ヴィオール熱
   バッハのヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ

     viol
      Bassviol (Viola da Gamba) 7 strings, Uilderks 2010-04-19, HaCeMei

 驚きです。バッハのヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタの CD がこんなにあるとは。44枚、ここで名前をあげているものだけでそれだけあります。この楽器の近頃の人気は大変なものです。19世紀末になってそれまで忘れ去られていた楽器が見直されたとはいえ、これほど多くの演奏家が出て来るようになったのはほんとに最近と言っていいでしょう。この一種の流行現象を生み出した功労者として名前の挙る先駆者や古楽運動の有名奏者もいますが、それは一旦横へ置いて、この楽器を演奏してきた全ての音楽家が等しく担っているとするのが本当のところだと思います。今まで廃れていた原因は大きな音が出ないからコンサート向きでなかったということのようですが、ヴィオラ・ダ・ガンバ(イタリア語)はチェロに似た六弦の楽器で、ヴィオール(フランス語)もしくはバス・ヴィオールとも呼ばれます。ヴィオール(英語ではヴァイオル)という呼び名だとチェロ相当のものよりも小さいヴァ イオリン音域のものなど、種類は他にもありました。ヴィオール・ファミリーはヴァイオリンやヴィオラ、チェロなどのいわゆるヴァイオリン・ファミリーよりも音量が小さく、貴族の小さな集まりで愛好された楽器でした。昨今のバロック・ヴァイオリン同様、古楽器ブームもあってその繊細な倍音を含む音色が現代人にやすらぎをもたらしてくれるのかもしれません。


作品の位置づけ
 バッハのチェンバロ伴奏付きの三つのソナタ(BWV1027〜1029)はこの有名な作曲家のものということも あって、ヴィオラ・ダ・ガンバの曲全体の中にあっても演奏者に重要なレパートリーとなっています。一方でバッハの作品という観点から見ると、彼の室内楽作品は案外と少ないのです。フルート、ヴァイオリン、チェロという楽器でそれぞれに無伴奏のものとチェンバロなどの伴奏付きのものとがある、という具合に考えるなら、実際はチェロとチェンバロによるソナタは存在しないので、音域的にはその位置にあるのがこのヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタだと捉えてもいいかもしれません。そしてバッハの室内楽はそれでもうほとんどというか、それ以外の曲となるとチェンバロの独奏曲を除いて「音楽の捧げもの」ぐらいなのです。ちなみに二本のフルートと通奏低音のためのトリオ・ソナタ (BWV1039)はこのヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタの第1番(BWV1027)と同じ曲なので、フルートの方でまとまった曲を聞いていると、あれ、どこかで聞いたようなメロディーだな、ということになるかもしれません。


どんな曲?
 そんな中で、フルートの曲もヴァイオリンの曲も伴奏付きソナタは口笛が吹きたくなるようなきれいなメロディーがあって目立っており、無伴奏の曲も、チェロのものを含めて深みのある印象的な旋律線を持っています。一方で、このヴィオラ・ダ・ガンバのソナタは音域も関係はあるながらもっと落ち着いた、ひなびた趣きであり、分かりやすいメロディーを味わうというよりも独特のリラックスした感覚がなかなか良いのです。そんなわけで、ちょっと地味かもしれないけど人気があります。


いつ頃の作品?
 バッハの作品としてはいつ作られた曲かというと、以前はケーテン時代だろうとよく言われていました。年齢にしてバッハの三十代半ば、三十二歳から三十八歳がケーテン時代です。人生の出来事としては、最初の奥さんであるマリア・バルバラが突然死んでしまって、割合すぐにというか、アンナ・マグダレーナと再婚したのがこの頃です。ケーテン侯レオポルトが音楽が好きで、その人が音楽に興味のない奥さんと結婚して熱が覚めるまでケーテンの宮廷楽団、コレギウム・ムジクムはいつもカフェ・ツィマーマンに集まって楽しく活動していたようです。定説としていつも取り上げられるのは、この楽団にはヴィオラ・ダ・ガンバの名手であったクリスティアン・フェルディナント・アーベルがいたし、レオポルト侯自身もこの楽器を弾いたことからこれらのソナタが作られたのだろう、というものです。そのアーベルの息子が作曲家でもあり、この楽器の最後の名手と言われるカール・フリードリヒ・アーベルで、しかしその後は楽器自体が歴史の中で忘れられてしまうということなのです。バッハのこの時期にはブランデンブルク協奏曲をはじめとするほとんどの協奏曲、室内楽
器楽作品の有名なものが作曲されています。

