ヘンデル / オルガン協奏曲 op.4 & 7
 
organ

 合奏協奏曲集と並んでよく聞かれているヘンデルの有名な管弦楽作品として、オルガン協奏曲集があります。 オルガン といっても教会の壁に接地された長大なパイプのものではなく、ヘンデルは同じ据え置き型のパイプ式でも分解して持ち運ぶことも可能なポジティフオルガンと いう比較的簡易な形式のを使っていました。現代の録音ではより立派なものを採用するのが通例ですが、本来はオラトリオの幕間に演奏したからのようです。他 にも持ち運び用ですでにルネサンス期から使われていたポルタティフオルガンという、笛のような可愛らしい音のする小型の種類もありますし、明治以降に学校 教育に導入されて日本では「オルガン」の代名詞にもなっている足踏みペダルのリードオルガンは発音構造から別のものであり、時代は下って19世紀のフラン スが発祥です。 

 このオルガン協奏曲は作品4と7とで12番まで、それ以外にもう数曲あり、通し番号にすると全部で15も しくは 16番までで構成されています。その中でも一番有名なのは「ハープ協奏曲」と同じものを転用した部分です。元がハープなだけに全集でもその箇所をオルガン ではなくハープで収録する例もありますが、大抵はハープ協奏曲の CD を先に持っていることが多いですから、案外オルガンでの演奏の方がありがたいでしょうか。作品4の第6番 HWV 294 にあたります。このハープ協奏曲についてはすでに別記事で取り上げていました(ヘンデル・ゴーズ・ワイルド)。
 それから第13番にあたるヘ長調の HWV 295 は「カッコウとナイチンゲール」と呼ばれ、 第二楽章がカッコウとナイチンゲールの鳴き声を模していて人気があります。それ以外の楽章も親しみやすくてきれいですが。 

 演奏を評することについて、ちょっと言い訳めいたことを書きます。昔バッハのパッサカリア(とフー ガ)BWV 582 というオルガン曲を生で聞く機会があって、そのクライマックスで、大袈裟に言うと巨大なブースターで物理次元を超えて行くかのような圧倒的な感動に包まれ たのですが、以後その曲の CD を探しても同じ体験には巡り合えなかったということがありました。ストップであらかじめ設定する以外、鍵盤操作によっては音量差を出せず、演奏者の表現と いえばディナーミクではなくてテンポ変動であるアゴーギクのみになるオルガンによってどうしてそういうことが起きるのかという疑問がこのホームページの最 初の記事にもなったわけです。そしてそれは同時に、演奏の違いが弾き方によってはなかなか分かりづらいということも意味します。実際、オルガン という楽器自体が同じものがないというぐらい一つひとつが個性的なパイプを備えているので、どこのオルガンを使ってどのパイプ列を選択したかということに よる音色の違いが色々な演奏の CD を聞いたときの魅力のあるなしを決定づけていると言ってもいいでしょう。それと各奏者の装飾の入れ方のセンス(これはジャズではリックと呼んで人によって 決まった癖が出ます)、即興部分のあり方が好みに合うかどうか、です。オルガニストが全部スタッカートで弾いたり極端なテンポを選んだりしないかぎりその 二点が大きいので、ただ演奏の感想を述べるにしてもオルガンそのものへの知識が必要になってくるわけです。ヘンデルのオルガン協奏曲集は、そういう構成の 音楽自体が珍しかったという点でオリジナリティーがあるものの、少なくとも私にはどうやらあまり論じる資格がなさそうです。言えるとしても主にオーケスト ラ部分での表現でしょうか。

 全集の CD として出ている代表的なものをまた以下にざっと並べてみます:

