント)でやることを指す場合もあります。本来の古楽器によるピリオド奏法の方は、英語圏では HIP、ヒストリカリー・インフォームド・パフォーマンス(「歴史的知識にもとづく演奏」と訳される場合があります)と呼ばれます。この定義と歴史については色々あるので細かいことは述べませんが、それまでの伝統的な演奏スタイルは、管弦楽曲に限っては現代の楽器を使った大きな編成のオーケストラによるもので、弦楽器は19世紀以降に改造された音量の出せるタイプのものであり、全面的にビブラートを用い、テンポは全般にゆったりでレガート気味に歌わせる傾向があります。それに対してピリオド奏法(HIP)の方の特徴は、詳しい定義と根拠を除いて、聞いた感じを現象的に言うならば大体以下のような特徴があります:

1. 速いテンポ: 速い楽章はより速く、緩徐楽章もそれなりに速いことが多いです。

2. 区切りの良い拍子: ときに明白なスタッカートもあり、よく区切れて飛び跳ねるような印象を与えます。スラー/レガートの反対です。打楽器、金管楽器では鋭い叩き方、歯切れの良い吹き方になる場合があります。

3. ノン・ビブラート: ビブラートを抑制し、全面的には用いません。表現として部分的に使う場合はあります。

4. 不均等なリズム: 二音ずつのものはノート・イネガルと言い、ロマン派で言うところのテンポ・ルバートに似たものです。一つの小節の中である音が長くなり、その分だけ他の音が短くなるという具合に、楽譜上では同じ音価のものが不均等な扱いになります。チェンバロなどの音量差の出せない楽器での、特定の音の強調の方法として登場したものが他の楽器にまで波及したと言えるようなリズムです。

5. 山なりの長音符: 一つのロングトーンを弾くときに、弦、管ともにストレートに延ばすのではなく、途中で山なりに盛り上がってまた小さくなる、クレッシェンドとデクレッシェンドが合わさったような弾き方をします。弦の場合は弱い張力の弦とたわみの大きな弓に合った奏法とも言えますが、歌で言う「メッサ・ディ・ヴォーチェ」に当たります。

6. 短い終わりの音: フェルマータを避ける感じで、音楽の区切りである小節の終わりの音符を長く延ばしません。

7. 装飾音符: 特に二度同じフレーズが繰り返されるような場合、二度目は即興的な装飾が多く付きます。

 これら個々の手法は奏者によって異なった割合で用いられます。また、時期によっても多少違いがあり、古楽器演奏の初期にはまだ特徴がさほど顕著でない時代があります。コレギウム・アウレウム合奏団などがそうだし、レオンハルトやブリュッヘン、クイケン兄弟たちオランダ/ベルギー系の演奏者たちも初めは割合あっさりしていました。そこから皆のアクセントが顕著になって行きますが、オランダ勢の中ではコープマンは装飾は多いものの、比較的おっとりだったかもしれません。イギリスのホグウッド、ピノック、ガーディナーなどもピリオド奏法の中心世代だけど、大陸の他の演奏者よりはエキセントリックさが少ないとも言え、特にピノックにはゆったり歌わせる演奏の曲もありました。オーストリアのアーノンクールも同じくこの運動立ち上げの世代で、演奏スタイルがものによって変わります。また、ドイツ系のライハルト・ゲーベルはこの奏法の特徴を強く聞かせる傾向がありました。管弦楽団では指揮者主導というよりも楽団自身の自発性が感じられる演奏もあります。旧東ドイツのベルリン古学アカデミー、フライブルク・バロック・オーケストラ、カナダのターフェルムジーク・バロック・オーケストラ、イギリスのエージ・オブ・エンライトメント、 ハノーヴァー・バンドといったところです。

 モダン楽器のオーケストラによる演奏と、このピリオド楽器による古楽器奏法による演奏については、世代によって受け止め方が違うかもしれません。昔からのファンにとっては、ピリオド奏法が出て来たときは速くて落ち着きがない感じ、アクセントが強くて滑らかでない感じに聞こえたりしましたが、このムーブメントを同時代的には体験していない今の世代の人にとっては反対に、モダン楽器による昔の演奏はだらだらと遅くて切れ目がなく、無用にレガートな演奏に聞こえる可能性があります。どちらがいいというものでもありませんが、前述の通り今の主流はピリオド楽器による録音です。古楽器は演奏技法的には難しく、正確な演奏に対してはハンデとなる場合もあるけれども、それよりは作曲当時の演奏だと思われることの方が重要なのかもしれません。

 そして昔からのファンにとってさえ、古楽ムーブメントの黎明期・全盛期を過ぎて世代交代も進み、最近になって来ると、聞く側の耳が慣れたせいもあるにせよ、演奏が洗練され、極端な癖が減って来たように感じるに違いありません。確かにアクセントはあるけれども、肩に力が入らず、自分の歌になっている自然な演奏も多いのです。殊更運動そのものをアピールする必要がなくなっているのでしょう。規則によるアクセントが強くなればなるほど、表現上の個性の取り分が減るのは自明の理なので、これはありがたいことだと思います。


  以下、このページでは最初に古楽器やピリオド奏法によるものを取り上げ、後半でモダン楽器の演奏に触れます。録音年代順です。複数回録音した指揮者や楽団のものは最初の録音によって並べました。時代の変遷が分かるように、ピリオド奏法を扱っているときにも、合間にモダン楽器演奏の録音年もグレーの文字にて記しておきました。


ピリオド楽器による演奏


    harnoncourt1
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Nikolaus Harnoncourt   Concentus Musicus Wien 1964


    harnoncourtbrandenburg2

       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Nikolaus Harnoncourt   Concentus Musicus Wien 1981

バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
ニコラウス・アーノンクール / ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
(1964/81)

 ピリオド楽器による演奏の様式を確立し、常にその運動の中心にいた奇才アーノンクール。百面相というのか、常に謎めいた部分を持ち続けた人のように思います。好きな音楽家だったのに2016年に亡くなってしまいました(ニコラウス・アーノンクール/
オーストリアの貴族としてチェコの血を引いてドイツで生まれた古楽の指揮者 1929-2016)。晩年は宗教的な穏やかさを漂わせていたかと思うと、最後の「運命」のように、若いときに戻ったかのような演奏もあったりして、こういう演奏をする指揮者という定式をすり抜けてしまいます。ブランデンブルク協奏曲の録音も早くからを出していたけれども、まだ演奏マナーが確立されていなかったからだとは言えないような意外さがあります。

 古楽器楽団の演奏の癖と言えば、上で述べた通り、速いテンポと不均等なリズムで攻撃的にやるというイメージがあります。そしてこの人こそ世にそういうものを広めた中心人物だという先入観で聞くと、ブランデンブルク協奏曲はそうではありません。我々としては、あのブラスとティンパニが勇ましいモーツァルトの39番も知ってるし、ビオンディの十年以上も前にそれ以上過激だった「四季」も知っているわけです。バロック期のバッハなら相応なものだろうと身構えてしまうわけだけど、そんな期待や心配は外れてしまいます。

 自身がチェロを演奏してエドゥアルド・メルクスらとやっているものを除けば、指揮者としてのブランデンブルク協奏曲は二度録音しています。そしてそのどちらにおいても同じところがあります。ミュンヒンガーほどごつごつしてないけれども、拍が案外のっぺりとしたところがあるので、軽妙ではありません。ピリオド奏法が苦手な人にも十分に受け入れられるのではないかと思います。特に1964年録音の旧盤の方
(写真上)ではそう言えると思います。総じてテンポが遅くどうかすると、例えば第1番の第四楽章の出だしなど、平均的なモダン楽器の楽団より遅く感じられます。リズムも全体に均等だし、フレーズを短く切る印象もありません。素直で大変オーソドックスに聞こえるのです。緩徐楽章は遅めにやる場合でもスラーでつないではおらず、くっきり区切るところもあるけれども、それでものどかな感じがします。

 
一方81年〜82年録音の新盤(写真下)は6番全体と3番、 5番の一部の楽章を除いて旧盤より速いテンポです。でも速いといっても他の古楽器楽団の演奏と比べれば中庸、もしくはむしろ遅く感じるところもあるぐらいです。表現としはこちらの方が大胆な試みが多く、アクセントがしっかりしていたり、展開部分で変化を付けて遅く引きずるようにしたり、間を大きく取って山なりの呼吸も強めに付けたりします。でもこちらが身構えていたからか奇をてらったようには聞こえませんでした。学問的な意味は分からないし、アーノンクールには持論もあったでしょうから、新旧録音の表現の違いについて正確なことは書けませんが。

 テルデックの録音のコンディションですが、旧盤は音は良いものの反響は少ないです。
新盤はちょっと奥まっていて、残響は旧盤よりあるように感じます。どちらが優れているということもないけど、個人的には新盤の方がいいかなという気もします。

 
65イ・ムジチ(→モダン楽器による演奏)
65ヘルベルト・フォン・カラヤン / ベルリン・フィル(→モダン楽器による演奏)



    collegiumaureum
      
Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Collegium Aureum


バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
コレギウム・アウレウム合奏団
(1966)

 ピリオド楽器の音が好きだけどピリオド奏法は嫌いという人には、この運動の黎明期に出て来て後に多くの録音が廃盤になってしまったコレギウム・アウレウム合奏団(1962年にドイツで結成された古楽器楽団のパイオニア)がいいかもしれません。ブランデンブルク協奏曲は彼らとしても早めの時期で、1966年〜67年です。サブスクリプションではともかくもはや CD は中古しかないけれども、ビブラートを厭わず、テンポも速くなく、癖のない歌わせ方で安心して聞いていられます。何よりもこの楽団はいつも自然体であり、自発的で楽しげなところが感じられるし、音の良さで選んだというフッガー城糸杉の間での録音は毎回美しいものでした。