 しかし近年多くの研究者の間で合意をみている考えは、むしろこれらのヴィオラ・ダ・ガンバの曲たちはその次のライプツィヒ時代、これはバッハを時代分けするなら最後の区切りにあたるわけですが、その中でも四十五歳から五十五歳ぐらいの間に書かれたのではないか、という説です。こういう話は英語版の wiki にそのまま載っていることで(日本版には項目がありません)、根拠や真偽は分かりませんが、亡くなる十年ぐらい前の時期ということになります。このライプツィヒ時代の間にはマタイ/ヨハネ受難曲やミサ曲ロ短調など、宗教的な傑作が生み出されています。この曲たちの派手ではないけども独特の内省的な波長はそれを証明しているでしょうか。


CD 概観(詳細は記事の最後で)
 では、CD の演奏をちょっと概観してみましょう。今のようにちゃんとヴィオラ・ダ・ガンバで弾かれるようになる前はチェロとチェンバロ、もしくはピアノで弾かれることが多かったですが、構造的にボウイングの途中で強まることのないまっすぐな音圧と、フレーズごとに区切るアイディアがまだ出てきてないために、全体に滑らかにつながって歌うように聞こえるところが最近のヴィオラ・ダ・ガンバの演奏とは決定的に違います。
 こうしたチェロによる CD は、古くはお約束というか、パブロ・ カザルスパウル・バウムガルトナーのものが日本のソニーから今も出されており、ゆったりのびやかに歌わせるピエール・フルニエズザナ・ルージチコヴァの エラート盤、それよりあっさりさらっと展開するヤーノシュ・シュタルケル/シュベーク・ジョルジのピアノ伴奏によるものもあり、80年代にはミッシャ・マイスキー/マルタ・アルゲリッチの DG 盤や、さわやかでよく歌わせているヨーヨー・マケネス・クーパーの魅力的な演奏もありました。変わったところではレナード・ローズグレン・グールドによるスタッカート遊びの多い、いつものように「ぼくここにいるよ」的に目立ってるものもあります。ファンは見逃せないでしょう。他に聞いたものはダニエル・ミュラー=ショット/アンジェラ・ヒューイットのもの、ゲルハルト・マンテル/カレン・オーウェンケイト・ディリンガム/ジョリー・ヴィニクール、そして新しいところではゆったりしたテンポだけども力が抜けて軽やかさも感じられ、なんかちょっとおしゃれな感じもさせるニコラス・アルトシュテットジョナサン・コーエンの2012年の盤が気に入りました。 これはピリオド楽器による表現を知っている今の世代の演奏です。

 ヴィオールと成り立ちの類似性が指摘されるコントラバスによる演奏も出ており、伴奏は小型オルガンによるものですが、リチャード・マイロンベルトラン・キュイエによるものがフランスのアルファ・レーベルから、これもオルガンですが、切れ目なくつながった古楽奏法の影響を受けない抑揚のゲリー・カーハーモン・ルイスの盤が日本のキングから出ています。残響のないちょっと変わった音のリチャード・ハートショーンダニエル・セドウィックのものもあります。