コレギウム・アウレウム合奏団/ルドルフ・エヴァーハルト1965〜67
ネヴィル・マリナー/アカデミー室内管弦楽団/ジョージ・マルコム1975
ニコラウス・アーノンクール/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス/ヘルベルト・タヘッツィ1975
ジャン=フランソワ・パイヤール/パイヤール室内管弦楽団/マリー=クレール・アラン1976
トレヴァー・ピノック/イングリッシュ・コンサート/サイモン・プレストン1982〜83
トン・コープマン/アムステルダム・バロック管弦楽団1984
ジョシュア・リフキン/コンセルトヘボウ室内管弦楽団/ピーター・ハーフォード1985
ボブ・ファン・アスペレン/エージ・オブ・エンライトメント管弦楽団/1996
ニコル・マット/シュトゥットガルト室内管弦楽団/クリスチャン・シュミット2004
リチャード・エガー/エンシェント室内管弦楽団/2005〜07
ロレンツォ・ギエルミ/ラ・ディヴィナ・アルモニア/2012

 個人名が二つ出ているのは最初のが指揮者、後のがオルガニストで、一つしか出てないのはオルガニストであ り、頭に あるのはその人が指揮をしている場合、楽団名の後ろにあるのは指揮者がいない場合です。この中でハープ協奏曲の部分をオルガンでやらず、オリジナルのハー プで演奏しているのはトレヴァー・ピノック盤とロレンツォ・ギエルミ盤(そちらはリュートも活躍)です。



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     Handel  Organ Concertos op.4, op.7
     Jean-François Paillard   Orchestre De Chamble Jean-François Paillard
     Marie-Claire Alain ♥♥


ヘンデル / オルガン協奏曲集 op.4, op.7 他
ジャン=フランソワ・パイヤール / パイヤール室内管弦楽団 / マリー=クレール・アラン(オルガン)♥♥
 最初はモダン・オーケストラによるパイヤール盤です。流麗でやわらかなレガートによる運びは古楽器アンサ ンブルの とは違って一時代前のものですが、そうしたマナーの演奏の中では最も魅力的でした。重くなり過ぎず、ふわっとした抑揚が付いて静けさがあるので聞いていて 安らげま す。拍が尖ってないので今のものに慣れた耳には別の曲に聞こえるかもしれません。でも楽器の考証などに重きを置かず、きれいな響きが望みならば今で も第一候補ではないかと思います。やや奥まった定位で残響は長く、全体の人数も多めに感じます。

 オルガンを弾いているのはフランスの女性オルガニストで2013年に亡くなった大御所のマリー=クレール・アラン です。趣味の良い演奏という定評がありましたが、ここではそのオルガンの音色に魅力があります。リヨンの南にあるサン=ドナ=シュル=レルバッス寺院の教 会で収録されたようで、少し鼻にかかった倍音の管がある、軽さがあってやや華やかな音色です。弾き方はゆっくりの楽章では遅めに一つずつ拍を確実に 進めるところもあり、音色の美しさに対してトータルでは落ち着いた印象です。即興部分が控えめで品があるのはこの時代の流 儀でしょう。ワイルドでなくやさしいヘンデルです。


 録音は1976年でレーベルはエラート、この前にも同じメンバーでの録音があり、この盤は三度目になるよ うです。そしてこの後にもアランはバッハのロ短調ミサが素晴らしかったフライブルク・バロック・オーケストラと新しく録音していますが、そちらは選集で す。



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     Handel  Organ Concertos op.4, op.7
     Collegium Aureum   Rudolf Ewerhart ♥♥


ヘンデル / オルガン協奏曲集 op.4, op.7 他
コレギウム・アウレウム合奏団 / ルドルフ・エヴァーハルト(オルガン)♥♥
 こちらはモダン楽器奏法とピリオド奏法の中間的な様式で演奏されたものです。楽器はピリオド楽器ですが、 ビブラー トを使って現代の弓で弾くなど、今確立されているマナーほど徹底はされていないのであれこれ言われることがあった楽団によるものです。古楽器ブームの先駆 けだったがゆえにそういう事態にもなったのですが、演奏は自発的でなごやか、のびのびと楽しんでいる波長があって素晴らしいものでした。このヘンデルは彼 らの録音の中でも初期のもので、オルガンのこともあってか根城にしていたフッガー城糸杉の間ではないですが、弦の艶が大変きれいです。抑揚はピリオド奏法 の鋭角的なものではなく、自然に歌わせています。

