アイネ・クライネ・ナハトムジーク

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この「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」のページは当初、マーラーの「アダージェット」と合わせて一つの記事でしたが、分けて整理しました。
マーラー交響曲第5番〜「アダージェット」はこちら

 クラシック入門編第二弾、シベリウスの次はモーツァルトです、どうも時間的順序がおかしいですが、両者に 共通点があるとすればフリーメイソンの会員だったことぐらいです。タイムスリップのドラマで活躍する龍馬よお前もか、説まであるぐらいで世界の有名人がこぞって加入してきました。ハリウッドのドラマですら、登場人物から明らかにその団体だと思わせる世界征服を狙う秘密結社が暗躍し、それを主人公たちが時間を遡って根絶やしにしに行くという話をやっていました。モーツァルトの死にフリーメイソンが関係しているという見方もあるようだし、
陰謀論って、本当のところはどうなんでしょう。少なくともお金と権力を持っている人が一度手に入れたものを手放したくないということはあるかもしれません。民主主義の国の政策実行者が国家の側という主体意識を持ってるかのように動いているのを見るのも複雑です。
 
 でもここで時間的順序が狂ったのは 陰謀ではなく、美しく青きドナウを最初に置いてしまったせいです。CD でよく「フリーメイソンのための葬送音楽」と一緒にされる「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」は、本来クラシック音楽入門曲という括りではいの一番に登場して来る曲です。誰でもが聞いたことのあるメロディーはあのモーツァルトのもの。第一楽章も第二楽章もあちこちで流れます。K.525 という後ろの方の番号(絶筆が 626)が付いていますが、作曲は亡くなる四年ほど前ということになります。「魔笛」と並んでフリーメイソン説のある台本作家が書いたオペラ「ドン・ジョ ヴァンニ」の作曲中に進めらた、何かの機会のために書かれた音楽です。「アイネ・クライネ〜」というタイトルの意味は英語にすれば「ア・スモール・ナイト・ミュージック」であり、では夜に演奏する小さな音楽って何かというと、この曲の形式であるセレナードのことだそうです。セレナードは元来夜に恋人の家の窓(扉)の外で一人で演奏する曲であり、大変古い歴史があるけれども後の時代には音楽の一形式になったものです。形態は室内楽から管弦楽ぐらいまでと、規模と人数が大きくなりました。楽章もたくさんです。モーツァルトのこの曲は超有名ですが、解説するとなると、はっきりしているのはおおよそ以上のようなところです。溌剌として明るく、また静かなパッセージは大変優美な名曲です。セレナードとしては13番にあたります。

 記事として特集を組むとなると他のセレナードや姉妹形式であるディヴェルティメント(嬉遊曲)などを集め るという話になるでしょう。昔ウィリー・ボスコフスキーのやわらかい演奏の輸入盤 LP 選集を揃えて持ってたのに売ってしまい、あれ以降抜粋盤一枚ぐらいしか出ないなあと気にしたりもしてました。いずれ誰しもが墓に足を突っ込むのに売って後悔なんて意味ないにせよ、まあそれぐらい聞かなかったわけで、ここでの特集は無理です。他にも有名な曲はいくつかあって BGM としては大変良い曲集ながら、とりあえず突出した「アイネ・クライネ〜」だけを取り上げます。



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     Mozart   Serenade No.13 'Eine Kleine Nachtmusik' K.525
     Bruno Walter   Columbia Symphony Orchestra ♥♥


モーツァルト / セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」K.525
ブルーノ・ワルター / コロンビア交響楽団 ♥♥
 演奏形態として四つぐらいに大別できるでしょうか。まず伝統的な大きいオーケストラによるもの。これは色 々出ていて、結局は好きずきです。定評あるところでは磨かれて豪華流麗ながらこの曲に関しては元気があってやや速め、いつものレガートというよりも切れの良いカラヤン盤もいいし、ウィーン・フィルの優美さを生かしつつリズムにちょっとだけ角ばりが聞かれる几帳面なベーム盤が好きという方もいらっしゃるでしょう。個人的に良かったなと思ったものの一つは、オトマール・スイートナー/シュターツカペレ・ドレスデンのものでした。旧東側の伝統的な運びというのでしょうか、テンポはゆったりめであり、伸び縮みせずにずっと一定に聞こえる点ではベーム盤よりさらに生真面目かもしれませんが、リズムに角はなくてスムーズです。録音は1960年と古めですが、この盤の良さはその音の良さにあります。ルカ教会の残響豊かでやわらかい響きは大変心地が良いのです。

 でもここではワルター盤を挙げます。40番の素晴らしいシンフォニーは昔からの定番になっており、モノラ ルを選んでもステレオを選んでも、ワルターと言った時点でちょっと通ぶってる感じかもしれません。別に祭り上げる気もないのですが、あらためて聞くとやは り堂々としたもので、この人らしいやわらかな抑揚が聞かれます。全体には少しゆったりながら、落ち着いて歌う第二楽章のやさしい歌など絶品であり、どこか 他にはない品格が漂っています。