 古楽器ですが、ヴィオラ・ダ・ガンバではなく、ピッコロ・チェロによる演奏もあります。楽器としては同じ仲間と言えると思いますが、腕や膝で抱えるもので5弦あり、ヴァイオリンの音域までカヴァーできるということです。バッハ自身が持っていたこととこの曲の特徴からしてこの楽器でやる方がいいという考えもあるようで、アンナー・ビルスマボブ・ファン・アスペレンの小型オルガンによるソニー・ヴィヴァルテ盤、ピーター・ウィスペルウェイリチャード・エガーのチャンネル・クラシクス盤などがあります。ジキスワルト・クイケン等何名かの演奏家が使って話題になっているヴィオロンチェロ・ダ・スパッラやヴィオラ・ ポムポーサとこのヴィオロンチェロ・ピッコロもしくはピッコロ・チェロとが同じものか否かという議論は煩雑なので、専門の資料をご覧になってください。
 同様にヴィオラ・バスタルダによる演奏もあり、こちらの楽器はヴィオラ・ダ・ガンバのイタリアでの呼び名の一つだったものが楽器として独立し、やや小さめでテナーとバス・ヴィオール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)の中間ぐらいのサイズになりました。即興演奏に用いられるものとして特化したとも言われるようです。演奏しているのはブリュノ・コクセベルトラン・キュイエです。朗々と響く案外太い胴鳴りで、小さめとは思えない音です。

 さて、ヴィオラ・ダ・ガンバによる演奏ですが、古くはこの分野の草分け的存在でバーゼル・スコラ・カントゥムの創立者であるアウグスト・ヴェンツィンガーフリッツ・ノイマイヤーによるものがアルヒーフから出て、これはまだピリオド楽器とその奏法のムーブメントの前である50年代ということもあり、ビブラートを用い、チェロで弾くものと同様の朗々としたなめらかな抑揚で進めています。モノラルながら音も悪くありません。それからヨハネス・コッホグスタフ・レオンハルトによる1961年のドイツ・ハルモニアムンディ盤も出ました。こちらはステレオで、レオンハルトの弾き方も含めてやはり古楽器奏法のアクセントは見られません。抑揚の上で何か大きな特徴を感じさせる種類ではなく真面目な運びですが、この楽器でこの様式の演奏は珍しいので価値があると思います。有名どころとしてはヴィーラント・クイケンが同じくグスタフ・レオンハルトと録音した1974年 の、これも同じくドイツ・ハルモニアムンディ盤が出て、このあたりから後は独特のピリオド奏法が確立されてきます。クイケンは次男のピート・クイケンとアルカナから新盤も出しました。ジョルディ・サヴァールトン・コープマンと組んで1977年にオデオン/EMI、後にヴァージン・レーベルに変わった旧盤を出し、2000年には同じ顔合わせでアリア・ヴォックスから新盤を出しました。他ではマルセル・セルヴェララファエル・プヤーナのフィリップス盤、リン・ハレルイゴール・キプニスのデッカ盤もありました。
 サヴァールに習ったパオロ・パンドルフォも二度録音 しており、リナルド・アレッサンドリーニとハルモニ ア・ムンディ・フランスから90年代に出したものと、マルクス・フニ ンガーとの新盤があります。順不同に行きますが、ジョナサン・マンソン/トレヴァー・ピノックの盤も出ています。そしてややチェロっぽい音のファミ・アルカイ/アルベルト・マルティネス・モリーナ盤、パチ・モンテロ/ダニエレ・ボッカチオ盤はオルガンによる伴奏、カッサンドラ・ルックハルト/ピーター・ダークセンではオーボエ・ダモーレのソナタも聞けます。マルク・ルオラン=ミッコラ/ミクロス・シュパニの BIS 盤は伴奏がクラヴィコードとフォルテピアノの中間的存在である珍しいタンジェント・ピアノによっており、リュートにも似た響きに聞こえます。
 以下たくさんあるので、聞いてみたものを列挙します。

アリソン・クラム/ローレンス・カミングス
エッケハルト・ウェーバー/ロバート・ヒル
ダニエル・イアンドン/ネアル・ペレス・ダ・コスタ
マリアンヌ・ミュラー/フランソワーズ・ランジュレ
メアリー・ペルス/マーティン・クニツィア
ジャンニ・ラ・マルカ/ジョルジオ・セラソリ
ローレンス・ドレフュス/ケティル・ハウグサント
エミリー・ウォルハウト/バイロン・シェンクマン
ルシール・ブーランジェ/アルノー・ド・パスカル



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       Mikko Perkola (gamb)    Aapo Hakkinen (hc) ♥♥


ミッコ・ペルコラ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)/ アーボ・ハッキネン(チェンバロ)♥♥
 さて、ここからはやっと CD 演奏の中身に入って行くわけですが、数ある同曲盤の中で、自分が聞いて良かったなと思えたものだけを取り上げるスタイルにします。