 ただしブランデンブルク協奏曲については、一つの主題が終わって次の展開に入るときの間を案外延ばさないところもあり、モダン楽器のパイヤールのような流麗な演奏がそのまま古楽器に置き換わったものだと期待するならば、ちょっと違います。それと今回は第1番など、部分的に弦の高音部がハイ上がりになり、線の細い聞こえ方になる箇所もあるように思います。でもホールトーンの乗ったきれいな音であることには変わりがないです。

 指揮者を置かない楽団です。コンサート・マスターのフランツ・ヨーゼフ・マイヤーが率い、この盤では名手ハンス=マルティン・リンデがフラウト・トラヴェルソを吹いています。ビブラートがかかるところが昨今のフルートとは違うのでモダンフルートかと思うかもしれないけど、音はひなびていて大変美しく、今となっては貴重です。チェンバロはレオンハルトです。ドイツ・ハルモニア・ムンディです。


1967 カール・リヒター / ミュンヘン・バッハ管弦楽団(→モダン楽器による演奏)
1968 ベンジャミン・ブリテン / イギリス室内管
(→モダン楽器による演奏)
1973 ジャン・フランソワ・パイヤール / パイヤール室内管弦楽団(→モダン楽器による演奏)


 
    seon
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Gustav Leonhardt / Sigisward Kuijken  / Lucy Van Dael
/ Frans Bruggen

バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
グスタフ・レオンハルト(指揮/チェンバロ)
ジキスワルト・クイケン(ヴァイオリン/ヴィオラ/ヴィオリーノ・ピッッコロ)
ルーシー・ファン・ダール(ヴァイオリン/ヴィオラ)/ アンナー・ビルスマ(チェロ)
ヴィーラント・クイケン(チェロ/ヴィオラ・ダ・ガンバ)/ アンソニー・ウッドロウ(ヴィオローネ)
クロード・リッパース(トランペット)/ フランス・ブリュッヘン(リコーダー/フラウト・トラヴェルソ)
パウル・ドンブレヒト(オーボエ)/ アブ・コスター(ホルン)
ボブ・ファン・アスペレン(チェンバロ)
(1976)
 1976〜77年に録音された、古楽器演奏の先駆者たちによる比較的初期のもので、グスタフ・レオンハルト(1928-2012)にクイケン兄弟、フランス・ブリュッヘン、ルーシー・ファン・ダール、アンナー・ビルスマといった古楽器界の有名人が一堂に会した演奏です。69年に設立されたセオンも、オリジナル楽器による演奏に特化したレーベルとしてこの運動の一つの旗印でした。

 ここで活躍している演奏家たちはコレギウム・アウレウム合奏団とは違い、後に典型的になって来る古楽の演奏マナーを積極的に作り上げて行った人たちです。でも時期がまだ早いため、この録音ではそのスタイルがまだ確立されていないところもあるように思います。あらためて聞くと意外と素直なアクセントに聞こえます。すでに上で述べたのピリオド奏法の特徴ごとに具体的に見てみます。

 テンポは全体に決して速くはありません。むしろ遅いところがあるぐらいです。区切れる拍子に関しては、速い部分ではスタッカート気味に行くところが若干ある程度です。逆に遅くて訥々と区切れるように感じるところは、例えば第1番の第四楽章等、一部にあります。アクセントは強めながら、不均等なリズムはさほど目立ちませ ん。フレーズの終わりでフェルマータ(バッハの楽譜には実際にはありません)を避ける傾向についても、ばさっと切るような箇所はありません。装飾音符も華美ではありません。ロングトーンでの山なりの強弱は管と弦にすでに現れているけど、今聞けばこれも不自然には感じません。

 したがってここでの演奏は、コレギウム・アウレウム合奏団のものに比べればピリオド奏法の特徴がしっかり感じられるけれども、比較的おっとりとしており、その癖が耳障りに感じるものではありませんでした。逆にこういうマナーも認めて楽しめる範囲にあります。こちらの耳が慣れたこともあるでしょう。技術的なことを言えば現代の古楽器演奏者たちよりたどたどしいところが若干感じられるかもしれませんが、難しい楽器なわけですし、むしろこのゆとりというか、楽しんでいるような雰囲気が魅力的です。
 音はどこかひなびた、ちょっと枯れたような雰囲気が感じられます。懐かしいようなオーガニックな感触が良いです。


1978 ルドルフ・バウムガルトナー / ルツェルン弦楽合奏団(→モダン楽器による演奏)



    pinnock1
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Trecor Pinnock   The English Concert  1978-82


    pinnock2
       Bach Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Trecor Pinnock   
European Brandenburg Ensemble  2006-07

バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
トレヴァー・ピノック
イングリッシュ・コンサート
(1978)
ヨーロピアン・ブランデンバーグ・アンサンブル(2006)
 ホグウッド、ガーディナーとともにイギリス古楽の御三家を成すトレヴァー・ピノック(1946-)ですが、ブランデンブルク協奏曲では
溌剌としたピリオド奏法であることには変わりはないものの、ホグウッドよりは節回しの遊びがいくらかさらっとしています。バロック音楽では大体そういう傾向があり、比べれば穏やかによく歌うのがピノックだと言えるでしょう。二回録音しているけれども、一回目(写真上)と二回目(写真下)で解釈はあまり違わないような気がします。二回目の方が明るく快活で、弾ける感じがやや強いでしょうか。一回目の方がスタティックです。速い楽章でのテンポはピリオド奏法らしく速めで快適です。一方リズムは素直です。緩徐楽章はほどほどのテンポで、盛り上がって下がる山なりのアクセントではありながら、これも割と真っ直ぐな歌い回しです。第1番第四楽章のポロネーズは静かながら速めに流します。

 一回目のアルヒーフ/グラモフォンへの録音は1978〜1982年、二回目は英国アヴィー・レコーズで2006〜2007年です。そちらのブランデンバーグ・アンサンブルはイングリッシュ・コンサートのメンバーに加え、欧州各地の有名古楽アンサンブルから人を集めています。


1980 ネヴィル・マリナー / アカデミー室内管弦楽団(→モダン楽器による演奏)
1981 ゲルハルト・ボッセ / ライプツィヒ・ゲヴァントハウス・バッハ管弦楽団(→モダン楽器による演奏)



    koopmanbrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Ton Koopman   The Amsterdam Baroque Orchestra


バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
トン・コープマン / アムステルダム・バロック管弦楽団
(1983)

 トン・コープマンは管弦楽組曲の G 線上のアリアなんか、絶品です。ということは、静かな楽章での歌わせ方のきれいさはずば抜けているわけです。バッハをこよなく愛している人、という印象もあります。1944年生まれのオランダの鍵盤奏者で、古楽のアムステル・バロックの指揮者です。彼とその楽団の演奏の特徴としては、力が抜けているということが一つと、鍵盤奏者としてのコープマンが即興の名手であるせいで装飾が豊かである、ということになるでしょうか。古楽器演奏運動の中心にいて世の中を引っ張ってきた一人ではありながら、あまり気負いのない人とも言えます。したがって語法としてはピリオド奏法のイントネーションはしっかりとあるのものの、弱音でのやわらかい動きはため息の出る美しさで、攻撃的という感じはしません。個人的に好きな第1番の第四楽章、ポロネーズの部分こそテンポが速いものの、他の静かな部分での歌わせ方はしっとりしなやかです。
弱音へと抜けるところがきれいで、古楽が苦手な人にとっても聞きやすいと思います。

 速い楽章でも力は抜けているように感じます。ベルリン古楽アカデミーよりも軽く、静かです。弾むような明るさと楽しさはベルリン古楽の方があるかもしれません。ロングトーンでの山なりの呼吸はよく聞かれます。コープマン自身のチェンバロはその才能を十分に発揮しているせいもあって、凝った装飾音符が多めです。ただ、この世代のピリオド奏法としては全体的にきばったところが少ない運びです。

 特筆すべきは第3番の第二楽章、アダージョの部分かもしれません。ここはバッハが二つの音符で締め括るように指示したのみで、後は楽譜には何も書かれていないので即興のカデンツァでやりなさい、もしくは勝手に作るように、ということなのですが、多くの楽団が短いフレーズをちょっと付け足すだけとか、どうかするとその最後の二音だけを演奏する例もある中、充実した音楽を聞かせてくれます。
チェンバロをコープマンが弾いているわけだけど、これまたこの人のバッハへの愛と博識を感じさせるもので、独立した曲としても完成度が高いと思います。何か少しフレンチな感じもしてインティメートで、聞き惚れてしまうのです。ライブの映像でも同じように弾いていましたから、その場限りの即興というよりも自信を持って完成させたものなのでしょう。1983年のエラートの録音です。



    hogwoodbrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Christopher Hogwood   The Academy of Ancient Music


バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
クリストファー・ホグウッド / エンシェント室内管弦楽団
(1984)
 若さとウィットに満ちた節回しに特徴がある演奏です。クリストファー・ホグウッド(1941-2014)はイギリスの古楽の鍵盤奏者で、エンシェント室内管は彼が1973年に設立したオリジナル楽器のオーケストラです。このホグウッド、御三家のガーディナーと同様、古典派ではさらっとやるものの、バロック音楽ではピリオド奏法的な特徴をしっかりと持ったこういう解釈が多いと思います。よく比較されるピノックよりも若々しく華やいだ感じがして、リズムも弾みます。また、管楽器の吹かせ方にも時折意外性があって面白いです。ポリフォニーでの裏のパートがくっきりと目立ったりする意欲的なところもあります。緩徐楽章も歌い回しにひねりが効いていながら、コープマンと同様に弱音へと力を抜くところがきれいです。装飾音符もピノックより多いでしょうか。そして、この演奏の一番の特徴は使っている楽譜にあるようです。通常の版とは異なり、第1番の第三楽章が抜けたり、第四楽章で楽しみにしていたポロネーズがカットされたりしています。

 オワゾリールの録音はディジタル初期にあたる1984で、やや線の細い音に聞こえるけれども十分に良い音です。



    goebelbrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Reinhard Goebel   Musica Antiqua Koln


バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
ラインハルト・ゲーベル / ムジカ・アンティカ・ケルン
(86)
 ムジカ・アンティカ・ケルンは1973年にラインハルト・ゲーベル(1952-)がドイツ、ケルン(コローニュ)で結成した、今はない古楽器の楽団です。アルヒーフ・レーベルに録音を沢山残しました。ブランデンブルク協奏曲は1986年収録です。

 古楽器演奏のマナーとして思い浮かぶ特徴を全て兼ね備えた演奏です。速いテンポでの拍は鋭角的であり、語尾は短く切り上げ、長音符の山なりの強弱も強く付いていて、不均等なリズムも若干見られます。新しい古楽器演奏のムーブメントとして伝統的なものから決別するためには、こういう表現が推進力として必要だったのかもしれません。数あるピリオド奏法のブランデンブルク協奏曲の中でも、最も特徴ある演奏の一つだと言えます。緩徐楽章は
力こそ抜けているし忙しない感じはしないものの、音を長く延ばしたりはせず、さらっと流します。したがって痛快なのでこれこそが最も好き、というファンも存在するだろうと思います。



    enlightenmentbrandenburg

       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Orchestra of the Age of Enlightenment


バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
エージ・オブ・エンライトメント管弦楽団
(1989)
 
 1986年に結成された「啓蒙時代」という名の英国の古楽器オーケストラです。ブランデンブルク協奏曲は1989年の録音です。コープマンのところにいたヴァイオリンのモニカ・ハジェット、ホグウッドの楽団にいて「四季」でソロをとっていたキャサリン・マッキントッシュとアリソン・バリーといったイギリスの実力者が加わっています。指揮者を置かない楽団です。

 イギリスの比較的新しい世代の古楽の楽団であるハノーヴァー・バンド、フロリレジウム、エガーになってからのエンシェント室内管と比較すると、この楽団が最もピリオド奏法的な癖が少ない表現をします。全体のテンポとしては、昔の伝統的なオーケストラの遅い演奏とは違うながらも概ねゆったりとしたオーソドックスな運びであり、快速に飛ばす傾向は全くありません。緩徐楽章は特にそうで、第5番の第二楽章などゆっくりしていて美しいです。

 古楽器演奏の癖が少ないと言いましたが、そういうのが好きならカナダのターフェルムジーク・バロック・オーケストラと並んで最右翼です。聞き比べてもどっちがリズムの癖が少ないだろうか、という感じです。速い楽章でもややアクセントがしっかりしているかな、運弓法に適度なたわみがあるかなという程度であって、スタッカートで飛び跳ねたりしないし、不均等なリズムもなく、大変聞きやすいものです。この二つの楽団の違いと言えば、エージ・オブ・エンライトメントの方が緩徐楽章でよりゆったり歌っているかもしれない、といったところでしょうか。
 派手さがなくて英国らしい正統派な感じというのか、女性的とも言える穏やかさが感じられ、全体にレベルの高いまとまりを見せる演奏です。これも大変良いブランデンブルク協奏曲の一つでしょう。

 第3番のアダージョはヴァイオリンで少しメロディーをつけるのみで、楽譜上の二音につなげます。

 ヴァージン・エラートの録音はあまり細くならない音で、中高域に若干明るさがあるように感じました。ほどよい残響があります。



    savallbrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
      
Jordi Savall   Le Concert des Nations

バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
ジョルディ・サヴァール / ル・コンセール・デ・ナシオン
(1991)
 ル・コンセール・デ・ナシオンは1989年にカタルーニャのヴィオラ・ダ・ガンバ奏者、ジョルディ・サヴァール(1941-)によって設立されたスペインの古楽器楽団です。この録音にはイタリアのヴァイオリニスト、ファビオ・ビオンディも加わっています。

 テンポはほどほど軽快ですが、特に速いというわけではありません。そしてピリオド楽器による演奏らしい抑揚 はあるものの、あまり癖のあるフレージングでもありません。サヴァールは時折、特に自分で弾いているときが多いかもしれないけど、同じ出身地のカザルスにも似た濃厚な歌を聞かせる人です。でもここではそこまで押し出しの強い感じはありません。緩徐楽章はゆったりしており、やはり変わった癖は聞かれません。ロングトーンでの山なりの強弱のみがあるという感じでしょうか。 落ち着いていて美しい演奏です。第1番の第四楽章もゆったりしてるけど、ポロネーズのみは静かながらも速く弾むように演奏しています。本来ポロネーズはゆったりした舞曲だと思うのですが、学問的根拠は知らないけれどもバッハの場合はこれが正解のようです。ここが囁くようだと好みなのですが。第3番の即興部分のアダージョはチェンバロで、長調で入って短く終わるものです。

 アストレ・レーベルの1991年の録音は、庭園で有名なイタリアの豪邸で収録されたものらしく、反響成分の多い音です。その反響のせいで楽器がやや遠くに聞こえる感じもあります。



    hanoverbrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
      
Anthony Halstead   Hanover Band


バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
アンソニー・ハルステッド / ハノーヴァー・バンド
(1992)

 1980年に結成されたイギリスの古楽器の楽団です。指揮者のハルステッドも英国人で、実力あるホルン奏者であり、鍵盤楽器奏者としても活躍しました。1992年録音のこのCD、レーベルの関係からか新しい世代の古楽演奏の中ではあまり知られていないような気もするけど、いい演奏です。

 速い楽章ではテンポそのものは結構速いし、弾むようなリズムではあるのですが、心地良い弾力があり、ぶつ切れ感や尖った感じはありません。スムーズで、節度と有機的な流れがあります。

 緩徐楽章でもやや速めの曲はあるし、語尾も短めながら、抑揚はよく付いています。弦の運弓と管の息遣いも山なりではあるものの、立体的で美しいです。エガーのエンシェント室内管と並んで、ピリオド奏法らしい呼吸がありながらよくこなれており、自然さが心地良い盤だと言えます。レーベルは EMI のクラシックス・フォー・プレジャーです。



    kuijkenbrandenburg1

       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
      
Sigiswald Kuijken   La Petite Bande 1993-94

バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
ジキスワルト・クイケン / ラ・プティト・バンド
(1993〜94)


    petitbandebrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
      
Sigiswald Kuijken   La Petite Bande 2009

バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
ジキスワルト・クイケン / ラ・プティト・バンド
(2009)

 ベルギーのバロック・ヴァイオリン奏者、ジキスワルト・クイケン(1944-)がリーダーになったプティット・バンドは1972年に設立された古楽器オーケストラで、ブランデンブルク協奏曲は二度録音しています。旧盤は1993年と94年で、クイケンはヴァイオリンを担当しています。新録音の方は2009年収録で、ヴァイオリンは娘のサラ・クイケンに譲り、本人はヴィオロンチェロ・ダ・スパラという肩かけチェロのような楽器を受け持っていて、それがひとつの売りになっています。この試みは古楽界で定着しつつあります。

  まず旧盤の93〜94年録音の方ですが(写真上)、「音楽の捧げもの」や古典派の四重奏など、曲によっては素直で自然な抑揚のパフォーマンスも多いクイケン一門の人々の特徴が出ており、昔からのファンにとっても抵抗感のない古楽器演奏となっています。ヴァイオリンの寺神戸亮、チェロの鈴木秀美など、日本人の演奏家も加わっているのでその方面のファンにも嬉しいことだろうと思います。テンポも全体としては極端に速いものではなく、かといってモダン楽器演奏のようにゆったりし過ぎるものでもなく、中庸と言っていいでしょう。癖がなく大変聞きやすいのでここからブランデンブルク協奏曲に入るというのもいいと思います。ただ、この人たちはベルギーといってもフランス的な流麗さや粋な遊び、色気のようなものを出すタイプではなく、常に真面目な取り組みを感じさせるところがあります。
 面白いのは第2番で活躍するトランペットがホルンになっていることです。一般に古楽器はピストン・バルブやキーがなく、口の形や息の強さ、手の突っ込み具合で音程を変えるなど、超絶技巧が必要になる場合が多いと思います。トランペットとホルンとではどちらも難しいでしょうけど、ホルンの方がより技術が要るのかもしれません。現代楽器のような正確な音程で速くきっちりとこなすことを要求するのは酷というものでしょう。木
管楽器のように材質が木と金属で異なり、くすんだやわらかさが心地良いというような違いが大きいなら、いっそ昔の材質の管にキーなどを取り付ければよさそうなものですが、それでは HIP としての当時の演奏の再現という理念にはかないません。レーベルはドイツ・ハルモニア・ムンディです。

 一方、2009年の新盤の方(写真下)は、時代の流れとは逆ながら、
ジキスワルト・クイケンがソロでヴァイオリンを弾くときのように、旧盤よりもピリオド奏法的なアクセントが目立つような気もします。第2番など、緩徐楽章でも訥々と区切れた感のあるリズムでゆっくり進め、拍にも強弱があります。こうした遅いパートでの長音符のフレーズも延ばさずに打ち切ったり、反対にルバート気味に遅れて入って長く引っ張ったりもします。したがって叙情的という感じがしません。いつもよりちょっと学究的姿勢に寄っているかな、という印象でした。そして両端の一、三楽章では旧盤がホルンだったのに対し、通常のトランペットに戻っています。ただし古楽器ですから吹くのはやはり難しそうです。当然ながらモダンのモーリス・アンドレのようには行きません。
 第1番のホルンもおどけたようで目立っており、特徴があります。でもいくつかの楽団がこれをやるので、きっと何か根拠があるのでしょう。第四楽章のポロネーズ部分もピリオド奏法流儀でさっと流します。そして仲間うちのリラックスした感覚はこの盤の魅力かもしれません。尖った感じはなく、陶酔感もなく、平常心でゆったりしています。それでも第4番と第6番の第二楽章は粘りつつよく歌っているでしょうか。しんみりして心地良いです。
 第5番の第二楽章はせき立てる声にコントロールされることはなく、雨上がりの秋の牧場をのんびりと景色を味わいながら歩いているようで大変良いと思います。
 第3番の即興部分のアダージョはクイケンのヴィオロンチェロ・ダ・スパラによる短いものです。牧歌的で、どこか独り言のようです。
 レーベルはドイツ/ベルギーの古楽に振ったアクセント(アクサン)です。



    pearlmanbrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
      
Martin Pearlman   Boston Baroque
♥♥

バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
マーティン・パールマン / ボストン・バロック
(1993〜94)
♥♥
 アメリカの楽団による演奏です。ヨーロッパ勢と違って日本ではあまり紹介されず、知られていない様子なのが残念です。ヘンデルのメサイアが素晴らしく、ホグウッド盤と並んで最も気に入った演奏となりましたが、このブランデンブルク協奏曲も同曲集一、二を争う魅力的な録音でした。ボストン・バロックは1943年シカゴ生まれの古楽の鍵盤奏者、マーティン・パールマンによって1973年に結成されたピリオド楽器によるオーケストラです。どのパートも自発的で活きいきとしています。

