|
ラモー / コンセールによるクラヴサン曲集
![]() Jean-Philippe Rameau
terracotta bust, Jean-Jacques Caffieri 1760, Musée de beaux-arts, Dijon
photographed by Rama, transformed, Attribution-Share Alike 2.0 France
バロック時代のフランスの室内楽作品としてクープランのものに次いでよく知られているのがラモーの「コンセールによるクラヴサン曲集」でしょう。この手の作品としては多くの演奏家がこぞって録音するクラシックの重要なレパートリーであり、クープランとはまたちょっと趣が異なるもののフランスらしいというか、同様に典雅で活きいきとした楽しさに溢れ、少しメランコリックなパートもある名曲です。静かにゆったりと歌われる第5番の第二組曲「キュピ」などは個性的な旋律線があってこの曲集の白眉でしょう。ラモーは独自の音楽理論を展開するクラヴサンの独奏曲でも知られており、カンタータやモテットも作ったし後年はオペラに熱中しましたが、室内楽となるとこの曲集のみです。
ラモーその人について
そのジャン=フィリップ・ラモーは1683年生まれで1764年に亡くなっていますので、世代としてはほぼバッハ(1685-1750)と同じぐらいということになります。同じフランス・バロックということで見るならルイ・クープラン(1626?-1661)やリュリ(1632-1687)らの半世紀ほど後の世代で、フランソワ・クープランと比べると十五歳年下になり、活躍時期は一部重なります。その(大)クープランは太陽王ルイ14世(1638-1715 位1643-1715)に仕え、ルイ14世の宮廷楽長は当時圧倒的な権勢を誇り、やりたい放題で自分の足を指揮棒で突いて死んだなどと言われるイタリア出身のリュリでした。でもラモーは1745年にその後のルイ15世(1710-1774 位1715-1774)の宮廷作曲家に任命されたのであり、そういう数え方だとルイ14世の時代はリュリ、15世はラモーということになります。
生まれてからパリに来るまで
生まれたところはパリからスイスの方角へ250Km ほど行ったブルゴーニュ地方の中心地、ディション。サンドイッチにつけるマスタードで有名かもしれませんが、そこの大聖堂のオルガニストが父親という家庭でした。若い頃は国外のミラノも含めてあちこちの土地に出かけて行って住み、音楽で身を立てようとは思ってなかったようだけど、結局父親の後を継いだように教会オルガニストとなりました。ヴァイオリンも名手だったようなので大変な才能です。そしてクレルモンや生まれ故郷、リヨンなどでオルガンを弾き、パリにも二度行って最終的に定住します。二度目に行ったのが1722年のほぼ四十歳頃のことで、実はそれ以前の出来事については多くは分かっていません。秘密主義とも言われる人で、奥さんですら結婚以前のことは知らなかったのではないかとも言われるようです。その奥さんであるマリー=ルイーズはリヨン出身の王室音楽家の娘で彼の弟子だった人であり、ラモーはパリ定住時には音楽理論の出版で有名になった(現在の理論の基礎になっています)のですが、弟子も取るようになっていて、本格的移住の4年後に結婚しています。ラモー四十二歳、奥さん十九歳でした。上手な歌手だったそうです。
本格的活躍から亡くなるまで
パリで四十歳頃になってやっと芽が出て来たラモーですが、その後はとんとん拍子で音楽界に地位を築いて行きます。音楽理論の評判だけでなく、いわゆる取税人として莫大な富を築き、芸術家のパトロンとなっていたアレクサンドル・ド・ラ・ププリニエールという人の援助も受けられるようになります。その愛人で後に妻となった人がラモーの弟子であり、賛美者だったことからのようです。ラモーはそのププリニエールの有名な私設オーケストラで長きにわたって指揮者を務めました。この援助者の下では住む家も含めて21年間お世話になっています。そして五十代以降は専らオペラで名を馳せるようになります。このページでは基本的にオペラは取り上げませんが、序曲や組曲仕立てにした管弦楽版がクラヴサン奏者のルセが率いるレ・タラン・リリク(この「コンセール〜」についても弦楽合奏版的なものを出しています)やブリュッヘンと18世紀オーケストラ、レオンハルトとエイジ・オブ・エンライトメント管弦楽団など、いくつか録音として出されています。当時としては過激だった和声を今でも驚きとともに聞けるという人もいるけれども、劇音楽としての楽しい雰囲気を存分に味わえると思います。こうしたオペラはどれも好評をもって受け入れられ、ついには前述の通りフランス・ブルボン朝、ルイ15世の宮廷作曲家にまで上り詰めるのです。
ラモーの性格
