ベートーヴェン / 交響曲第7番   

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 ベートーヴェンの第7交響曲は「舞踏の聖化」と言われ、彼の交響曲のなかでもとりわけリズムに目が行く曲となっていす。そんなわけで、演奏の方も歯切れ良情熱的なものが好まれるようです。でもここで取り上げるCDはそんな定番的なものからはちょっと逸脱しているかも しれません。
 この曲はまた、第二楽章の訴えるよう な短調のアレグレットが有名になりました。爆発的ヒットを飛ばして宇宙へ行くミュー ジカル歌手サラ・ブライトマンも持ち歌にし、数々の映画でも使われています。

 迫力を求めるディオニソス派(?)の 聞き手にも満足されるだろう演奏としては、63年のカラヤン/ベル リン・フィルのものがまずひとつ、思い浮かびます。速く、颯爽としていて力があります。録音 は新しくないですが低音がよく出ていて迫力があり、弦もやや細めながらきれいです。第二楽章もさらっとしていますが弱音が効果的に生かされ、美しい演奏です。この頃のカラヤンはいいです。ダイナミックでシンフォニックな演奏だと言えるでしょう
 定番となっているカルロス・クライバー/ウィーン・フィルも正攻法の情熱的な演奏で、評判通り素晴らしいものだと思います。特別変わったことはしていませんが、ウィーン・フィルを力強くドライブしている熱い演奏です。録音も運命より分解が良いようで



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     Beethoven   Symphony No.7 op.92
       Collegium Aureum

ベートーヴェン / 交響曲第7番 op.92
コレギウム・アウレウム合奏団 ♥    
 コレギウム・アウレウムのCDは入手難なもので すが、7番のシンフォニーをかけようと思ったときには大抵これをかけます。この合奏団はピリオド楽器(古楽器)を使った演 奏のさきがけとなった楽団で、ビブラートを 現代オーケストラと同じように用いたり、現代の弓を使ったりしたせいで、その後盛んになったピリオド奏法のスタイルに合わないと 言われて消えて行きました。代わりに主流派となったアーノンクールたちの演 奏も大変個性的な解釈ですので、彼らのだけが時代遅れという扱いもどうかと思うのですが、廃盤でプレミア価格なのはなんとしようも ありません。国内で一万円を超えるような値をつけるものが海外の中古通販で1ドルということもよくあるのですが、この曲に 限ってはレーベル違いの海外盤も出たには出たものの数が少ないようです。米英の通販サイトに出ても新品の値段というところでしょう か。しかし元々出していた ハルモニア・ムンディ・ドイツのCDも最近懐古集として再販されたり、この曲も日 本でだけ再CD化されたことがあったりという状況ですので、また聞けるときがくるでしょう。

 この第7番、彼らの演奏らしく大変リラックスしていて美しい響きです。バロック・ヴァイオリンの合奏の音は、 それがモダン・ボウ (弓:バロック・ボウに対して棹が長くて反りが異なり、張力強 い)を使っているとはいえ繊細で美しく、モダン・オーケストラが ときに強奏時につぶれて聞こえることがあるのに対して耳にやさしい感じがします。木管楽器は本当に木製なのか、フルートなどの音 色に温かみがあります。
 第一楽章の出だしから、演奏を楽しん でいるような響きに心がなごみます。こうしたアット・ホームなところがこの楽団の最大の魅力 でしょう。弦がリズムを小気味よく強調しているのに対して管はテヌート気味に滑らかにつないでいたりして、表現も意欲的です。 有名な第二楽章もリズムを軽く強調してあまり遅くならないようにやっていますが、そこにまた爽やかな魅力がありま す。

 第3番の英雄に対してこちらはデジタ ル録音でしたが、デジタル初期のものでありながらフッガー城糸杉の間の美しい残響を伝え、良い録音でした。英雄とならんで、誰がなんと言 おうとマイ・フェイバリットです。