 オランダ・ユトレヒトやドイツ・バーデンヴュルテンベルク州のヴァインガルテン、バイエルン州のオットーベウレン などの修道院で収録されており、オルガンの音色はドイツ系だからきついということはなく、透明感があって大変良いです。やわらかい部分とくっきり艶のある 倍音が乗る部分など色々と変化しますが、 全体には滑らかさのある音に捉えられており、弦ともマッチしています。エヴァーハルトの弾き方は適度な即興がありながら落ち着いていて、特段速くも 遅くもなく着実に弾きますが、アランの遅いときほどはリズムを区切らず流れるように感じます。のんびりとしつつ典雅な演奏です。


 ドイツ・ハルモニア・ムンディで1965年から67年にかけて録音されました。時期が古く思えるかもしれ ませんが、音は70年代のパイヤール盤に負けないというか、却って良いぐらいです。



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     Handel  Organ Concertos op.4, op.7
     Trevor Pinnock   The English Concert   Simon Preston


ヘンデル / オルガン協奏曲集 op.4, op.7 他
トレヴァー・ピノック / イングリッシュ・コンサート / サイモン・プレストン(オルガン)
 長らくこれを定番として聞いてきたという名盤です。もはや説明も要らないことでしょう。いつものピノック らし く、適度に弾む古楽のリズムでありながら間がとれてゆったりしており、歌わせるフレーズではしっとりとよく歌っています。これを選んでおいて間違いはない でしょう。

 オルガンを担当しているのはピノックではなく、名手サイモン・プレストンです。1938年生まれのイギリ スのオル ガニストですが、ここでは倍音成分が派手ではなく、やや暗めのシックな音色のオルガンを弾いています。シックといってもやわらかで全体に落ち着いた雰囲気 があって良いものです。演奏の方も誠実さを感じさせる運びであり、速くても着実で、遅いところではややルバートを用いつつも落 ち着いた印象は変わりません。使われているオルガンは全てイギリスのもので、ケント州グートハーストのフィンチコックス邸内にある音楽(鍵盤楽器)博 物館、ロンドンのヘンリー・ウッド・ホール、バーミンガムの北に位置するスタッフォードシャーの聖ヨハネ・バプティスト教会などで収録されています。

 アルヒーフ1982〜83年の録音で、バランスが良く、今も大変優れた録音だと言えます。ハープ協奏曲が 原曲となっている部分はオルガンではなく、ハープで弾かれています。



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     Handel  Organ Concertos op.4, op.7
     Ton Koopman   The Amsterdam Baroque Orchestra


ヘンデル / オルガン協奏曲集 op.4, op.7 他
トン・コープマン / アムステルダム・バロック管弦楽団
 オランダの鍵盤楽器の名手、トン・コープマンが手兵のアムステルダム・バロックと録音したものです。名手 ですか ら即興の腕前には定評があります。アンサンブルの指揮においても
根強い人気があって、 大陸側オランダの流儀かどうかは分かりませんが溌剌と した古楽のアクセントがあり、それでいて過激にはならずに洗練された歌を聞かせる人です。レーベルの問題から一時期その録音が宙 に浮きかけましたが、音楽に対する誠実さのある素晴らしい演奏家だと思います。ここでもピノックらよりも拍は区切りますが、力が抜けていて軽さがあり、 抑揚もふわっとした山を作るもので独特の美しさが感じられます。

 一方でオルガンの方はやや音が前面に出る録音バランスです。音色はこれもイギリスのオルガンを使ったピ ノック盤と 同 様、倍音が特段豊かな方ではないものだと言えるでしょう。選ぶ音によってはオンマイクだからかややかすれた空気の音が混じり、くすんだシックさや多少こも りが聞こえる箇所もあるのですが、それがまた魅力でもあり、華やかではないものの全体には明るい感じに響いています。細めで軽く、笛のような音が出るの で、実際の規模は分かりませんがヘンデルの時代の演奏に近い雰囲気なのかもしれません。オランダ・ベーク=ウッベルヘンの聖バーソロミュー教会 で収録されました。演奏の特徴としてはやはり即興装飾が多い方であり、その部分の評価については手に余るものの、そうした運びのセンスが気に入る方にとっ ては他に ないものかもしれません。