ラモーの人柄については色々見方があるようです。一般には秘密主義、厳格で頑固、理論が勝った人など、とっつきにくそうに言われることが多いでしょうか。晩年は確かに人付き合いが悪くて人間嫌いの一面もあったようで、後述する論争に辟易したのかもしれません。でもそうした好ましくない性質については反対派からの見方も含まれているはずです。王宮の音楽家としての以前の権力者だったリュリ派の人たちは彼の新しい音楽理論を良く言わなかったし、もっと大きな対立もありました。有名な啓蒙主義思想家のヴォルテールとは一緒にオペラを作ったけれども、そのヴォルテールの急進的な姿勢が教会権力者たちの不興を買ったし、これも著名な思想家であるジャン=ジャック・ルソーからも攻撃を受けました。ルソーは元は作曲家になりたかった人で、音楽作品も作っています。その詩と音楽をラモーが盗作したと主張したのです。今日の音楽学者はその該当部分を見つけられませんが、ルソーは攻撃を続けました。そしてその後「ブフォン論争」(Quarrel des Bouffons)というものも巻き起こりました。大雑把に言えばオペラはイタリア流がよいか、ラモーのようなフランス流が優れているか(イタリアのオペラ・ブッファかフランス流悲劇か)という論争です。そして多くを巻き込んだこの論争においてもルソーはラモー批判の急先鋒でした。争いはラモーの死まで続きます。このように敵が多かったラモーですから、彼の性格を悪く言う記述が残っていても不思議ではありません。でもそれは公平な見方ではないでしょう。最終的には貴族の称号も授けられ、王室から年金も与えられるまでになったけれども、時間をかけて地位を築いて行って晩年になって安定した生活を手にした人ゆえに、常日頃から質素な生活を心がけ、着飾らないで同じ服、同じ持ち物を使い続けたし、一方で気前良く病気になった姉に年金を与えたり、修道院に入る娘に多額の持参金を持たせたりし、弟子が音楽で身を立てるのを援助したりもしたそうです。良き夫で父であり、以前は多くの付き合いがあり、友達も多かったのです。ここで取り上げるコンセールによるクラヴサン曲集はそんな楽しい友情から発想されたものです。そして当時としては大変長生きであり、八十歳まで存命でした。八十一歳の誕生日を目前にして調子を崩し、死の床についたときは、ベッド脇でのお祝いの歌を遠慮しました。「なんですって? 私に歌をうたってくれるつもりなの、神父さん。あなた音程外すでしょ」と言ったということです。そしてそれが最後の言葉となりました。
作品について
「コンセール形式によるクラヴサン曲集」(Pièces de clavecin en concerts)が楽譜として出版されたのは1741年。脂の乗った五十八歳頃の作品ということになります。バロック期のフランスの管弦楽組曲を意味する「コンセール」という言葉が入っている通り、クラヴサンとともにいくつかの楽器が活躍する室内楽形式となっており、クラヴサン独奏曲もラモーの中で重要な位置を占めるにもかかわらず、その多様な音色から最も人気を誇る作品となっています。ただしコンセールといっても伝統的な舞曲の組曲スタイルではなく、急緩急のイタリアン・コンチェルトの様式に近いです。楽器構成はクラヴサン以外にヴァイオリンとヴィオラ・ダ・ガンバというのが基本で、ヴァイオリンはフルートに、ヴィオラ・ダ・ガンバは第2ヴァイオリンに換えても良いということになっていて自由度があります。したがって演奏する側もそれだけにとどまらず、多少のアレンジを加えている例も多く見られます。何の楽器で演奏するかによってちょっとイメージの変わる曲です。そして「クラヴサン曲集」となっているように、クラヴサンが主体となっており、場合によってはそれだけで演奏される例もあります(作曲者も奨励しており、録音も複数出ています)。そうなるとまた印象ががらりと変わり、二人のクープランのたくさんのオルドルとも比べられるような曲集という感じです。室内楽といってもこのように本来はクラヴサンが主体であり、当時一般的だったイタリア流のトリオ・ソナタとは違い、それがただ伴奏(通奏低音)の役割を果たすものではありません。かといってバッハのソナタのように各楽器が平等というわけでもなく、メロディー楽器を伴ったクラヴサン曲なのです。ラモー自身、「三つの楽器が等しく混ざり合うのではなく、互いに聞き合い、特にヴァイオリンとヴィオールはクラヴサンに合わせ、主題部分に対して伴奏は何かを区別すべきである」と述べています。このような性質から、むしろ古典派時代のピアノ・トリオを先取りしていたのではないかとも言われます。
曲調について
曲調についてのラモー作品の特徴としては、「旋律より和声(ハーモニー)を強調する」とルソーが批判していたり、オペラになるとこれが和音ではなく「踊るようなリズムが目立って旋律は前面に出ない」などと評されたりもするようです。確かにこの曲集でもメロディー・ラインのはっきりしない律動的な曲はあり、一定のリズムで強いアクセントを付けず、同じテンポで演奏されると抑揚の入る余地がなくなり、互いに表現の違いが聞き取り難くなるということもあるはあります。しかし一方で訴えかけるような個性的な旋律もいくつも聞かれるのです。クープランなどよりもむしろ固有のメロディーが突出しているかもしれません。また、これもオペラで言われるのと同様に「ハーモニーが大胆であり、当時の枠を超えて斬新だ」という声も聞かれますが、複雑な和音はクープランにもあったことだし、当時としては先端だったかもしれないけれども、こと「コンセール〜」に関しては現代の我々には抵抗なく受け入れられてしまうかもしれません。今の音楽理論の基礎を築く著作をものしたというラモーの学術的な功績がそう聞かせる一面もあるのでしょう。このあたりの事情は聞き手が音楽理論に詳しいかどうか、音に敏感かどうかでも変わって来ると思います。個人的にはルイ・クープランの感情的に割り切れないような大胆さ、フランソワ・クープランの持つ貴族的で病的なまでに繊細な感受性や現世への懐疑的な眼差しはあまり感じさせず、哀切な旋律が出ても心地良く聞いていられるような気がします。機知に飛んだ諧謔があっても神経質にならず、むしろ健康的で楽しいので流れに身を任せられるのです。