  速い楽章では明るく快活に弾み、切れはあるけどアクセントにはあまり癖はなく、生真面目にならない生きた呼吸が爽やかな演奏です。ベルリン古楽ほどはピリオド奏法的ではないけど、同じような生命力があると思いました。古楽の楽団であっても学問学問しておらず、聞いて純粋に喜べる魅力的なブランデンブルク協奏曲となっています。緩徐楽章もゆったりで情緒纏綿ということはなく、ほどほど快活なテンポで行くところは最近の古楽器奏法的ではあるものの、瑞々しく鮮やかな歌のある運びで気持ち良いです。フレーズの終わりで優しくテンポを緩めるような処理も聞かれるし、第1番第四楽章のポロネーズもそんなに遅くはないものの、古楽の楽団としては静けさがあります。

  第2番のトランペットも古楽器であるはずですが、細かなトリルが引っ込むところはあっても自然で引っ掛かりがなく、無理のない吹き方をしており(フリーデマン・インマー)、力強く輝かしくはないにせよ気持ち良くて気になりませんでした。第3番の第二楽章はヴァイオリンで少しだけ断片的なフレーズを弾いて二音でまとめます。第4番のクリストファー・クリューガーによるリコーダーも見事です。 

 第5番も気合いが入り過ぎず、楽しんでいる雰囲気があります。所々撫でるようなフラウト・トラヴェルソの旋律線が心地良く(リコーダーと同じくクリストファー・クリューガー)、パールマンによるカデンツァもさらっとしながらも余裕をもって立ち止まるような間を設けていて力まず、味わいがあります。追い込むところでは十分気迫も感じられ、見事なチェンバロです。第二楽章のひなびたフラウト・トラヴェルソとヴァイオリンの絡む余裕のある泣き具合もいい塩梅です。ヴァイオリン・ソロはダニエル・ステップナーです。

 1993〜94年のテラークの録音はバロック・ヴァイオリン群の音が繊細で瑞々しく、明るくはっきりした音ではあっても自然な潤いの感じられる録音で、残響もほどよく心地良いです。CD は二枚に分かれて出た後、全集としても出ました。



    tafelmusikbrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Jeanne Lamon   Tafelmusik Baroque Orchsestra


バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
ターフェルムジーク・バロック・オーケストラ
(1994)

 ヴァイオリンのジーン・ラモン(1941-2021)率いるターフェルムジーク・バロック・オーケストラは1979年にカナダのトロントで結成された比較的新しい世代の古楽器の楽団ですが、ベルリン古楽アカデミーやフライブルク・バロック・オーケストラなどと比較されることもある、以前の典型的なピリオド楽器の奏法とは違ってすっきりとした優雅な演奏を聞かせる団体です。
 ブランデンブルク協奏曲は1994年録音で、上記の二楽団よりやや早い時期に録音されました。音がきれいで奇抜なところがなく、誇張されたリズムの癖もありません。この感覚はリーダーの性質かどうかは分からないけれども、少なくともこの楽団の周波数です。他に指揮者を迎えて演奏する古典派以降の作品でも同じような波長を感じさせるものとなっています。安心できる誠実さに満ちており、古楽系では癖が少ない部類に入るでしょう。洗練された美しい演奏です。

 ピリオド奏法的なアクセントが少ないという意味では、イギリスのエージ・オブ・エンライトメントやフロリレジウムとも比較できるかもしれません。この中でフロリレジウムは特にフルートとチェンバロに、また全体の歌わせ方にもその楽団らしい個性を見せるけれども、ターフェルムジークの方はもっと癖が少ない感じがします。フライブルクもそうかもしれないけれども、あちらはもう少しテンポもフレージングもきびきびしています。エージ・オブ・エンライトメントとの比較はちょっと難しいですが、緩徐楽章でよく歌わせるのはエージ・オブ・エンライトメントで、ターフェルムジークは情緒はありながらも、若干テンポが速い傾向があるでしょうか。
楽章の後半部分でぐっと速度を落とす曲もあるけれども、平均して端正ですっきりとした歌となっています。いずれにせよ、古楽演奏の癖の少ない古楽器団体のCDとして勧められるのは、コープマンやラ・プティット・バンドの旧盤もいかもしれないけど、主にはこの二つかもしれません。

 また、同じく良いなと思ったベルリン古楽アカデミーと比較してみると、速い楽章ではベルリン古楽ほど弾む感じではありません。速過ぎず節度があり、静けさと弾むような軽やかさの間でバランスしていて美しいです。一方緩徐楽章ではベルリン古楽と同様のゆったり感はあるものの、比較するとややおとなしい歌わせ方に感じます。その代わりに静けさ、良い意味でのスタティックさがあります。ただ、おとなしいと言ったのはベルリン古楽アカデミーが場所によっては大胆で独特の節回しをするとすれば、の話であり、他の様々な楽団の中でもこのターフェルムジークの緩徐楽章は静かに抑揚を付けて歌わせており、優美です。第3番の第二楽章での即興のアダージョ部分はリーダーのヴァイオリンによるもので、ちょっと無伴奏ソナタとパルティータの中の曲を思わせる出来です。

 録音技師がいいようで、音は優れています。音像は近くないものの適度に残響が乗り、弦が繊細に聞こえます。 第1番の第二楽章など、しっとりとしてとても美しいです。レーベルは自前のターフェルムジーク・メディアです。



    ilgardinobrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
      
Il Giardino Armonico

バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
イル・ジャルディーノ・アルモニコ
1996)
 
 イタリアはミラノで、1985年に結成された古楽アンサンブルです。コンチェルト・イタリアーノ同様、これも速い楽章でのテンポは軽快です。ただ、第1番ではホルンが頑張って特徴ある元気な吹き方をするのがやや目立ちます。他の演奏でもホルンにこういう吹き方をさせるものがいくつかあると言いましたが、これもそうです。全体にはやはり華やかで明るいイタリア風の遊びがあり、楽しさを感じる演奏です。緩徐楽章はほどよいテンポで、アレッサンドリーニよりはさらっとして速めながら、よくうねる抑揚がいかにも古楽演奏的です。

 1996〜97年のテルデックの録音はあまり反響の多い音ではありません。とにかく全体にホルンが特徴的です。第3番のアダージョは物憂げなヴァイオリンの短い泣きとなっています。



    alteberlinbrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
    
  Akademie für Alte Musik Berlin ♥♥

バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
ベルリン古楽アカデミー
(1997)♥♥
 古楽器によるピリオド奏法の範疇に入る演奏のなかで、ボストン・バロックと並んで個人的には最も気に入った CD の一つです。こちらの思い入れがあるモダン楽器のパイヤール盤と比べても甲乙付け難いです。ピリオド奏法の特徴をはっきり持ってい る部分もありますので、どうしてもモダン楽器のような演奏でなければだめな人には勧められませんが、なぜか全く気になりませんでした。ハルモニア・ムンディからのブランデンブルク協奏曲としては最初のもので、1997年の録音です。ジャケットの写真はターフェルムジーク・ オーケストラのと良く似ていて混同してしまうけれども、これはブランデンブルク州ポツダムにあるサンスーシ宮殿の太陽の彫刻部分を写しているからであり、かぶっても仕方がないでしょう。このページの頭に掲げた写真も同じです。
サンスーシ宮殿はバッハが曲を捧げたクリスティアン・ルートヴィヒと同じホーエンツォレルン家の持ち物です。

 このベルリン古楽アカデミーは1982年に旧東ドイツ側だった東ベルリンで結成された団体です。当時はいくつかのオーケストラから若手が集まったようだけど、ピリオド奏法のムーブメントの中では比較的新しい世代に 入る団体です。ドイツに限らず旧東側の人たちと聞けば、派手なスタンドプレーには縁がなく奇抜な解釈もないけど、楽譜通り以上に呼吸のある、熟成した味を出す楽団なんじゃないかな、という期待をしてしまいます。わが国では「いぶし銀」などと評されるような種類です。それでこの楽団もそういう範疇かと言うと、確かに良識的な大人っぽさはある一方、東側ってこんなに洗練された先鋭さも出すんだという驚きも感じました。知的で大胆に計画されつつ知に傾かないもので、音楽の自発的な呼吸を失わないバランスを持った演奏と言えます。つまりここはこう区切ろうというように頭で考えた進行ではなく、前もってそう考えているにしても、音が自らそう鳴りたがっているかのような自然な進行なのです。しかしながら、自在なテンポ設計がされており、次の展開に入るときに一つの楽器が抑揚を抑えた持続音で橋渡しをするというような独特のフレージングもあり、個性的な計画性もあります。指揮者を置かない団体では誰がこうした精巧な計画を担ってるのでしょう。各プレイヤーに任されているというには統一性があり過ぎます。三人いるというコンサートマスターでしょうか。
 鮮烈なのに自然。こういう感覚を覚えさせるグループは世界広しといえども少ないような気がします。