 まず、シャコンヌで素晴らしい演奏を聞かせてくれたスザンヌ・ハインリヒがこれらのソナタを出してくれていないのがちょっと残念です。それと、一般的な古楽器奏法の流れに従ってボウイングを一音の途中でいったん強めて戻すアクセント(弦のテンションと弓の構造からそれが自然なのですが)があり、音節の区切りごとに間を置く息遣いで演奏されていて、その上でテンポが中庸だったりすると、お恥ずかしいながらもはや演奏の違いが
よくわからないという事態になってしまいます。そしてそんな状況下で、今のところ他よりも断然気に入っているのがこのペルコラの盤なのです。この楽器に造詣の深い人ならば、使用されている個体の違いによる音色の差や細かなフレージングの解釈について意見があるかもしれないので、そういう人が解説してくれると面白いだろうなと思います。ボキャブラリーがないのも困ったものです。

 ペルコラ/ハッキネン組などと書くとまるで自動車のラリー選手みたいですが、ミッコ・ペルコラは1977年フィンランド生まれのヴィオラ・ダ・ガンバ奏者で、アーポ・ハッキネンも同じくフィンで一つ年上の1976年生まれということです。ナクソスから出ているこの人たちのバッハは、数あるヴィオールのソナタの中で目立ってリラックスさせてくれる波長を持っています。テンポ自体も他よりゆったりめで、弾き方はピリオド楽器の演奏流儀は踏まえていますが、そのアクセントも学究的な形式にとどまらず、むしろ常にレガートで行く現代チェロの演奏よりも自然に感じます。景色を味わいながら散歩をするように一歩一歩進んで行くのですが、かといって前述の一音ごとに盛り上げるボウイングも毎度持ち上げるのではなく、ひとまとまりの楽節の後ろの方に照準を定め、必要に応じて大きな呼吸でつなげつつ持ち上げて行きます。つまり基本はむしろ抑え気味に静かに流しながら、一つの動機の解決へ向けて段々にクレッシェンドするように弓に力を込めて行ったりします。そして息継ぎをしたいところでは大胆に間をとって無音の空間を味わいます。その呼吸に命があるわけです。チェンバロの間の取り方が落ち着いているのも波長が合っています。この曲集をこれほど魅力的に聞かせてくれる例がなかったので、曲自体への認識も新たにしました。

 2007年ナクソスの録音は大変バランスの良いもので、チェンバロの音としては一番好きなものの一つかもしれません。上下鍵盤やレジスターをどう設定しているかは分かりませんが、
高い方に潤いがあって、バフ/リュート・ストップという意味ではなく、ギターで言うならピックで弾くよりも指で爪弾くのに若干近い音を多くの曲で出しているように聞こえます。ヴィオラ・ダ・ガンバがまた素晴らしく胴が鳴り、直に声を出しているようです。自信を持って力を込める歌が朗々と響くのですが、そこに繊細な倍音が加わって来るので、その音だけで人を落ち着かせる心理的効果があるかのようです。



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      Jaap ter Linden (gamb)    Richard Egarr (hc)


ヤープ・テル・リンデン(ヴィオラ・ダ・ガンバ)/ リチャード・エガー(チェンバロ)
 96年に同じレーベルから出した無伴奏チェロ組曲でリラックスした呼吸の演奏を聞かせてくれたオランダのチェロ/ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者のテル・リンデンは1947年生まれですから、前述のペルコラよりも30歳年上ということになります。チェンバロのリチャード・エガーの方はイギリス人で、ホグウッドの後のエンシェント室内管弦楽団の音楽監督としてその名が知られている人です。ヴァイオリンのマンゼと組んだソナタでは、その曲集のベストの一つかと思える演奏をしています。