身近な人たちの名前が出て来る曲などは親しげです。曲の形式ではなく、情緒的な印象として似ているバロック時代の室内楽を探すとなると、より大らかなヘンデル、あるいはスティルス・ファンタスティクスと呼ばれるブクステフーデのトリオ・ソナタあたりが楽しさという点で近いでしょうか。この「コンセール〜」は何かの室内ゲーム用途として作られたのではないかという見方もあるようです。実験的な大胆さと驚きを感じるのはむしろクラヴサン独奏曲の方で、斬新さで比べるならそちらでないとフェアじゃありません。クープランより忍耐力を感じさせる持続的な指向性、意識的・客観的な眼差しがあるかもしれないけれども、「新クラヴサン組曲集」(「めんどり」が有名です)の「エンハーモニック」には不思議な調性の変化があります。個性を聞かせようというピアニストのレパートリーにもなっているぐらいです。ラモーという人、大衆受けと先端的理論追求のバランスを取れる大人の感性の持ち主だったのかもしれません。
構成
組曲形式なのでそれぞれの曲が三つ(もしくは四つ)の楽章から成っており、各々に表題が付けられています。人名があるとともに地名もあり、抽象的に「煩わしさ」、「はにかみ」などの性質を表すタイトルもあります。以下に構成を示し、その後に各タイトルの意味に触れます:
第1番
1. クリカン (La Coulicam)
2. リヴリ (La Livri: Rondeau Gracieux)
3. ヴェジネ (Le Vézinet)
第2番
1. ラボルド (La Laborde)
2. ブコン (La Boucon: Air Gracieux)
3. 煩わしさ(アガサント L’agaçante)
4. 第1、第2メヌエット (Premier menuet, Deuxième menuet)
第3番
1. ラ・ププリニエール (La Lapoplinière)
2. はにかみ(内気/臆病 La timide: 1er Rondeau, 2e Rondeau)
3. 第1、第2タンブラン (Premier tambourin, Deuxième tambourin en Rondeau)
第4番
1. パントマイム(パントミム/無言劇 La pantomime)
2. 無分別(軽はずみなおしゃべり L’indiscrète: Rondeau)
3. ラモー (La Rameau)
第5番
1. フォルクレ(フーガ La Forqueray: Fugue)
2. キュピ (La Cupis)
3. マレ (La Marais)
![]() Marie-Anne de Cupis de Camargo
クリカン:1741年に「タマス・クリ=カーン、ペルシャの新しい王」として再版されたジャン=アントワーヌ・デュセルソーの「最後のペルシャ革命の歴史 1728」の中に出て来るそのタマス・クリ=カーンというペルシャ王の名前。「クリカン」は過去には「妻を寝取られた友人」という意味の l'ami cocu の語呂合わせではないかとも言われて来た。
リヴリ:ラモーも会った芸術家たちのパトロンで、1741年に亡くなったコムト・ド・リヴリを讃えて。
ヴェジネ:人気の散歩道があったパリの西方の、当時は田舎だった町の名前。ラモー自身、友人たちとそこを散歩するのが好きだった。
ラボルド:後に作曲家、作家として有名になったラモーの弟子、ジャン=バンジャマン・ド・ラボルドのことではないかとされる。十五歳でその最初のオペラが上演されたという神童だったが、当時は七歳であり、そうなると別のラボルドかもしれない。1759年に新しい半音階を持つクラヴサンを発明した(?)イエズス会の侯爵のことである可能性もあるが、謎である。
ブコン:有名なクラヴサン奏者アンヌ=ジャンヌ・ブコン(1708-1780)のこと。芸術愛好家で保護者だったエティエンヌ・ブコンの娘で、ラモーは一家と親しくしていた。
アガサント:フランス語の動詞「いらいらさせる」から。性質のこと。「はにかみ」もすぐに縮み上がるような控えめな性質を描写。
ラ・ププリニエール:ラモーのパトロンだったアレクサンドル・ジャン・ジョゼフ・ル・リシュ・ド・ラ・ププリニエール(1693-1762)のこと。
タンブラン:タンバリン。ドラムのような伴奏とバグパイプを模したメロディが特徴の陽気なプロバンスの二拍子のダンス。これやムニュエ(メヌエット)などはラモーの好きな舞曲の形式。
パントミム:パントマイム。華やかな舞台のショーから、カクカクとした楽しく滑稽なゼスチャーの様子。
無分別:うわさ話に熱中する様。
ラモー:作曲家ラモー自身、あるいは歌手であるその奥さんの自画像、もしくはラモー家の鍵盤楽器演奏の風景かもしれない。その精力的なアルペジオが練習風景を彷彿とさせるところから。
フォルクレ:超絶技巧のヴィオラ・ダ・ガンバ奏者、ジャン=バプティスト・アントワーヌ・フォルクレ(1671-1745)のことか。ラモーはブコンの家で会っている。あるいはその息子であるジャン=バプティスト・フォルクレ(1699-1782)である可能性も。1741年にジャン=バプティストは再婚したので、その結婚プレゼントとして贈られたのかもしれない。鐘の反復のような音形がそのことを想起させる。それともクラヴサン奏者であるその二度目の奥さんのことかも。