 速い楽章は軽く弾みながら、自在で楽しげです。大変上手なのでしょう、テンポそのものはかなり速いのに、ピリオド奏法特有のやたら速い感じはせず、そよ風のような心地良さがあります。見せつける意図のようなものがありません。そして音符間、楽器間の受け渡しにおいて、一方からもう一方への投げて捕まえてが生き物のように弧を描き、スムーズにつながって行く小気味良さがあります。生きたメロディーライン、生きた音符という印象です。それでもこの速さが苦手なら、エイジ・オブ・エンライトメント、ターフェルムジーク、フロリレジウムなどに行くかもしれませんが。

 緩徐楽章での歌わせ方は一転してゆったりとした抑揚があり、間も取ります。ピリオド奏法だからといって速く流したりはしません。第5番の第二楽章のみ他より若干さらっとしたテンポながら、どれもじっくりとした味わい深さがあります。そしてここの奏者たちは
スタープレーヤーが客演しているわけでもないのにかかわらず、難しいトランペットやホルンももたつかず、ストレスを感じません。第1番でのオーボエも良いです。前述エイジ・オブ・エンライト メント、ターフェル ムジークももちろん素晴らしいけど、この楽団には独特のセンスがあります。フライブルクの乾いて揃ったアンサンブルというのともまたちょっと違った上手さだと思います。

 女性的で美しいという意味ではコープマンもいいけど、この楽団はコープマンよりは「オン」な感じです。アムステル・バロックほど静かに抜く部分で抑揚を付けず、でも全体によく歌います。コープマンは力の抜けた繊細な魅力、こちらは夕焼けの空がまぶしく輝いているような強さのある美しさです。フロリレジウムと比べると、これもセンスの違いがあるように感じます。よりゆったりしたテンポで大きく波打たせ、速度を緩める仕方に粋を感じるフロリレジウムに対し、ベルリン古楽には軽くて自在な躍動感があります。
 第3番の即興部分のアダージョはチェンバロで、ちょっと半音階的幻想曲とフーガを思わせます。

 録音の加減もあるかもしれませんが、通奏低音の動きがよく分かり、全体が立体的に聞こえます。したがってよく聞く表現だけど、地味な弦楽合奏だけの第6番でさえ、彼らの手にかかると魅力的な音楽として再発見されます。第二楽章など、ヴィオローネの低音弦が音符一つずつではなく、つながった持続音のように感じさせるところ が特徴的で、何度も聞きたくなります。そしてポリフォニーだから当たり前というわけではなく、低音楽器が平等に力強く歌います。その低い音も下までずしっとよく出ています。チェンバロの音の繊細さも特筆に値します。このように、録音の面からも大変優れています。



    alessandrinibrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Rinaldo Alessandrini   Concerto Italiano
 

バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
リナルド・アレッサンドリーニ / コンチェルト・イタリアーノ
(2005)
 リナルド・アレッサンドリーニ(1960-)はエウロパ・ガランテのチェンバリストで、コンチェルト・イタリアーノは彼が1984年に結成した古楽器の楽団です。2005年のブランデンブルク協奏曲は鹿がパーキング・ロットに迷い込んだような不思議なジャケットが印象的です。

 速めのテンポだけど生真面目なドイツ勢とはまた違った印象で、速い楽章ではスタッカート気味のリズムではあるものの、所々、あるいは小節によってテヌートだったりして遊びが感じられます。全体に軽い感じがします。ところが緩徐楽章では案外ゆったりです。歌もののようなカンタービレで、そんなところもイタリア的でしょうか。軽快で楽しくもあり、同時に叙情的でもあります。第1番第四楽章のポロネーズは大変静かな音量で、案外ゆっくりしっとりしているのは意外でした。

 全体的にリズムはやや弾み気味で所々延ばしたりはするので、ピリオド楽器の団体だなという感じは強くあります。そしてこれもイタリア的と言っていいのかどうか、場所によっては長い間が多少作為的に感じる部分もあったりします。でも攻撃的ではなく、案外心地良いです。第3番のアダージョの即興部分は短いチェンバロで、長調の楽しげな音です。レーベルはフランスのナイーヴです。



    abbadobrandenburg
      Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
 
     Claudio Abbado   Orchestra Mozart


バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
クラウディオ・アバド / モーツァルト管弦楽団
(2007)
 色々と技巧派の演奏家と親交が深かったイタリアの大指揮者、アバドも2014年に亡くなりました。晩年はボローニャに若者だけで構成されたモーツァルト管弦楽団を設立し(2004)、後進の指導に当たっていました。その演奏スタイルはメジャー・オーケストラとやっていたときの遅く大きく歌う流儀とは異なり、古楽器の楽団ではないにしても、ピリオド奏法的な色合いが濃いものでした。モーツァルトもそうでだったけど、2007年のライヴであるこのブランデンブルク協奏曲も軽快なピリオド奏法タッチでやっています。オリジナル楽器によるものという分類には入らないけれども、スタイルの上からここに配置しました。ヴァイオリンにジュリアーノ・カルミニョラを迎えています。

 弾むリズムで速めの溌剌とした進行です。コープマンとは違って弱音へと抜いたりしんみりしたりはしないです が、力まない静けさはあります。リズムは引きずらず軽いものです。第1番ではホルンもコミカルに強調されたりはせず、軽やかかつまろやかに鳴ります。緩徐楽章はロングトーンの山なりの強弱が大きいですし、特にゆっくりのテンポ設定でもないのだけど、力が抜けており、きれいさ、静けさはあります。したがって奇抜でおどけた感じにはなりません。区切りの終わりの音符はやはりピリオド奏法流儀で長くは延ばしません。個人的にいつも期待して聞く第1番第四楽章のポロネーズはこうした奏法ににしては驚くほど静かだけど、二音ずつ組の音を片方を長く、もう一方を短くしたイネガルとし、スキップしているようなリズムを聞かせます。展開部はこれもピリオド奏法のセオリーで元気よく行きます。第3番のアダージョははチェンバロで短いものです。

 レーベルはドイツ・グラモフォンです。DVDも出ています。残響は少なめです。




    eggarbrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Richard Egarr   Academy of Ancient Music


バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
リチャード・エガー / エンシェント室内管弦楽団
(2008)

 1973年にホグウッドによって設立されたイギリスの古楽器楽団、エンシェント室内管弦楽団ですが、ここではホグウッドではなく、2006年から音楽監督を務めている、同じくチェンバロのエガーがリーダーになっています。古楽ムーブメントの旗頭だった楽団の、新しい世代になっての演奏ということになります。3つあるハルモニアムンディ・レーベルの録音としては、ベルリン古楽アカデミー、フライブルクの間で、2008年録音です。

 一部で過激な演奏だという評もあるようですが、その意味するところはよく分かりませんでした。後発のフライブルク・ バロックオーケストラより静かでやわらかな運びであり、あっさりした印象もあります。きばっているようには聞こえません。激しいというならむしろ以前のホグウッドやゲーベルの方がピリオド奏法的なイントネーションが強いのではないでしょうか。しかし古楽らしいアクセントがないかと言えば割合はっきりと、あるはあります。特に第1番で顕著に付いているように思います。第一楽章での展開において部分的にテヌートにしてコントラストを付けたり、第二楽章で速めのテンポをとって語尾を延ばさなかったり、第三楽章でルバート様の拍の遅れを導入したり、第四楽章を引きずるようなリズムでやったり、という感じです。ロングトーンでの山なりの強弱もあります。しかしどれも嫌みなほどではなく、また残りの楽曲は案外素直なフレージングで進めているようにも聞こえます。

 全体としてのテンポは、ゆったりしたところと速めにさらっと流すところの両方があるけれども、本来速い楽章だから速いとか、緩徐楽章だから遅いという決めごとはなく、個々に設定しているようです。緩徐楽章で具体的に言いますと、第1番はやや速め、2番と3番は適度なテンポ、4番は適度にゆったりめ、5、6番ではしっとりゆったりという感じです。やや速めのテンポをとった場合でもしなやかさは失わず、通奏低音のリズムはともかく、旋律線を受け持つ楽器は滑らかにつなぐ傾向があります。管弦楽組曲は全体に穏やかで、テンポも割合ゆったりしたところが目立ってましたが、ブランデンブルク協奏曲では同じ傾向ながらもう少し変化を付けているとは言えるかもしれません。緩徐楽章でも速めであっさりしている箇所があると言いましたが、そういう部分でフライブルクと一番違うのはそよ風のような軽さが感じられるところでしょうか。ホグウッドはいかにも古楽器楽団という感じで色々やって頑張ってたけど、エガーもピリオド奏法らしさはありながらも、世代の違いなのかこなれていてよりスムーズです。新しい世代が概ねこの方向に変化して来ているのは嬉しいところです。

 そしてこの盤で魅力的なところの一つに録音も挙げられます。ハルモニアムンディ・フランスはいつもほとんど外れがないけど、ここでは残響は多めで潤いがあり、低音は軽めに聞こえるながら硬くならず、細身の弦がきれいに響いて心地良いです。



    gardinerbrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       John Eliot Gardiner   English Baroque Soloists


バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
ジョン・エリオット・ガーディナー / イングリッシュ・バロック・ソロイスツ
(2009) 
 ホグウッド、ピノックと並んでイギリス古楽界の草分け的存在であるガーディナーです。モーツァルト等古典派 の演奏では端正ですっきりとした、ピリオド奏法の癖をあまり強く感じさせない正統派の演奏を聞かせるものの、バロックのバッハともなると、例の弾むような快速リズムや盛り上がるような抑揚が付いています。ホグウッドやピノックと比べてもそれは言えるように思います。装飾音符も大胆で、ホルンに遊びのある動きも聞かれます。酔っぱらったような足取りの不均等リズムもあったりします。個人的にこの人に期待していたのはもう少し素直な歌い回しだったのだけど、学術的にはこういう解釈が正しかったのかもしれません。しかし不思議なのは1983年にエラートに録音した管弦楽組曲の方は、あの旧知の端正なガーディナー節だったことです。テンポこそやや速めのところもあり、フレーズの終わりの音符を延ばさずに切るところはいかにもピリオド奏法時代という感じであって、それは第2番のフルートのパートですらそうだったのだけど、それでも大変すっきりとして誇張がなく、素直な演奏でした。その当時にブランデンブルク協奏曲を録音していたらあんな感じで演奏したのでしょうか。つまり、時間的経過で解釈が変わったのかな、と普通なら推測するところです。それともガーディナーが、ブランデンブルク協奏曲というものを管弦楽組曲とは別の性質の楽曲として捉えているということでしょうか。これについては本人が、ブランデンブルク協奏曲は舞曲であり、今日のジャズやロックのような音楽だと発言していますので、案外そういう意味でこうした動きのある演奏になったのかもしれません。したがってガーディナーのこのブランデンブルク協奏曲、テンポは遅くありません。しかし静かな部分では、音節を延ばさず速めの進行ではあっても、この人らしく繊細に歌っていて気持ちが良いです。トータルで好みの方向ではなかったけれども、逆に非常に個性的であり、多くの録音の中にあっても意義の感じられるものだと思います。いつも上品だったガーディナーがこれだけ個性的というのも、いい意味で殻を破ってるようにも感じました。最近になってこんな一面も出して来るようになったみたいです。一番面白い演奏かもしれません。

 録音はガーディナー自身が立ち上げた SDG (Soli Deo Gloria) レーベルです。2009年と比較的新しく、古楽界の大御所がそれまで録音していなかったのは不思議な感じもします。残響は少なめです。



    cafezimmermannbrandenburg.jpg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
      
Café Zimmermann

バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
カフェ・ツィンマーマン
(2010)
 カフェ・ツィンマーマンはブエノスアイレス出身のヴァイオリニスト、パブロ・ヴァレッティとフランス人のクラヴサン奏者セリーヌ・フリッシュによって1998年に設立された、珍しくフランスの古楽団体で、バッハがいつも仲間と集っていたライプツィヒの溜まり場的コーヒーハウス(詳しいことは「コーヒー・カンタータ」のページで触れています)
の名前に因んで命名されています。新世代の古楽などと言われるようだけど、コーヒーハウスで演奏する雰囲気を出したせいか面白いブランデンブルク協奏曲の最右翼で、その思い切りの良い弾け具合は昔のラインハルト・ゲーベルなどむしろ保守的に思えるぐらいです。バッハの権威などどこ吹く風なのはフランス的でしょうか。でも後で触れる昔のパイヤール盤とは違った方向のフランス趣味と言えるでしょう。ファン層はリヒター盤とは真逆かもしれません。しかし全体に爽やかで明るく弾み、楽しくていいと思います。

 表現の上では軽やかに沈んでは戻る抑揚があり、ピリオド奏法らしくスタッカートを用いてフレーズの語尾を短く切ります。テンポも第1番の第一楽章、第5番の第三楽章、第6番の第三楽章を除いて全体にかなり速めで す。第1番の第四楽章のスピード感は相当なもので、途切れとぎれのスタッカート急行はおふざけかと思うほどです。第2番のトランペットも明るく、進軍ラッパのようだったりおどけてるようだったりします。心地良く活気 あるリズムと相まって独自の存在感を示しています。また、第6番の第二楽章には独特の爽やかさがあり、他では聞けません。 

 レーベルはアルファ・レコードで、2000年から2010年にかけて録音されました。



    freiburgerbrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
 
      Freiburger Barockorchester


バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
フライブルク・バロックオーケストラ
(2013)
 1987年設立のこの楽団は、旧東側に1982に設立されたベルリン古楽アカデミーとよく比較されるでしょう。新しい世代のドイツを代表する古楽器の楽団です。近年活躍がめざましく、ミサ曲ロ短調などで注目された方も多いのではないでしょうか。アンサンブルの揃った技術の高さが印象的で、現代的で歯切れが良く、いつも完成度の高い CD をリリースしている印象があります。ブランデンブルク協奏曲は切れが良くて痛快な演奏です。でもアクの強い演奏という意味ではありません。前の世代、古楽のムーブメントを確立した世代よりもストレートで癖が少なく感じます。速い楽章ではベルリン古楽アカデミーほど弾む感じではなく、真面目で適度に軽快なリズム運びです。緩徐楽章はやや速めで、短い歌わせ方になっています。個人的にはもう少しリラックスした運びが好みだけど、冬の朝のようにきりっとしていてこの楽団らしい特徴があると言えるでしょう。2013年録音と、ハルモニア・ムンディのブランデンブルク協奏曲としても後発なもので、音も良いです。



    froliregiumbrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
 
 Florilegium ♥♥


バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
フロリレジウム
(2014)

「フロリレジウム」という言葉は中世のラテン語に発したもので、花を集めたもの、花の図鑑、もしくは作品から抜粋したものを集めたもの、という意味だそうで、名詩集とも訳されます。そしてこのブーケのような演奏をするフロリレジウムという団体は1991年にロンドンで結成されたイギリスの古楽オーケストラです。リーダーはフルート(フラウト・トラヴェルソ)のアシュレー・ソロモン(1968-)で、リコーダー(ブロックフレーテ)も受け持ちます。やわらかくて軽々と演奏する印象で、静かなところでは繊細に力を抜いてやさしく撫でるように吹きます。いいフルートです。

 ブランデンブルク協奏曲は2014の録音で、ここで取り上げる中では最も新しいものです。イギリス古楽と言えばピノックのイングリッシュ・コンサート、ホグウッドのエンシェント室内管、ガーディナーのイングリッシュ・バロック・ソロイスツが切り開き、エージ・オブ・エンライトメント、ハノーヴァー・バンド、リチャード・エガーに引き継がれたエンシェント室内管などが最近の世代に属します。フランスの楽団がフランスものばかりやってバッハのCD をあまり録音してくれない中で、古いもの好きのイギリス人たちはたくさん出してくれてます。そしてそれらの中でもこの楽団の演奏は変素晴らしいもので、数あるピリオド楽器によるブランデンブルク協奏曲の CD の中でも個人的には大変気に入った盤となりました。第4〜6番の入った一枚目に限れば♡
です。ボストン・バロックやベルリン古楽アカデミーも良いので、傾向の違うものに順番はつけ難いわけですが。

 演奏は攻撃的な古楽とは正反対です。きばった波長を感じないのです。ピリオド奏法として確立されてきたマナーが目立たないという意味ではカナダのターフェルムジーク・バロック管、英国のエージ・オブ・エンライトメントと並んで素直な展開で、アクは強くない部類に入ります。ただし癖がないわけではなく、駆け出す方向ではなく、ゆっくりと引き延ばす方向にピリオド奏法的なアクセントがあると言えます。モダン楽器の演奏に比べればリズムに揺らぎがあるし、運弓法、呼吸の点で盛り上がるイントネーションも認められます。第2番の第二楽章などで特によく分かるかもしれません。単に癖の絶対量で言うならエージ・オブ・エンライトメントやターフェルムジークの方が少ないでしょう。

 テンポは全体にゆったり方向であり、古楽的快速列車ではありません。緩徐楽章はよく歌います。第1番の緩徐楽章こそさほど遅くはなくて語尾もさらっとしてるし、第四楽章のポロネーズも速めに流しますが、トリオ1はゆったりしています。それ以外の曲は概ねゆったりです。上述した他の楽団との違いは粋な崩しがあることで、それがささやくようにやさしく、息遣いもデリケートです。間の取り方に独特の部分があり、一つのフレーズを強調するときに歩を緩める傾向が聞かれます。モダン楽器演奏とは明らかに違う「柔」の演奏、と言えるでしょう。

 柔といってもコープマンとは別の意味で力が抜けています。時折金管を輝かせることもあるコープマンは弱音へ抜けるやわらかさが印象的だったのに対し、こちらは速度を緩める方向へ力を抜きます。そして全体にほわっとした抑揚で進んで行きます。特にリーダーのフルートに言えるけど、リズム・セクションが展開する上で長く延ばされる音符において、わざと抑揚を押さえて静かに引っ張り、語尾も本来のリズムより延長するところがあります。そのフラウト・トラヴェルソが活躍する第5番の第二楽章は絶品で、しっとりと吹かれるその音には惚れぼれします。フルートの良さはこの楽団の強みでしょう。管弦楽組曲でもフルートの活躍する第2番だけ出しているほどです(カンタータ等とのカップリングであり、1、3、4番はまだのようです)。第4番のリコーダー持ち替えのパートも良いです。全ての曲とパートで技術的に完璧な演奏ではないかもしれないけど、第4番と第5番は色々あるブランデンブルク協奏曲の中でも最高の一つな気がします。チェンバロ担当はグループ立ち上げ時の主導者ではなく、テレンス・チャールストンです。本来ならすらっと速弾きされるトリルにおいて、むしろ遅めに間を取ってみせるところが印象的です。それはフレーズの頭に向かって飛び込まず、ルバート気味にためを取るところにも現れています。フルートと同じ周波数を共有してると言えるでしょう。

 レーベルはチャンネルクラシックです。一般的な古楽の録音がバロック・ヴァイオリンの細い倍音がよく聞こえる高域の繊細なものが多いのに対し、この新しい録音は低音が出ており、若干低い方に寄っているバランスです。かといって高音弦が引っ込むわけでもなく、
わずかに中高域に張りがあってヴァイオリンの合奏で硬めな箇所がないでもないでけど、きらきらしない自然な音です。優秀録音です。

 それと、これはかなり低音が出る機器に限るけど、ハムに近い低い周波数でハウリングしているところがありました。楽音と部屋の共振周波数が合ってしまったのでしょうか。特に二枚目の第3番の出だしと第1番の一部に顕著です。楽器が鳴り始めると分からなくなるし、コンパクトスピーカーでは全く聞こえないので問題ないとも言えるけど、。サブソニック・フィルターで切るか、バンドパスで落とすかして欲しいところです。



