ベートーヴェン / 交響曲第1番 この曲だけ取り出して聞いてみようということがあまりなかったこともあり、他の交響曲はだいぶ前に取り上げたのになおざりになってました。しかし作曲家にとって最初の交響曲というのは大きなことであって、ブラームスなどはベートー ヴェンの偉業が高い峰となってはだかり、21年も作曲できなかったといいます。確かにベートーヴェンの九つの交響曲は、ハイドンがそのジャンルの父と言われるにしてもやはり最も高い峰を形成しているでしょう。ではそのベートーヴェンにとっての始まりは、彼の人生の中ではどんな時期だったのでしょうか。書いたのは三十歳ぐらいのときです。ピアノを教えて生計を立てていたベートーヴェンは不滅の恋人説で登場するテレーゼ/ジョセフィーヌ姉妹やジュリエッタとこの頃知り合っていますが、女性に夢中になっては傷ついていたらしいということを除けば、誰がラブレターの相手だったかなど、詳しいことは何も分かっていません。難聴はすでにひどい状態で、二年後にはハイリゲンシュタットの遺書を書きます。ピアノ・ソナタで言えば「悲愴」なんかはもうすでに書いていました。 初期の作品なので、まだモーツァルトなどの作風の影響があるとも言われる一方、聞けばベートーヴェンらしい勇ましさも感じられます。では、この第1シンフォニーでは誰の演奏が良かっただろう。その問い自体が嗜好の問題でしかないわけです。長く聞いているとあの曲はこうやってほしいというような考えが色々と形成されて来ます。でもベートーヴェンという人が一人ならば、一人の指揮者と楽団にも統一性があります。 Beethoven Symphony No.1 in C major, op.21 Christopher Hogwood Academy of Ancient Music ♥♥ ベートーヴェン / 交響曲第1番 ハ長調 op.21 クリストファー・ホグウッド / アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック ♥♥ そんなわけで古楽器演奏の中からハイドンの「朝、昼、晩」で美しかったホグウッド盤を挙げます。少人数ゆえに透明度が高く、各パートが見通しが良いものです。他にもピリオド楽器のバンドはたくさんあるけれども、ホグウッドはテンポが他よりもゆったりとしており、鋭角的になりません。よく歌っていてなごむのです。オワゾリール1983年の録音です。 Beethoven Symphony No.1 in C major, op.21 Mariss Jansons Bavarian Radio Symphony Orchestra ♥♥ ベートーヴェン / 交響曲第1番 ハ長調 op.21 マリス・ヤンソンス / バイエルン放送交響楽団 ♥♥ やはりヤンソンスはいいです。2012年の来日公演を中心に組まれた全集の演奏は喜びに満ちていて素晴らしいものでした。この第1番も大変魅力的です。こちらは小編成の古楽器オーケストラではなく、ピリオド奏法の影響も感じられないものですが、のびのびしていて他では味わえない楽しさを覚えるので外せません。弾力があって自発性に満ち、生き生きしており、この曲の魅力を十二分に引き出していると思います。これなら「1番は初期の作品で完成度がね...」などと言う気は失せるのではないでしょうか。モーツァルトのジュピターの楽しさと39番の美しさを併せ持った名曲に聞こえる、と言ってしまいます。日本公演なので最後にお約束の秘密結社、ブラボー団のお声が聞かれますが、楽音が鳴り止んでからなのでよかったです。来日前に日本限定で発売された全集もあり、そちらはミュンヘンのヘラクレス・ザールでの収録なので「ブラボー」がないものの、上述のような素晴らしい演奏の特徴が表れているのはサントリー・ホールでの方ですので、国内で全集を買われる方は注意されるとよいと思います。装丁はほとんど同じで、まだ両方手に入るようだからです。値段でも区別がつかず、よく調べないと間違えると思います。海外から取り寄せれば問題はないでしょう。 INDEX |