キュピ:ブリュッセル生まれでオペラ座で人気を得たバレエ・ダンサー、マリー=アンヌ・ド・キュピ・ド・カマルゴ(1710-1770)のこと。ラモーのオペラ=バレーにも出演。あるいは1741年に生まれた彼女の甥(兄弟であるフランソワ・キュピの息子)の誕生を祝ったとする意見もある。曲は確かに子守唄のようでもある。しかしこれについてはフランソワが1732年生まれだという説もある。一方で彼女のお兄さんであるヴァイオリニストのジャン=バプティスト・キュピのことである可能性も。ジャン=バプティストはコンセール・スピリチュエルにおいて作曲家でヴァイオリンの名人、ルクレールのライバルであった。
マレ:作曲家でヴィオラ・ダ・ガンバ奏者のマラン・マレ(1656-1728)、もしくは彼の息子の一人のことか。ヴィオラ・ダ・ガンバの作品を何冊か出版しているロラン・マレは有名。
これまでの主だった録音
名の通った演奏家、古楽分野で活躍する人たちなど、この「コンセール〜」で一般に話題に上る録音について、後でジャケット付きで取り上げない分をまず概観してみます。取り上げないから良くないということではなく、個人的な観点でのピックアップに過ぎません。
年代順に行きますが、まずはグスタフ・レオンハルト(クラヴサン)/フランス・ブリュッヘン(フラウト・トラヴェルソ)/ジキスワルト・クイケン(ヴァイオリン)/ヴィーラント・クイケン(ヴィオラ・ダ・ガンバ)による1971年録音のテレフンケン(ダス・アルテ・ヴェルク)盤があります。リズムがくっきりとして折り目正しい演奏です。クラヴサンには不均等な間があり、装飾に付随して馳けるような古楽のアクセントが聞かれ、跳ねもあります。このムーブメントが真新しかった頃はそこに耳が行きました。でも拍自体の進行はほぼ一定でゆっくりしており、すっかり慣れてしまったこともあって今聞くと大変真面目な運びに感じられます。ブリュッヘンがフルートを吹いているのも魅力です。そちらも落ち着いた印象です。レオンハルトは55年にもアーノンクール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)らとモノラル盤も出していました。
1986年にはイギリスのバロック・ヴァイオリンの名手、モニカ・ハジェットとサラ・カニンガム(ヴィオラ・ダ・ガンバ)、ミッツィ・メイヤーソン(クラヴサン)によるトリオ・ソネリー盤がヴァージン・クラッシックスから出ました。こちらのクラヴサンはレオンハルトよりも古楽的なアクセントがあり、時間軸方向の崩しがよりはっきりしているかもしれませんが、全体的にはゆったりめで少し重みを感じさせる拍の運びであり、速いテンポのところもある一方で、軽妙洒脱というよりはやはり真面目に取り組んでいる感じがします。
古楽畑ではないですが、フルートで当時皆がその名を知っていたのはジャン=ピエール・ランパルです。アイザック・スターン(ヴァイオリン)、ジョン・スティール・リッター(クラヴサン)の組み合わせで88年に録音しています。こちらはもうピリオド奏法など全く関係のない伝統的な運びです。古楽運動の前はこうだったなというマナーで、リズムに癖はないけど弾みはあり、別の意味で活気が感じられます。キュピの呼吸はあっさりとしています。華麗と言われたフルートが堪能できます。
エンシェント室内管で活躍したイギリスの古楽ヴァイオリニスト、キャサリン・マッキントッシュとローレンス・ドレフュス(ヴィオラ・ダ・ガンバ)、シェティル・ハウグサン(クラヴサン)による1992年の録音は、ノルウェーのレーベル、シマックス・クラシックスから出ています。スタッカート的に区切るリズムのクラヴサンに乗って、ゆっくりかっちりとしたフレージングで進められます。
世界的に評価されているバロック・ヴァイオリンの寺神戸亮とヴィーラント・クイケンに師事した上村かおり(ヴィオラ・ダ・ガンバ)、そしてフランスのクラヴサン界でも中心人物となっているクリストフ・ルセが1992にハルモニア・ムンディから出した録音も人気と定評のあるものです。売れ行きも有田正広盤と並んで日本では一、二を争うのではないかと思います。ルセのクラヴサンはいつものように粋な崩しの傾向は聞かれるものの、拍の大きな延び縮みや揺れはなくて案外真っ直ぐに感じます。テンポは平均して中庸と言ってよく、必ずしもゆったりというわけではありません。跳ねて語尾を切り上げるようなアクセントは出すのにそつがなく、正確で真面目な感じがしますが、同じ調子で安定しているので淡々と流れて行くような趣もあります。ルセなのに真面目でかっちりとした拍の進行というのは意外だったけれども、よく考えればレ・タラン・リリクの運びにもそういうところがあるので、元々そうした傾向は持っていてこちらの理解不足なのかもしれません。あるいはアンサンブルなので主導権が彼にあるわけではないのでしょうか。ヴァイオリンも正確で非の打ち所がないと思います。キュピでの歌わせ方もすっきりとしています。全体に格調高い、折り目正しい演奏です。
クイケン兄弟たち三人(バルトルド・クイケンのフラウト・トラヴェルソ、ジキスワルト・クイケンのバロック・ヴァイオリン、ヴィーラント・クイケンのヴィオラ・ダ・ガンバ)と彼らにいつも寄り添って来たベルギーのチェンバロ奏者、ロベール・コーネン(2019年に亡くなりました)による演奏もアクセント・プラスから1994年に出ました。クラヴサンは飾りが多く不均等な走りも聞かれ、よく弾んで切れも良いですが、他の奏者も含めて全体的に聞いていると拍に重さと真面目さがあるように感じられます。いかにもフランス流儀の音楽というのとは違うかもしれません。音が鳴り響いている感じがするのは残響成分のせいもあるでしょう。バルトルドの力を抜いて吹いて行くキュピは独特でいいと思います。