 コロンビア響とのステレオで、1958年カリフォルニアでの録音はコンディションも良く、やはりこの盤で しょう。



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     Mozart   Serenade No.13 'Eine Kleine Nachtmusik' K.525
     Neville Marriner   Academy of St. Martin in the Fields ♥♥


モーツァルト / セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」K.525
ネヴィル・マリナー / アカデミー室内管弦楽団 ♥♥
 次には室内オーケストラ規模のものです。またマリナーか、と言われそうなほどよく取り上げてますが、ここ でもモダン・オーケストラのトリはマリナーかもしれません。編成が小さめなのに加えてテンポもやや軽快なので、ワルターのようなフル・オーケストラの堂々 とは違ったジャンルとして聞こえます。三つ出てる録音のうち、ジャケットを掲げたのはフィリップスの1985年デジタル録音盤です(他に70年録音のも の、76年の EMI のものがあります)。この盤は特にしなやかに繊細に弱音を扱っており、大変優美です。マリナーとアカデミー室内管はいつも軽快でありながら滑らか、誇張せず品良く進めつつ表情があって洗練されています。したがってモーツァルトには特に相応しい気がします。アイネ・クライネ・ナハトムジークの曲調からいっても、これにしておいて間違いはないでしょう。編成の分だけワルターよりやさしい気がします。

 1985年盤はデジタルになって数年ですが、残響が多めで音像はやや引っ込んでおり、若干お風呂場的なと ころがありながら弦の音色が大変きれい、というものです。リラックスできるバランスだと言えるでしょう。もちろん他の時期の録音も水準は高いです。そちらを 選んでも間違いはないけど、このフィリップス盤は K.546 のアダージョとフーガ、パッヘルベルのカノンとジーグ、父レオポルド・モーツァルト作とされ、今はエトムント・アンゲラーだと言われる「おもちゃの交響 曲」などとのカップリングで、ジャケットにそのベルヒテスガーデンの木製のおもちゃが写っているのがオリジナルです。CD ではダイヤモンドが真ん中についてるのもありました。フィリップス自体が無くなっているのレーベルの谷間に落ちており、以前は廉価版も出てたのですが、ダウンロード以外ではやや探しにくいのが難点でしょうか。一方70年録音の方はアーゴが原盤で、交響曲第32番との組み合わせがオリジナルでしたが、デッカ/ロンドン・レーベルでセレナータ・ノットゥルナ、ディヴェルティメント数曲とコンピレーションしたものとしてリマスター盤が出ています。こちはフィリッ プス盤と演奏自体は大きく異なるところがなくて選曲も良いですが、フィリップスの方がややデリケートでやわらかな抑揚に聞こえるわけです。76年の EMI 盤の方はワーナーのマークになってたりしており、アルビノーニやパッヘルベルのカノン、メンデルスゾーンからチャイコフスキーまでと様々な曲が一緒に入っています。録音が EMI らしいものです。



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     Mozart   Serenade No.13 'Eine Kleine Nachtmusik' K.525
    
Richard Tognetti   Australian Chamber Orchestra ♥♥

モーツァルト / セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」K.525
リチャード・トネッティ / オーストラリア室内管弦楽団 ♥♥
 もう一つ、これは今のところ CD が見当たらないので番外編にしますが、ハイ・リゾリューションか圧縮音源のダウンロード、もしくはアナログ LP で2017年に出たオーストラリア室内管の演奏です。ピリオド奏法によるモダン楽器の室内オーケストラという区分になるでしょうか。ノン・ビブラートの響きが古楽バンドのようにも聞こえますが、ピリオド楽器ではないでしょう。この楽団の芸術監督を1990年から務めているリチャード・トネッティの指揮によ るもので、ちょっと新しい感じがする意欲的な表現です。カップリングは英ロックバンド、レディオヘッドのギタリストであるジョニー・グリーンウッドにこの楽団が依頼して出来上がったクラシックの現代音楽、「ウォーター」です。こちらの方が目玉なのだと思いますが、曲は感性でも聞ける範囲であり、静かな弦と 管のハーモニアスな持続音から始まるあたりはヒーリング・ミュージックのようであり、途中から徐々にモダンらしい音が混じり出し、中ほどではヴィーナかシタールのような連続音に乗って展開しながら終わり近くでお馴染みのモダン調になります。録音の良さも手伝って音の美しさも感じられる曲です。

 そしてアイネ・クライネですが、コントラバスの低音がよく響いて心地良く、前述の通りノン・ビブラートの 震える弦と、ロングトーンの中ほどを持ち上げるように強く当てる古楽のボーイングが聞かれます。一言でいうと、表現に対する意識の高い演奏です。さらっとした運びでいて表情豊かで、生きた躍動感があります。弾むような元気な始まりかと思うと力は抜けていてうるさくもなりません。柔軟に伸び縮みし、拍に弾力があるのに全体をつなげたような運びの滑らかさが聞かれます。語尾でふわっと速度を緩めたりの工夫もあります。第二楽章は遅くはないですがよく歌い、弦の音が室内学的に響いて心地良いです。