モダン楽器
による演奏


    imusicibrandenburg1
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       I Musici 1965

  
    imusicibrandenburg2
       Bach Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       I Musici 1986


バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
イ・ムジチ
(1965/86)
 日本で人気の高いイタリア伝統のイ・ムジチです。1952年にローマで結成され、「四季」では断トツのセールスを誇って来ました。
ブランデンブルク協奏曲は1965年にフェリックス・アーヨ(初代のヴァイオリン)の下で録音しており、マクサンス・ラリュー、セヴェリーノ・ガッゼローニ、ハインツ・ホリガー、モーリス・ブールグ、モーリス・アンドレ、フランス・ブリュッヘンらが参加していました。ホリガーにブールグなんて最高のオーボエ競演だし、豪華メンバーという意味では最右翼です。演奏については、今の時代からするとゆったりしたテンポ、一定して平坦なリズムに聞こえます。楽章の終わりで速度が緩むぐらいでしょうか。緩徐楽章も穏やかで、振り幅は大きくないながらたっぷりと歌います。フィリップスのアナログ録音はこの頃からすでにきれいな弦の音で、良いバランスでした。

 1986年にはピーナ・カルミレッリ(vn)の時代に新しい録音を出しました。ここでも旧盤やマリナー盤にも顔を出していたオーボエのホリガー、フルートのガッゼローニ、そしてホルンのヘルマン・バウマンなど、名手が揃っています。演奏の特徴としては、特に緩徐楽章ではゆっくり歌うけれども、アーヨの時代とは違って全体には中庸のテンポです。リズムは比較的くっきりとしています。例えば第5番の第一楽章など、タッタッタッとはっきり区切っています。語尾はパイヤールのようにはやわらかく静かには延ばさないすっきり感のあるもので、これはピリオド奏法が流行した影響でしょうか。こちらは残響が少ないです。




    karajanbrandenburg1
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Helbert von Karajan   Berliner Philharmoniker 1964-65


バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
ヘルベルト・フォン・カラヤン / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(1964〜65)


    karajanbrandenburg2
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
      
Helbert von Karajan   Berliner Philharmoniker 1978

バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
ヘルベルト・フォン・カラヤン / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(1978)

 カール・リヒター、イ・ムジチと並んで、モダン楽器のブランデンブルク協奏曲としては三大人気演奏の一つです。特にこのカラヤン盤は有名な大オーケストラが演奏するものの代表例ということになります。ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908-1989)とベルリン・フィルによる名盤です。二度の録音があり、1964〜65年のものと、78年のものが出ています。両者での歌わせ方やテンポ設計は基本的には変わりません。それぞれよく言われるカラヤンの60年代、70年代の演奏/録音の特徴が出ていると言ってよいでしょう。

 65年盤(写真上)ですが、
速い楽章でのテンポは78年盤より若干遅めで、音は直接音が多い感じに聞こえます。全体に明るくて若々しく、爽やかな印象です。
 緩徐楽章では、バロックであってもいわゆるカラヤン・レガートを地で行った重厚流麗な歌い方に違和感を覚える人もいるかもしれません。これでもかというたっぷりとした運びでロマン派のバッハと言えます。でも当時はこれが普通でした。カラヤンの他の時代の楽曲の演奏と比べるなら、これでも軽やかだと言えるでしょう。ただし第1番の第四楽章では非常に遅くて滑らかなのに驚きます。そこだけは呼吸が出来ないと思うほど濃密です。ポロネーズの部分は静かでゆっくりなのはありがたいものの、やはりカラヤン・レガートという感じで、ずっとつながった音という印象があります。

 78年盤(写真下)の方は編成が小さくなったということだけど、65年盤よりは音像が奥まっており、広いホールに響いている感じです。より磨きがかかった演奏で、若々しさでは前の録音の方が勝ると思います。演奏のマナーはやはりカラヤンで、速い楽章ではさほど目立たないけれども、緩徐楽章では滑らかなレガートが印象的です。65年盤でもそうだった第1番の第四楽章など、つながって大きく波打ちながら流れる様がもっと後の時代の曲のようです。



    richterbrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
 
    
Karl Richter   Munchener Bach Orchester

バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
カール・リヒター / ミュンヘン・バッハ管弦楽団
(1967) 
 ミュンヘン・バッハ管弦楽団は1955年にカール・リヒター(1926-1981)がミュンヘン・フィルやバイエルン放響などから設立した楽団です。リヒターはバッハの権威であり、神話です。したがってこの録音を好む人は必ずこれなので、ここでコメントすることはあまりないかもしれません。
 でもこのリヒターに対するこの尊敬は日本でだけの現象ではありません。YouTube でフランス人が現代のピリオド楽器の演奏を評して「ひどい指揮者だ。深みがなく魂がなく内容もなく、ファッションだけだ、悪夢だ。カール・リヒターでなくては」と言ってたりもします。ドイツ人ではなくフランス人です。それに対して別の人は「リヒターは聖なる形而上学的な記念碑的演奏だけれども、寝転んで空を見上げられる場所は地球上にはたくさんあるんじゃないか」と反論してました。

 録音は1967年です。ハンス=マルティン・リンデやヘルマン・バウマンといった名手が参加しています。リヒターは常に「峻厳」、「荘厳」となどと評されるけど、やはり厳しい印象の演奏ではあります。速い楽章ではミュンヒンガーほどごつごつはしないながら、かっちりとしたリズムで真っ直ぐに進めます。全体にはやはり余分な情緒に流されることのない演奏だと言えるでしょう。ただしヴァイオリンのソロ・パートなどで、ビブラートのせいもあってか案外ロマンティックに聞こえる箇所もあり、分厚い大きな抑揚でまったり歌っていたりもします。第1番第二楽章のラストなど、時折ドラマティックな強調もあります。その緩徐楽章についてだけど、古楽器演奏ブーム後の現在から見れば決して速くもなく、伝統的なマナーでよく歌っているように聞こえます。スラーとビブラートのかかった切れ目のない弦の運びに時代を感じるところもあります。第1番第四楽章のポロネーズはリズムがくっきりしていて静かです。 第3番のアダージョはリヒターによる実直なチェンバロです。音色はアンマー・チェンバロのような太い音です。



    brittenbrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Benjamin Britten English Chamber Orchestra

バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
ベンジャミン・ブリテン / イギリス室内管(1968)

 これはブランデンブルク協奏曲の中でも安心して聞ける正統的派の演奏だと思います。ベンジャミン・ブリテン(1913-1976)盤です。旧東側の楽団同様、英国紳士も中庸で派手にならない真面目な演奏をすることが多いけれども、これもそうです。マリナーの場合は小編成で快活なところがあります。一方で同じイギリスでもこちらは適度にゆったりしたテンポをとり、古楽系とは違って滑らかな歌わせ方です。リズムはミュンヒンガーなどのドイツ系ほどではないものの、ややくっきりしています。緩徐楽章はよく歌い、ゆったりしていて魅力的です。

 真面目な演奏という意味でボッセ/ゲヴァントハウス盤と比較すると、緩徐楽章ではこのブリテンの方がよりスローで、陰影を付けて歌うところがあります。ゲヴァントハウスの方が渋いです。バウムガルトナー盤と比べると、このブリテンの方が残響が少ない分しっとりと聞こえ、バウムガルトナーの方が朗々と響いてます。わずかながら装飾音符が多めで、時折弾むような音を加えたり、間を置いて区切ったりして、言われれば若干遊びが多めかという感じです。第1番第四楽章のポロネーズはゆっくりだけど区切れたリズムであり、パイヤールのように滑らかではありません。第3番のアダージョはオーケストラの低音の上でヴァイオリンとチェロが交代に短く歌います。どこからみても破綻のない、これを選べば間違いない模範的な演奏です。

 1968年のデッカの録音は残響は少ないけれども滑らかでです。弦はさらっとしています。



    paillardbrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051 
       Jean-François Paillard  
Orchestre de Chambre Jean-François Paillard ♥♥


バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
ジャン・フランソワ・パイヤール / パイヤール室内管弦楽団
(1973)
♥♥
 個人的には、ブランデンブルク協奏曲はこれだけあれば満足かもしれません。出たときからの愛聴盤であり、その後時代も変わって色々な演奏が現れましたが、結局今もこれをよくかけています。フランスもの好きということもあるでしょう。少し前のフランスの演奏はゆるやかに波打つように歌わせました。ドイツは違い、リヒターやミュンヒンガーなどの名盤の語法にはドイツ語のアクセントを感じることがあり、かっちりしたフレージングに馴染めないときもあります。でも公平に見ればフランス人の愛国心にも抵抗はあるのです。体の弱かったラヴェルですら軍隊に志願する国で、公的機関が正統フランス語でない流行語を検閲します。その延長線で現代フランスの古楽器団体はフランスものばかりやってて、ブランデンブルク協奏曲と言えばカフェ・ツィマーマンぐらいでしょう。パイヤール盤の価値は衰えません。

 パイヤール室内管弦楽団は1953年に指揮者のジャン=フランソワ・パイヤール(1928-2013)によって設立された楽団で、モダン楽器で主にバロックや古典派の音楽、フランス印象派の作品などを演奏しました。このパイヤール盤のブランデンブルク協奏曲で特筆すべき点は、ソロイストに一流どころが集められているということです。他でもイ・ムジチ盤、セオンの76年盤、バウムガルトナー盤、マリナーの二度目の録音もそういうところがあるけれども、ここで顔を揃えているのはマリナー盤にも参加していたフランスのフルートの名手、ジャン・ピエール・ランパル、同じくフランス・オーボエの名人ピエール・ピエルロ、ヴァイオリンのジェラール・ジャリ、トランペットの名手、モーリス・アンドレといった人々です。皆フランス人です。