寺神戸亮に触れましたがフルートの有田正広を忘れてはいけません。この人の笛は大変好みで、バッハも良かったし色々愛聴しています。奥さんの有田千代子がクラヴサン、若松夏美がヴァイオリン、ヴィーラント・クイケンがヴィオラ・ダ・ガンバで、Denon の1996年録音です。聞いてみると全体に真っ直ぐ素直な運びであり、ゆったりとしています。ピリオド奏法のアクセントはあまりないでしょう。キュピのフラウト・トラヴェルソもゆったりとして、古楽の癖はあまり出さずに素直だけど美しいです。
クリストフ・ルセは自らが率いるレ・タラン・リリクとして2000年録音でデッカからも出しています。こちらは弦楽六重奏へと編曲したもので、弦楽合奏の響きで趣が異なります。キュピなど、コレッリの合奏協奏曲の緩徐楽章を聞いているような感じでしょうか。
チャンネル・クラッシックス2002年の録音で出たのはイギリス古楽の重鎮トレヴァー・ピノックがクラヴサン、日本でも人気のあるレイチェル・ポッジャーがヴァイオリン、ジョナサン・マンソンがヴィオールというものです。モダン楽器の奏法ではないけれども、あまりピリオド奏法の感じもしない方です。軽快な楽章もある一方、全体にはおっとりとした運びという印象で、一歩ずつ確実に拍を進めるパートもあります。また、テヌート気味のヴァイオリンが引きずるようにたわませて弾いており、優雅だったり、あるいは多少重く感じるところもあるかもしれません。キュピは落ち着いてたっぷりと歌います。
レ・タンブルはフランスの古楽アンサンブルで、日本人の川久保洋子がバロック・ヴァイオリン、ミリアム・リニョルがヴィオラ・ダ・ガンバ、ジュリアン・ウォルフスがクラヴサンというメンバーです。ベルギーのフローラから2013年録音のものが出ました。軽やかながら当たりがやわらかく、力こぶの入らないリラックスした演奏です。古楽奏法のツボは押さえながらもエキセントリックなところは全くありません。擦弦楽器の二人の調子が似ており、いぶし銀的な世界を現出させています。クラヴサンもリズムが鋭くなく、心穏やかに夢の中に入って行けるような上質さがあります。
もう一つ、邦人演奏家の入る団体の演奏です。イル・ガルデリーノは1988年設立のベルギーのバロック音楽アンサンブルですが、2014年パッサカイユ録音のこのラモーのメンバーにはヴァイオリンの寺神戸亮、ヴィオラ・ダ・ガンバの上村かおりが含まれています。ハルモニア・ムンディ盤とは違い、クラヴサンはルセに代わって韓国のチョー・スンユン、そしてフラウト・トラヴェルソのベルギー人、ヤン・デ・ウィンネも加わります。テンポは平均すれば中庸ですが、ゆったりめに響く曲も多いです。前出のレ・タンブルとリズムが似ているわけではないけど、角のない印象の真っ直ぐさは緊張感を感じさせないもので、軽快に揺れる曲があってもどこかのんびりした感じがします。2番のラ・ブコンなどゆったりたゆたってきれいです。フルートが絶品です。ヴァイオリンもルセとのハルモニア・ムンディ盤のときより歌わせているでしょうか。あのときの演奏はともするとかっちりと几帳面な感じもしました。一方、キュピの方は相変わらず端正であっさりとしているのが魅力という印象です。
他にもレザール・フロリサンが組物で出していたり、イル・ジャルディーノ・アルモニコが当時の衣装で演奏する映像が YouTube に上がってたりしますが、それらは一枚ものの CD やサブスクライブでは聞き難いかもしれません。
CD で買えてサブスクリプション・サイトにあるものとして他には以下のアルバムも聞けました:
アラン・カクストン(クラヴサン)/ ケネス・ミッチェル(ヴァイオリン)
エリザベス・パリー(フルート)/ アリソン・クラム(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
ナクソス 1990
キアラ・バンキーニ(ヴァイオリン)/ フランソワーズ・ランジュレ(クラヴサン)
マリアンネ・ミュラー(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
リンドロ 1999
トリオ・アルカンジェロ・コレッリ
ヨアヒム・フォーゲルゼンガー(クラヴサン)/ アンケ・ファッカート(ヴァイオリン)
ペーター・ランプレヒト(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
アルテ・ノヴァ・クラシックス 2005
バロック・ヌーヴォー
チャールズ・シャーマン(クラヴサン)/ アンソニー・マーティン(ヴァイオリン)
シュテファン・シュルツ(フラウト・トラヴェルソ)/ ジョセフ・リー(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
リフェレンス・レコーディングス 2008
ブルーノ・プロコビオ(クラヴサン)/ パトリック・ビスマス(ヴァイオリン)
フランソワ・ラザレヴィチ(フルート)/ エマニュエル・ギグー(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
パラティ 2012
インペトゥス・マドリッド・バロック・アンサンブル
ヤゴ・マウーゴ(クラヴサン)/ パブロ・グティエレス(ヴァイオリン)
ジョルディ・コメラス(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