 ペルコラ盤よりも全体に常に鳴っている感じで、テンポもあれほどはゆったりではありません。1999年録音ですので、チェロ組曲で元気さが増しているように聞こえた2006年の新盤よりは旧盤の方に時期が近いのですが、表現としては新盤寄りな気がしないでもありません。しかし数あるこの曲の演奏が古楽奏法の弾んで切るアクセントを付けて行くものが多いなかで、やはり落ち着いた味わいのある演奏であることに変わりはありません。レーベルはハルモニア・ムンディ・フランスです。ヴィオラ・ダ・ガンバの胴の音もペルコラ盤よりもやや上寄りのところが響く感じで若干軽く、より一般的な印象ですが、これも秀逸な録音です。次のシエンニワとは反対に残響が少し多めなことと、バランスはいいながら基音ではないずっと高い周波数の音がやや強めに響きます。



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      Audrey Cienniwa (cello piccolo)    Paul Cienniwa (hc)


オードリー・シエンニワ(ピッコロ・チェロ)/ ポール・シエンニワ(チェンバロ)
 アメリカ人の若い世代の演奏です。ポール・シエンニワは1972年生まれのチェンバロ奏者で、オードリーの方は名字は同じのようですがチェリストということだけで詳しいことはわかりません。ここで演奏されているのはピッコロ・ チェロです。楽器の呼び名については前述の通りです。この楽器を使う他の演奏家のものよりもピリオド奏法的なところが少なめで自然なので取り上げてみました。

 テル・リンデンの表現よりも場所によってはややスタッカート寄りに区切る運びもありながら、テンポ設定は同じぐらいかやや遅めでよく歌い、落ち着いた演奏であるところがなかなか好みです。ピッコロ・チェロは音程を少し低い方へずらし気味に押さえてから持ち上げる手法か何かかと思わせるような少々くすんだ音色で、オフで鼻にかかった独特の響きです。低いところから重いものをかき分けて浮上するような印象なのですが、そこが子宮回帰というのか、水の中で聞い ているようで少し眠くもあり、それもあって落ち着ける感じがするのかもしれません。速いパッセージでは多少音が塊に聞こえます。第1番の最初のところでチェンバロの伴奏がずっとトリルを鳴らし続けるのがちょっと煩わしいのですが、この方法は一定の数の奏者たちがやっていることなので、ここでの一つの常套的な処理のようです。

 レーベルはホエーリング・シティ・サウンドの2008年。二つの楽器とも高い倍音が主張しない音に録音され ており、ピッコロ・チェロは普通のチェロを思わせる野太さを感じさせます。チェロに対してチェンバロをもう少し抑えたバランスにして、残響ももう少しあると理想的なものになる気がします。



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      Helen Callus (va)    Luc Beausejour (hc) ♥♥


ヘレン・カルス(ヴィオラ)/ リュック・ボーセジュール(チェンバロ)♥♥
 ちょっと毛色の違うもので一つ、ヴィオラでの演奏を取り上げます。現代楽器の編曲ものです。ヘレン・カルスはイギリス生まれでシカゴで教えているヴァイオリニストであり、ヴィオラの第一人者としてアメリカ・ヴィオラ協会のリーダーを務めていたこともあるようです。女性なので年齢は明かされていません。演奏はピリオド奏法のセオリーには縛られず、自在に伸び縮みして心の赴くままに運ばれる大変魅力的なものです。といってもあっけらかんと屈託がないという方向ではなく、粘り腰なところもあってちょっと情熱的に心を揺するタイプです。オクターブ以上高く、ささやくように始まる冒頭第2番のアダージョからしてすでに惹きつけられます。そのアゴーギク、
ディナーミクは天性の流動性を持ち、モダン系の花形ヴァイオリンと同じ型というか、並み居るヴィオラ・ダ・ガンバの強者を相手に一人木の葉返しをしてるみたいな目立ちぶりです。ペルコラのようにベースは静かに抑えておいて盛り上げるというよりも、全体にヴォルテージが高めで流れるようにオンな、よりテンションのある印象です。聞いていて大変美しく、リラックス系と言うには妖艶過ぎますが、ある意味十分にリラックスもできます。

 2014年にカナダの教会で録音した音は残響もあって色っぽい音です。楽器がモダンなだけに古楽器系の繊細な倍音ではなく、中域に張りと艶があってボディのしっかりした音です。優秀録音と言えるでしょう。レーベルはカナダのアナレクタ。バッハのオルガンの弟子であるクレープスと、ヴィオラ・ダ・ガンバ最後の名手と言われたアーベルの曲も入っています。



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