 そして音の良さが何より魅力的でもあります。ライヴ・レコーディングで拍手も入っていますがコンディショ ンが大変良く、ヴァイオリンはあまり細い倍音が強調されずに生っぽい滑らかさがありながら、全体の楽器の解像度が高いです。すべてにわたってバランスが良いです。 



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     Mozart   Serenade No.13 'Eine Kleine Nachtmusik' K.525
    
Ton Koopman   Amsterdam Baroque Orchestra

モーツァルト / セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」K.525
トン・コープマン / アムステルダム・バロック管弦楽団
 次のカテゴリーは古楽器楽団による演奏です。必然的に編成は小さく、ピリオド奏法になります。この分野も モダン・オーケストラほどではないけど、そこそこの数の演奏者が録音しています。アーノンクールやヴァイル/ターフェルムジーク、サヴァール盤などもありますが、ピノックやガーディナーはどうやらやってくれてないようで、印象に残ったのはコープマン/アムステル・バロック管とグッドマン/ハノーヴァー・バンドでした。

 コープマン盤の演奏は、いつもの彼らしく軽くふわっとしたやわらかい抑揚と、所々音の終わりをあまり延ば さないで進める古楽の手法が聞かれますが、モダン・オーケストラのものに比べて颯爽としており、大変魅力的です。メロディーの途中で全体に大きく山を作る ように動かす抑揚も聞かれます。1989年のエラート録音は奥まった定位で残響が多めであり、フィリップスのマリナー盤同様リラックス系の音です。


   
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     Mozart   Serenade No.13 'Eine Kleine Nachtmusik' K.525
    
Roy Goodman   Hanover Band ♥♥

モーツァルト / セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」K.525

ロイ・グッドマン / ハノーヴァー・バンド ♥♥
 これも素晴らしい演奏でした。1980年創立のイギリスの古楽バンドで、ハルステッド指揮のブランデンブ ルク協奏曲が良かったですが、グッドマンは前任者になるのでしょうか、「アイネ・クライネ〜」の方は1990年に出たものです。形式的整合性の高い五楽章構成にするために第二楽章が創作で付け足してあります。出来はどうなのか、そこは聞いていただきたいですが、中庸の適切なテンポ設定ではきはきしています。トネッティ盤同様に表現が生きていますが、弾力というよりもより軽々としてる印象でしょうか。緩めるところではスラーで滑らかに延ばし、弱め方もエレ ガントです。リズムに嫌な癖は全くなく、せかせかしたピリオド奏法ではありません。普通は第二楽章に当たる緩やかな第三楽章も特に遅くはないですが、さらっと流れるように滑らかにつなげて行きます。トネッティと違ってピリオド楽器の弦が細くよく反響する録音になっているのがまた一つの魅力です。全体に力の抜けた美しい演奏で、曲に大変相応しいものと言えるでしょう。レーベルはニンバスです。



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  Mozart   Serenade No.13 'Eine Kleine Nachtmusik' K.525
    
Salomon String Quartet ♥♥

モーツァルト / セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」K.525

ザロモン四重奏団 (K.525 以外はクリストファー・ホグウッド / エンシェント室内管弦楽団)♥♥
 最後は人数の少ない室内楽編成によるものです。盤の名義はホグウッドとエンシェント室内管になっています が、「アイネ・クライネ〜」を演奏しているのはザロモン四重奏団であり、ホグウッドやピノックのイングリッシュ・コンサートで活躍したバロック・ヴァイオリニスト、サイモン・スタンデージが率いる1982年結成のピリオド楽器四重奏団に、もう一つコントラバスが加わったものです。弦楽四重奏による演奏はいくつも出ていますが、バスを強化しているのはこれぐらいでしょうか。モーツァルトのこの曲は当時こんな感じで演奏されていたのだろうと思わせます。表現はことさら古楽の尖ったところがなく、音色のこともあってコープマン盤よりさらに軽く爽やかに聞こえます。楽器の一つひとつがくっきり手に取るように分かりますし、室内楽の好きな人はこの盤でしょう。
 これにもグッドマン盤と同じ考えで復元された第二楽章が付け加えてあります。モーツァルトの作品を補筆して 創作を加えたものはレクイエムなどもそうながら、どれを聞いても節回しに迷い髭がちょっと生えてるように聞こえてしまいがちですが、これはどうでしょうか。

 今は無くなったロンドンのキングズウェイ・ホールの最後の年の録音で、1983年収録です。カップリング はいずれもセレナードで、ケッヘル200番台の6番(セレナータ・ノットゥルナ K.239)と8番(K.286)です。これもデジタル初期ながら濁りのない残響による明晰な響きです。レーベルはオワゾリールです。