CMY バロック 2014
アンサンブル・アポセオシス
コーネル・ベルノレ(クラヴサン)/ アネリース・デコック(ヴァイオリン)
シアン・ユイブレシュト(フルート)/ マチルド・ヴィアル(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
エトセトラ 2015
アッカデミア・ストゥルメンターレ・イタリアーナ
パトリツィア・マリサルディ(クラヴサン)/ ロゼッラ・クローチェ(ヴァイオリン)
ルイージ・ルーポ(フルート)/ アルベルト・ラージ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
チャレンジ・クラシックス 2021
では、以下に主観的観点ながら良いと思えた録音を挙げます。フランスの王宮に仕えた人の音楽ということで、歌があって舞曲の楽しさが感じられるというか、学究的になり過ぎず、四角四面なリズムや癖のあるアクセントに覆われないで、かといって優等生の眠い進行にも陥らない活きいきとした演奏がいいと考えます。特定の文化圏には限らないけど、長らく自在で遊びのある洒脱なパフォーマンスを探して来ました。例によって売れ筋とは少しずれているかもしれません。
![]() Jean Philippe Rameau Pieces de Clavecin en Concerts (1741)
André Raynaud (hc) Jean-Marie Giaume (vn) Loys Belton (fl) ♥♥
Sylvie Moquet (gamb)
ラモー / コンセールによるクラヴサン曲集(1741)
アンドレ・レイノー(クラヴサン)/ ジャン=マリー・ジオーム(ヴァイオリン)♥♥
ロイズ・ベルトン(フラウト・トラヴェルソ)/ シルヴィ・モケ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
デジタルになった頃の80年代で最近とは言えない録音ながら、サブスクライブの配信で最近どこでも聞けるようになって来た演奏です。大変良かったです。CD としては大手通販サイトでは買い難いようで、MP3のダウンロード販売になってしまいます。どうしても買うとなると、このレーベルを扱う専門店のカタログに見つけられたり、中古盤が高値で売りに出されているような状況です。
メンバー全員の詳しいこともあまり分かりません。アンドレ・レイノーは1937年生まれのフランスのクラヴサン奏者で、ユゲット・ドレフュスとケネス・ギルバート(ほぼ同世代ですが)に学び、クリストフ・ルセの先生だということ、ヴィオールのシルヴィ・モケはジョルディ・サヴァールとヴィーラント・クイケンに師事したということぐらいです。
この盤の特徴としては、ヴァイオリンだけではなくフルートが活躍することが挙げられます。この曲は大きく分けて旋律楽器がヴァイオリンの場合とフルートの場合がありますが、この演奏ではヴァイオリンもフルートも参加しており、曲によって使い分けています。有名なキュピのある5番はフルートがやっており、フルートの雰囲気が好きな人にとってはありがたいでしょう。後で触れるアンサンブル・マスク盤が個人的には最も好きな歌わせ方になるかもしれないながら、それとは違った落ち着いた雰囲気で魅力的であり、フルート版の双璧という感じです。
古楽器による古楽奏法の録音です。フランスの人たちによるもので、オランダやベルギーなどの有名な古楽の演奏家たちとはまたちょっと趣が違い、ピリオド奏法のたわみのある運弓法ではあるけれども重たかったり引っかかるようなアクセントはないし、生真面目過ぎる拍の進行でもなく、ラモーには相応しいかと思います。テンポは少しゆったりめの曲が多く、大き過ぎないながら気持ちの良い揺らぎがあります。どこか優雅で、ひなびた感じもあります。大変聞きやすく、フレンチ・マナーで落ち着いていてフルート系となるとベストです。
1983年録音で、レーベルはフランスのピエール・ヴェラニーです。全体に細身ではない音場で、フルートや低弦は太めで潤いがある一方、クラヴサンには高めの倍音成分が含まれるパッセージもあります。中音の特定の周波数に残響があって心地良いながら、下から上昇する音形ではその反響によってかピッチが上がり切らないかのような響きになる瞬間も稀に聞かれます。下からずり上げるような古楽奏法もあるでしょう。でもアンサンブル・マスク盤より機器によっては聞きやすいかもしれません。きれいな音です。
![]() Jean Philippe Rameau Pieces de Clavecin en Concerts (1741)
Ensemble les Nièces de Rameau ♥♥
Aline Zylberajch (hc) Alice Pierot (vn)
Florence Malgoire (vn) Marianne Muller (b-gamb)
ラモー / コンセールによるクラヴサン曲集(1741)
アンサンブル・レ・ニエス・ド・ラモー ♥♥
アリーヌ・ジルバラージ(クラヴサン)/ アリース・ピエロ(ヴァイオリン)
フロランス・マルゴワール(ヴァイオリン)/ マリアンヌ・ミュラー(バス・ヴィオラ・ダ・ガンバ)