 1984年録音のエラート原盤で、エイペックス・レーベルとなっています。



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     Handel  Organ Concertos op.4, op.7
     Richard Egarr   Academy of Ancient Music

ヘンデル / オルガン協奏曲集 op.4, op.7 他
リチャード・エガー / エンシェント室内管弦楽団
 1963年生まれのイギリス人指揮者/鍵盤楽器奏者リチャード・エガーがホグウッドから引き継いだエン シェント室 内管弦楽団を弾き振りしています。イギリスものとしては後発で、第一次のピリオド楽器演奏運動のあり方からは少し距離があります。元来イギリスの古楽アン サンプルはさほど過激な演奏はして来なかったので延長と言えば延長かもしれませんが、管弦楽の表情はゆったりな方に広がってやや大きく、快活な部分もある ものの旋律の聞こえる部分では古楽にありがちなせっかちなテンポに陥らず、スタッカートは交えても全体には滑らかにダイナミックに動かして行くという印象 です。よく歌わせているのでこせこせした感じがしないのが良いところだと 思います。出だしではゆったりと確実に運びます。

 オルガンの方は最初から装飾音で、トリルを繰り返しながら進めて行きます。コープマンと並んで即興を重視 して いると言えるでしょう。そういう部分のセンスは人それぞれ違うのでこのテイストが気に入るかどうかは確認されてみると良いと思います。音色はパイ プ列が色々あるため一通りではないものの、オカリナっぽいところもあって暖色系の可憐な音です。そしてちょっとくすんだ深みのある音色も聞かれ、ピノック 盤のと若干似ていてラテンのもののように倍音が華やかにはならず、ドイツのようにくっきりしているわけでもありません。丸みのあるやわらかい音も出るし、 静けさを感じさせるところが気に入りました。使用オルガンは作品4の方が現代イギリスのオルガン職人、ロビン・ジェニングスの4ストップ室内オルガン、作 品7はヘンデルが使っていたオルガンのコピーで、これもイギリスのオルガン・ビルダー、マルティン・ゴエツェ&ドミニク・グウィン製作のものをヘンデル・ ハウス・ミュージアムから借り出してきたようです。ロンドンの北、ハムステッドの聖ユダ(ジュード・オン・ザ・ヒル)教会で収録されています。弾き方は速 いところもゆったりなところもあって変化に富み、一概には言えませんが、スローでやわらかい部分は印象的です。

 ハルモニア・ムンディUSA 2005〜07年の録音です。新しいだけにきれいな音です。ハープ協奏曲に当たる HWV 294 はオルガンで弾いていますが第一楽章が大変ゆったりであり、ふんわりやわらかな抑揚があって個性的です。ヴァレリー・ミロ盤もやわらかかったですがテンポ は 溌剌としていました。それで今までの平均値とは違うことから色々言う人もあるようですが、こういう解釈もおっとり可愛らしくて安らげるものであり、慣例に こだわらなければ大変魅力的 だと思います。



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     Handel  Organ Concertos op.4, op.7
     Lorenzo Ghielmi   La Divina Armonia ♥♥

ヘンデル / オルガン協奏曲集 op.4, op.7 他
ロレンツォ・ギエルミ /  ラ・ディヴィナ・アルモニア ♥♥
 1959年生まれのイタリアのオルガニスト、ロレンツォ・ギエルミのオルガンと指揮による、彼自身が 2005年に 結成した古楽器アンサンブル、ラ・ディヴィナ・アルモニアの、全く新しい流儀と言ってもよい演奏です。Vol.1 の方は事実上のデビュー作と言ってもよく、フランスで賞も取ってもいるようですが、これは驚きでした。今までいくつもの評価の高いオルガン協奏曲の録音が 出ましたが、それらからは思いつかないような新鮮さがあったからです。しかも奇をてらったものではなく、生きいきとしています。