 名人芸ということ以外で魅力的なのは、前述の通りのフランス流の抑揚です。 決してごつごつしません。郊外に出るとゆるやかな丘陵が続くフランスの地形そのもののように、寄せては返す波のように滑らかに歌います。 緩徐楽章はしっとりしており、メロドラマティックにならない手前で踏み留まって情緒的です。明るく華やかな一面もあります。他にないと思います。

 個人的にどうしてもこだわっている箇所は、第1番第四楽章のポロネーズ(楽譜上の表記は [伊] ポラッカ polacca)の部分です。まずメヌエットがあって、次にトリオが来ます。そしてまた最初のメヌエットに戻って、その次の部分がポロネーズです。ポロネーズはポーランド風の舞曲という意味なので、ここでは3/8拍子であり、piano の指示があります。楽器は二つのヴァイオリンとヴィオラ、通奏低音で構成され、第1ヴァイオリンを除いてすべてに三音符ずつスラーがついています。通奏低音はレの音ばかりで静かに三つずつ刻み、その上で動きを抑えた第1ヴァイオリンが囁くように、やっとメロディーになろうかとするような音を奏でます。この部分で古楽器奏者たちの多くはスラーがないように区切ってスタッカート的にやったり、快速で流したり、あるいはヴァイオリン1の音を二音ずつ組のイネガルにして音価を変え(二音ずつにスラーがあるので間違ではないでしょう)、たどたどしいリズムにしたりします。古楽の解釈としてはその方が正しいのだと思います。でもそれだと美しくないのです。
 パイヤールはそこを
内緒話をするようにそっとやり、それまで気がつかなかった美に目覚めさせてくれました。今まで他の盤でもポロネーズの話ばかりして来たのはそんな理由です。洩れた息が冬の空で微かに白くなるみたいです。そして13小節目からヴァイオリンが歌うように強まり(二度繰り返されるけど二度目はより顕著です)、次の22小節以降で盛り上がる部分ではため息が出ます。ちょうど夜明けで東の地平線にオレンジの帯ができ、群青の空に薄い三日月が出てる景色を眺めていたので、以来この曲の最も好きなパートの一つとなってしまいました。まあそれは他人には関係ない話だし、最初に聞いた感動などというものも他の演奏に多く接するとそのうち薄らぐものだけど、なぜかそうなりません。

 録音は1973年で、教会で収録しています。名プロデューサー、ミシェル・ガルサンの時代のエラートです。 残響がきれいで、最近のデジタルに劣りません。ただ、惜しむらくは LP のときは良かったのですが、CD にリマスターした際にバランスが少し崩れたようです。デジタル初期は技術者が合わせられず、切り替えが上手く行かなかった面もあります。そういう話でしょうか。若干高域が細く目立つバランスになってるような気がします。でも大した問題ではありません。400〜2KHz で少し持ち上げて、5K から上で下げると落ち着いたりもするけど、そうしなくても十分良い音です。

 

    baumgartnerbrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Rudolf Baumgartner   Festival Strings Lucerne

バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
ルドルフ・バウムガルトナー / ルツェルン弦楽合奏団
(1978)
 オーストリアの指揮者ルドルフ・バウムガルトナー(1917-2002)がドイツ語圏スイスのルツェルン弦楽合奏団とやっているものです。 全体に渡って破綻がなく、誠実な印象で安心して聞ける演奏です。そういう意味ではゲヴァントハウス・バッハ管弦楽団など、旧東側のオーケストラで派手さはないけど熟成した味わいを見せる演奏に似ているとも言えます。また、イギリスのブリテン盤とも共通した魅力と言えるでしょうか。

 テンポは曲によって若干違いがありますが、第1番ではモダン楽器演奏らしく全体にゆったりです。ピリオド奏 法のようにスタッカートにしたりはしないものの、拍子はドイツ語圏的というのか区切れたものに感じます。かといって第5番の第一楽章では、モダン楽器演奏としてはむしろ快活な速さで溌剌としており、リズムが区切られたようには感じません。
 緩徐楽章の運びはより滑らかで、静かによく歌います。ただし滑らかな拍子ではあっても、切れ目のないレガート演奏ではないので軽さも感じます。

 ソロイストたちもこの盤の特徴でしょう。真っ直ぐで線の細い音だけどよく歌っているヨゼフ・スーク、独特の深い息遣いを聞かせるオーボエのモーリス・ブールグ、常に誠実さと潤いがあって、ここでは朗々とした響きを聞かせるスイスのフルートの第一人者、オーレル・ニコレ、チェンバロのクリスティアーヌ・ジャコテといったスタープレーヤーが集っています。

 レーベルは DENON で、アリオラ・オイロディスク版権となっています。ミュンヘンと書いてあるのでスペインのオイロディスク録音ではないようです。録音技師もドイツ人名です。すべて1978年の収録だけど、会場は二つあり、1番と6番は残響が少なく、残りはよく響きます。



    marriner1
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Neville Marriner   Academy of St. Martin-in-the-Fields 1980


バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
ネヴィル・マリナー / アカデミー室内管弦楽団
(1980)



    marriner2
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
       Neville Marriner   Academy of St. Martin-in-the-Fields 1985

   
バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
ネヴィル・マリナー / アカデミー室内管弦楽団
(19
85)

 1959年にネヴィル・マリナー(1924-2016)が設立したアカデミー室内管弦楽団は古楽器による楽団ではないですが、元は17、8世紀の音楽、主にバロック音楽を目標にして作られたものでした。パイヤール室内管とちょっと立ち位置が似てるでしょうか。したがってモダン楽器を使っていながらも、ロマン派以降の作品もやるような伝統的オーケストラとは違い、テンポもやや軽快、編成も小さいという特徴があります。音楽学者のサーストン・ダートの影響下にあったという話もあります。1971年に録音された最初のブランデンブルク協奏曲ではダートも協力してたようだけど、録音途中で亡くなっています。

 1980年にはフィリップスに二度目の録音を行いました(写真上)。このときはフルートのジャン・ピエー ル・ランパル、オーボエのハインツ・ホリガー、ヴァイオリンのヘンリック・シェリングという大物が加わっており、魅力的です。
 モダン楽器の演奏としては快活で、やや速めのテンポをとります。アタックもモダン楽器の解釈にしてはしっかりしているけど、古楽特有のリズムやアクセントの癖はありません。素直でいいと思います。緩徐楽章でもテンポはさほどゆっくりにはならないものの、過剰な叙情に陥らない節度と落ち着きがあり、それでいて滑らかで美しいものです。
 また、フィリップス録音のせいでもありますが、モダン・ヴァイオリンの特徴である艶のある弦が美しいです。 ふくよかでみずみずしい音で、古楽器演奏ではないブランデンブルク協奏曲の中では、個人的にはパイヤール盤と並んで一、二を争う名盤ではないかと思っています。    
 第3番のアダージョでは、チェンバロの上でヴァイオリンが静かでやさしいメロディーを奏でます。まるでヴァイオリン・ソナタの第二楽章のようです。第5番の第二楽章はパイヤール盤でも活躍していたランパルのフルートが美しいです。この二度目の録音、後に EMI から出た三度目の盤のように各パート一人とはうたってないようだけど、編成が特に大きくは感じません。

 三度目の EMI 録音は1985年で(写真下)、演奏傾向は前回と基本的には変わっていないものの、二回目よりもジェントルでやや平坦に聞こえます。テンポも曲によってはわずかに遅い場面もあるようです。旧録音の方が若々しさ、瑞々しさを感じるのですが、それは録音のせいもあるかもしれません。音は EMI の方が若干丸くおとなしいのに対し、弦の艶やかなところは旧録音のフィリップスの方が勝っているように思います。第5番の第二楽章は旧盤より一歩ずつ歩くような区切り感があります。編成は各パート一人ということです。第3番のアダージョは静かなチェンバロの独奏に変わりました。



    bossebrandenburg
       Bach   Brandenburg Concertos BWV 1046-1051
     
  Gerhard Bosse   Bachorchester Des Gewandhauses Zu Leipzig

バッハ / ブランデンブルク協奏曲 BWV 1046-1051
ゲルハルト・ボッセ / ライプツィヒ・ゲヴァントハウス・バッハ管弦楽団
(1981)
 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス・バッハ管弦楽団はフランツ・コンヴィチュニーがゲヴァントハウス管弦楽団のメンバーから作った小編成の楽団が元になり、ゲルHルト・ボッセ(1922-2012)に引き継がれた後にこの名前になりました。指揮者のボッセはゲヴァントハウス管弦楽団のコンサートマスターだった人で、カール・ズスケのヴァイオリンの先生でした。

 東ドイツの名門らしい落ち着いた味わいのある演奏です。ブリテン、バウムガルトナー盤と並んでモダン楽器に よるこの曲のリファレンスのような演奏だと思います。真面目に音楽に取り組んできた伝統に裏付けられ、どこにも気負いがないけど噛めば味が出るという種類の、いわゆる「いぶし銀」的な名演です。緩徐楽章の歌わせ方も特に情に流されるわけでもなく、どこを切っても自然です。バウムガルトナー盤と比較したくなると言ったけれども、あちらがスタープレーヤーを揃えているところに特徴があるのに対し、こちらは皆上手でありながらもシックであり、釉の掛からない備前焼か渋い伊賀焼でも眺めているようです。

 第1番の出だしは案外遅くはないテンポだけど、落ち着いています。第四楽章のポロネーズはやわらかく、パイヤールほどではないけれども静けさがあります。一方で第5番のリズムは割とはっきりとしています。第二楽章も節度があり、過度に情緒的になりません。第3番の楽譜指示のないアダージョ部分は懐かしいアンマー・チェンバロみたいな太い音のチェンバロ独奏で、ほの暗く重厚です。

 ドイツ・シャルプラッテンの1981年の録音は残響はあまり多い方ではありません。でもデッドでもなく良い録音です。全体に音色がどっしり落ち着いており、渋めな点では演奏のあり方と同じ波長です。弦は比較的細く繊細に響きます。



INDEX