こちらもフランス勢だけど CD としてはまだ手に入る方でしょうか。アンサンブル・レ・ニエス・ド・ラモー盤です。上記のレイノー盤よりも軽快な運びで、旋律楽器は通常のヴァイオリンによるものです。フレンチ・マナーでヴァイオリンものでは個人的にベストかと思いました。本国人の演奏だからという選び方をしたいわけではないのだけれども、やはり四角四面の拍になったりしない軽妙な運び、たわみと自在な動きのある抑揚は素晴らしいと思います。何気なさがありながらくそ真面目にならない粋なラモーであり、最も洒落た雰囲気があります。1番はやや素早く、軽やかな印象です。キュピも遅く重くはならず、繊細に歌います。
アリーヌ・ジルバラージはフランスのクラヴサン奏者で音楽学者。ロベール・ヴェイロン・ラクロワに師事しました。1960年生まれで2023年に亡くなったフロランス・マルゴワールは同じくフランスのヴァイオリニストで、この団体の創立者です。指揮者のジャン=クロード・マルゴワールの娘であり、ジキスワルト・クイケンに師事したとのこと。多くの有名古楽バンドで活躍しました。アリース・ピエロもヴァイオリンで、このバンドのメンバーです。マリアンヌ・ミュラーはヴィーラント・クイケンに師事したヴィオラ・ダ・ガンバ奏者です。
1998年録音で、レーベルはアコード。軽やかでありながら耳に痛くならず、滑らかさも感じられる良いバランスです。
![]() Jean Philippe Rameau Pieces de Clavecin en Concerts (1741)
London Baroque ♥♥
Terence Charlston (hc) Ingrid Seifert (vn)
Charles Medlam (b-gamb)
ラモー / コンセールによるクラヴサン曲集(1741)
ロンドン・バロック ♥♥
テレンス・チャールストン(クラヴサン)/ イングリット・ザイフェルト(ヴァイオリン)
チャールズ・メドラム(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
ロンドン・バロックです。ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者のチャールズ・メドラムがヴァイオリンのイングリット・ザイフェルトとともに1978年に設立したイギリスの古楽バンドです。メドラムはトリニダード・トバゴ出身。チェロも弾き、モーリス・ジャンドロンやニコラウス・アーノンクールに師事しました。ザイフェルトの方はオーストリア生まれの古楽ヴァイオリニストです。テレンス・チャールストンはイギリスの古楽ハープシコード奏者。ケネス・ギルバートとグスタフ・レオンハルトに影響を受けたと語ります。
この演奏もヴァイオリンとヴィオラ・ダ・ガンバによるオーソドックスな編成です。フランスの団体ではありませんが、大変適切な抑揚がついており、ヴァイオリン構成のベストかなと個人的には思います。バランスが取れていてよく歌っており、しなやか伸びやかで間もしっかりしています。延び縮みもあって緩急の表情が自然で良いのです。テンポは平均すれば中庸です。ゆっくりな楽章ではしっかりとした足取りで一歩一歩落ち着いて行くものの、強いアクセントはなくてリズムに頑固さは感じられません。素っ気ない優等生でもありません。そして速くなると活きいきとした自発的な歌を聞かせます。崩しが粋という感じでもないながら、総合的にベストという気もします。キュピは清潔ながら情緒あふれるザイフェルトのヴァイオリンにメドラムのヴィオールが絡み、落ち着いていて痛々しくはないけれどもメランコリックな歌が聞けます。理想的でしょう。
BISの2002年の録音です。このレーベルはいつもそういうことが多いけれど、音のバランスが大変良いです。弦には繊細さがありながらきつくならず、ハイファイだけど潤いも感じられるバランスです。
![]() Jean Philippe Rameau Pieces de Clavecin en Concerts (1741)
Ensemble Masques ♥♥
Olivier Fortin (hc) Anne Thivierge (fl)
Sophie Gent (vn) Mélisande Corriveau (b-gamb)
ラモー / コンセールによるクラヴサン曲集(1741)
アンサンブル・マスク ♥♥
オリヴィエ・フォルタン(クラヴサン)/ アンヌ・ティヴィエルジュ(フラウト・トラヴェルソ)
ソフィー・ジェント(ヴァイオリン)/ メリザンド・コリヴォー(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
これが今回、まとめて多くの演奏を聞いてみたけれども一番良かったというか、個人的に好みの演奏でした。フランス語圏カナダの人たちの比較的最近のパフォーマンスです。フルートが主旋律を担当する曲が目立つけど、アンドレ・レイノー盤と同様にヴァイオリンもいます。
オリヴィエ・フォルタンは1973年生まれケベックのクラヴサン奏者です。フランスのピエール・アンタイに師事し、アメリカのスキップ・センペらとも交流があるようです。このアンサンブル・マスクの創立者です。リズム感が大変良いです。自在に前後に揺らして間を変化させる様があやしいまでに見事で、かといってやり過ぎないセンスもあります。ここでは以下の三人の女性奏者たちと演奏しています。
アンヌ・ティヴィエルジュはモントリオール大学を出たフルート奏者で、パリでマルク・アンタイに学び、ブリュッセルではバルトルド・クイケンの下で学位を得ました。ターフェルムジーク・バロック・オーケストラやル・コンセール・ド・ナシオン、ボストン・バロックなどで活躍して来ており、トランスヴァース・フルート(バロック・フルート)に特化しています。
