ほとんど天国 / ヴィヴァルディのリュート協奏曲

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      Vivaldi   The Complete Works for the Italian Lute of His Period
      Jakob Lindberg (lute)    Nils-Erik Spaf,  Tullo Galli (vn)
      Monica Haggett (viola d'amore)   The Drottningholm Baroque Ensemble

ヴィヴァルディ / リュート協奏曲全集
ヤコブ・リンドベルイ(リュート)/ ニルス=エリク・スパーフ(ヴァイオリン)
トゥッロ・ガッリ(ヴァイオリン)/ モニカ・ハジェット(ヴィオラ・ダモーレ)
ドロットニングホルム・バロック・アンサンブル

 ヴィヴァルディの「四季」を聞いてクラシック音楽に目覚めた人(そういう王道を行く人がどれぐらいいるか分かりませんが)は、次に何を聞くのでしょうか。同じヴィヴァル ディということも少ないのかもしれないけど、もしそうなら、夢の続きを期待して「海の嵐」をフルートで、あるい は「調和の霊感」あたりでしょうか。でも「四季」のあの人懐っこくも優美なメロディーたちがコンパクトに一枚に凝縮され たようなのを同じように探そうとすると、これはなかなかの苦戦を強いられることにもなり、「ちょっと違った」で終わ ることになるかもしれません。特に「四季」の中でもやさしいメロディーに魅せられた場合は、にわとりが走り回る ようなヴィヴァルディらしい曲が続くと楽し過ぎてしまいます。

 ならリュート協奏曲はどうでしょうか。リュートというのはギターの前身なので、ギター協奏曲として、あるいはマンドリン協奏曲として演奏される場合もあります。よく一緒のCDで取り上げられる曲は何曲かありますが、有名なものは二つで、一つはハ長調のマンドリン協奏曲 RV.425。映画「クレイマーvs.クレイマー」で使われたそうで、愛らしい曲ではあります。
 もう一つは RV.93となっているニ長調のリュート協奏曲です。この第二楽章のラルゴ、実はこれがいいのです。このメロディー、誰しも一度は耳にしたことがあるので はないでしょうか。何に使われたかは分かりませんが、FMで流れたりもします。そして、これほどなごめるメロディーも珍しいです。ゆっくりとしたドミファソ(相対的にで、厳密にはレファ#ソラ)で始ま るので沖縄の音階に似ていますが、まさにそんな感じでトロピカルな休日みたいです。南洋杉の小島の浜辺に持ち出された日傘と寝椅子。午後の太陽にグラスの氷がとけ、透明な水が水紋を映します。白い砂を渡って来るやわらかい風が、そっと耳を撫でて行きます。

 スウェーデンのリュート奏者、ヤコブ・リンドベルイとドロットニングホルム・バロック・アンサンブルの演奏が生きいきとしていてリラックスできます。リンドベルイはリュートの第一人者です。スウェーデンのアンサンブルは和気あいあいとして水準が高いです。イタリアの音楽をスウェーデン人がやっても、そんなことは関係ありません。選曲も大変良く、通しで聞いて中弛みなく、どの曲も美しいです。マンドリン専用の曲がなかったりしてこの手のものの典型的なカップリングとは若干異なりますが、そこがまた良いところでもあります。これ一枚でリュートの曲を網羅しているわけですが、それがただの寄せ集めではなく、「四季」の完成度に近い感じになっていると言ったら良いでしょうか。曲目は以下の通りです:

 2つのヴァイオリン、リュートと通奏低音のための協奏曲ニ長調 RV.93
 トリオ・ソナタト短調 RV.85
 トリオ・ソナタニ長調 RV.84
 ヴィオラ・ダモーレとリュートのための協奏曲ニ短調 RV.540

 レーべルはスウェーデンの BIS で、バッハ・コレギウム・ジャパンのリリースで今や日本でもよく知られていると思います。オリジナルのものも出ていますし、別のレーベルからも出ています。また、廉価版のボックス・セットを出すところで有名なブリリアントからもヴィヴァルディの協奏曲集として8枚セットが格安で出ており、その中の一枚がこのCDです。 上の三枚の写真はどれも同じ内容だけど、一番右のがブリリアントのセットになります。

 1984年の録音はディジタル初期にあたり、機材のせいもあるのかほんのわずかにメタリックな傾向がありま すが、瑞々しくて艶やかであり、音場的には大変リアルな優秀録音です。バロック・ヴァイオリンの線の細い倍音がやや強調されると感じるならば5KHz辺りをほんのわずかに凹ませるといいかもしれないけど、とにかく終わってしまうのが残念なほどいい音であり、いい音楽です。



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