 ギエルミはミラノの教会オルガニストであり、古楽アンサンブル、イル・ジャルディーノ・アルモニコのメン バーでも あったようですが、その楽団の隈取りのくっきりとしたよく切れ弾む鮮烈さとはまたちょっと波長が違うようにも感じます。スタッカートは用いていて出だしか ら心地よく弾むのですが、出しっ放しにはせず、よく選んで所々に
印象的な切れを加え ているのです。そしてそれ以外のところでは以前の古楽っぽく旋律 を抑制する欲求不満はなく、歌心があります。速いところでは颯爽としていて決してのんびりしたテンポ設定ではないですが、捩れたリズムにはならず、全体と していかにもイタリア流の光と影のコントラストがついた鮮やかな美を演出しています。

 録音場所はサントゥアリオ・デル・ディヴィン・プリジョニエーロの聖堂、イタリアのヴァッレ・ディ・コロ リーナと なっていますが、使用オルガンはジョヴァンニ・プラデッラと記されています。1971年生まれのオルガン職人で、1993年にスイス国境に近い北イタリ ア・ロンバルディア地方のソンドリオに工房を開いたという現代の人であり、英語のウィキピディアにも載るほど世界的に有名なようです。レストアも新しい製 作もするようながら、2007年製とあるので、ここで用いられているのは伝統技法に則った現代の楽器ということのようです。それにしても素晴らしい音で、 色々なパイプがあるのでしょう、切り替えをよく行い、音色幅を最大限に使っています。速い楽章では前に出過ぎない落ち着いた音でやかましくならず、ときに くっきりとした明るいトップノートが乗るもの、透明なものなどがあり、また、静かな部分での音色はやわらかな響きに複雑な倍音成分のスパイスが加わったり して、色々 な録音の中でも一番魅力的に感じます。録音が良いこともあるのでしょうが、トータルな印象では透明感と色彩感の両方が満足される感じです。  

 色彩感豊かに感じさせるのはオルガンだけではありません。作品4の1番の三曲目の終わりなど、オルガンか らパオ ロ・グラッツィの大きくクレッシェンドするオーボエに引き継がれる演出など、はっとさせられます。楽譜のことはよく分からないのですが細かい指定はなく自 由度があるようで、弦楽合奏の部分に何か工夫が加えてあるのでしょうか、浮き上がるバロック・ヴァイオリンやガンバの類、チェンバロ、リュートなど、様々 な楽器が室内楽のように個別にクローズアップされてきて別のアレンジのようです。他の盤だとずっと聞いていると飽きて来る場合があるのに、あらためてこ の曲集の面白さを教えてもらいました。単純でやかましいと思っていたパッセージが楽しくなります。最近は受け狙いのやり過ぎ感のある演奏も若い人の間から 出てくると同時に、この盤のように劇的な要素を持ちながらも押し付けがましくならない、軽やかで自由なものも聞くことができるようになりました。要はセン スの問題なのでしょう。感覚・感情の機微を捉えられる敏感さが音楽の自然さ、生きた感じにつながるのだと思います。モダン楽器のパイヤールのような流麗な レガートやコレギウム・アウレウムののんびりした楽しさを好んできましたが、それとは違った次元で、目下のところ一番気に入っています。聞いていると晴れ やかな気分になってくる演奏です。 

 レーベルはベルギーのパッサカイユ。Vol.1 が2007年、Vol.2 が2012年の録音です。ディレクターはフランス系でしょうか、ジャン=ダニエル・ノワー(ル)とクレジットされています。フリーランスで2001年から スイスにスタジオを構えている人のようです。各楽器が分解良くリアルにとれていてきつくならず、自然な空間を感じさせる大変優秀な録音です。ヘンデルらし い明るさの感じられるシャコンヌ・ト長調 HWV 343b は未完の写本から再現されたもので、世界初録音です。ハープ協奏曲が原曲の部分はオルガンではなく、ハープとリュートによる演奏となっています。



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