ソフィー・ジェントはオーストラリア生まれのヴァイオリニストで、リチェルカーレ・コンソート、アンサンブル・ピグマリオンなどで首席を務め、フライブルク・バロック・オーケストラ、コレギウム・ヴォカーレ・ゲントでも活躍しています。このアンサンブル・マスクのレギュラー・メンバーです。活気があります。
メリザンド・コリヴォーはカナダのヴィオラ・ダ・ガンバ奏者で、リコーダーも吹くという人。やはりレギュラー・メンバーです。
弾き手自らが楽しんでいるような自由で自発的は雰囲気が他と一線を画します。元来こうでなくてはいけないでしょう。乗れない気分で正確に進めるような演奏だと曲自体が聞きたくなくなってしまいます。選曲も一曲目が第4曲の楽しい「パントマイム」からというのも良い効果を出しています。最もたわみがあるというのか、どの曲も延び縮みのある歌が自在で抑揚もしっかりしており、立ち止まるような大胆な間も取っています。いかにもフランス文化圏という印象の洒脱さというか、繊細な動きの感じられる運びで、拍のアクセントはあっても変な癖はなくて重くもならず、反対に生真面目にかっちりとなり過ぎたりもしません。そういうところは他のフランス勢とも共通するわけだけれども、アンドレ・レイノー盤やアンサンブル・レ・ニエス・ド・ラモー盤と比べてもそれはより言えるのです。洗練されていて表情の指数が高いというのでしょうか。ある意味知的だとも言えます。キュピは一番魅力的でした。フルートの表情が濃く、間取りの自在さ、緩めと間の大胆さによってたどたどしいまでの表情を作り上げ、ちょっと息も絶えだえな感じで哀しみを漂わせます。他が素っ気なく感じます。こういう雰囲気は他にありません。もちろんやり過ぎの恣意的な表現ではありません。面白いのはアレンジで、フルートによる最初の歌が終わって繰り返し部分に来ると、通常ヴィオールが低音部を受けてハモらせて行きますがそうせず、フルートの方がそのヴィオールの伴奏側に回ってヴァイオリンが高音のメロディを引き継ぐ構造にしています。フルートとヴァイオリンが両方活躍する二重唱のような感じになっていて、これが二度美味しいのです。
カナダのレーベル、ATMA クラシークの2009年録音です。音は大変良いです。太めで音像が遠く、残響過多な雰囲気重視型のバランスではなく、ヴァイオリンなどは結構前に出てリアルなので、機器によってはレイノー盤やフィンランド勢による次のアルバ盤などの方が潤いを感じる場合もあるかもしれませんが、繊細で躍動感の感じられる生々しさがあります。
![]() Jean Philippe Rameau Pieces de Clavecin en Concerts (1741)
Aapo Hakkinen (hc) Petri Tapio Mattson (vn) Mikko Perkola (gamb) ♥♥
ラモー / コンセールによるクラヴサン曲集(1741)
アーポ・ハッキネン(クラヴサン)/ ペトリ・タピオ・マトソン(ヴァイオリン)♥♥
ミッコ・ペルコラ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
フィンランドの人たちによる演奏です。ハッキネンとペルコラはよく一緒に活動しており、クープランのヴィオラ・ダ・ガンバ組曲、バッハのソナタでも落ち着いた、大変リラックスできる上質な演奏を聞かせており、それらの曲で最も好みでした。そのメンバーですが、アーポ・ハッキネンは1976生まれのフィンランドのハープシコード奏者で、ピエール・アンタイに師事し、グスタフ・レオンハルトにも教えられたと言います。ヴァイオリンを弾いているペトリ・タピオ・マトソンも1973年のフィンランド生まれで、古楽専門のヴァイオリニストであると同時に、その楽器自体の製作も行う人です。オランダのヤープ・シュレーダーに師事し、ジキスワルト・クイケンのマスターコースも取っています。ミッコ・ペルコラも1977年生まれのフィンランドのヴィオラ・ダ・ガンバ奏者で、ヴィーラント・クイケンらに師事しました。
クープランやバッハにおいては落ち着いた波長に特徴がありました。ということでテンポもそのときは全体に遅めだったわけですが、ここでのラモーはさすがにフランスもの、ゆったり一方ではなく、そこそこ良いテンポの曲もあります。弾き方、抑揚の付け方についてはナチュラルで、フランス勢で感じられるような揺れや外しという点ではそこまで自在な動きではなく、もう少し素直でしょうか。でも退屈なリズムで押し通すようなものでは全くなく、自然な歌でよくうたっていて心地の良いものです。ヴァイオリンによるこの曲の演奏としてはロンドン・バロック盤とも比べられる水準の高いもので、テンポの遅速のばらつき具合も似ていて違いを言うのも難しいながら、こちらの方が少しさらっとして真っ直ぐな感じが強いでしょうか。キュピの上品な歌い方も似ており、タイムも数秒違いながら、やはり少しだけロンドン・バロックの方が表情が濃く、こちらの方があっさりめに感じます。透明感があると言い直してもいいでしょう。どちらもいいです。
2010年の録音はクープランやバッハのときのようなナクソスではなくアルバ・クラシックながら、音のバランスは似ており、鋭くならないクラヴサンで弦も少し太く鳴るというナチュラルなものです。この音は大変気持ち良く、この曲の中でも一、二を争う好録音だと思います。これがためにこの盤を選んで聞きたくなります。
INDEX |