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     Beethoven   Symphony No.7 op.92
       Bluno Walter   Columbia Symphony Orchestra

ベートーヴェン / 交響曲第7番 op.92
ブルーノ・ワルター コロンビア交響楽団 ♥        
 ワルターの第7番は第3番同様、巷で 特別に褒められているわけではありませんが、潤いがあって好き な演奏です。しなやかで活きいきとしているのです。録音時期はコレギウム・ アウレウムのものと前後しますが、デジタル・リマスターされた国内盤については音も艶があり、なまめかしさが あって古さをまったく感じさせません。他の新しい録音より音が良いぐらいではないでしょうか。
 第一楽章は力まずに力強い運びです。 第二楽章もワルターらしいたおやかで自然な歌があります。コントラバスの心地良い響きにも魅力を感じます。第三、第四 楽章もリズムは少し重目ですが、力と自然さがバランスしています。



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      Beethoven   Symphony No.7 op.92
    Karl Bohm  Wiener Philharmoniker

ベートーヴェン / 交響曲第7番 op.92
カール・ベームウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 晩年になって力が抜け、テンポが遅く なった頃のベームです。 ライブのような迫力はないですが、この7番がまた意外というのか、いい演 奏です。テンポは確かに遅めですが、第一楽章から案外力強いですし、自然体なところが光っています。管の響きが美しく、アナログ最後期の録音バランスの良いものです。第二楽章は自然な歌があり、中間部の盛り上がりも心がこもっています。録音、演奏ともに最高の一枚でしょう。
 このCDにはOIBP仕様のデジタル・リマスター盤が出ていますが、この曲に関してはそのリマスター盤の方が自然な音です(「デジタル・リマスターと高品質プラスチックのCD」の項を参照してください)。
 


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     Beethoven   Symphony No.7 op.92
       Jos Van Immerseel    Anima Eterna

ベートーヴェン / 交響曲第7番 op.92
ヨス・ファン・インマゼール / アニマ・エテルナ
 新しいところでは2007年録音のイ ンマゼールの盤も印象的でした。ベルギーの指揮者が率いるアニマ・エテルナは古楽器の演奏です。かといって古楽 器奏法の癖はあまり感じられず、ノンビブラートで若干膨らみのある運弓法がかえって自然です。変に力み過ぎず柔軟性があり、 明るくクリアなところが印象的ながら、てきぱきとしたリズムで十分に迫力もあります。 速くリズミカルな部分も聞いていて爽快ですから、力強い演奏が好きな人にも好まれるのではないでしょうか。第三 楽章、第四楽章の終結部も歯切れが良いです。ベルリオーズの幻想交響曲で見せたような、ラストの盛り上がりでど ちらかと言うと冷静なところのあった解釈とは別物のようです。第二楽章も陰影豊かで味わい深いです。独特のテ ヌートで盛り上がって行くところ、力の抜けるところ、生き生きしています。全集しか出ていな いようなのが残念ですが、録音も見事です。



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     Beethoven   Symphony No.7 op.92
       Bruno Weil    Tafelmusik Baroque Orchestra ♥♥

ベートーヴェン / 交響曲第7番 op.92
ブルーノ・ヴァイル / ターフェルムジーク・バロック・オーケストラ ♥♥
 また古楽で素晴らしい演奏が出ました。この人たちは田園も素晴らしかったですが、その他第7も第8 も傑作揃い。一つ前に取り上げたインマゼール盤には歯切れの良さと勢いがありましたが、こちらはより自然体で力 まず、 透明な響きの美しさが際立っています。のびのびとしていて柔軟なので、「舞踏の聖化」という概念に引きずられる ことなく曲本来の美を引き出していると思います。アットホームでリラックスした印象もあるので、コレギウム・ア ウレウムとも比較できるかと思います。やっと70年代の彼らの名盤(個人的にですが)と並び、あるいは魅力にお いて超えるかもしれないピリオド楽器の楽団が出てきました。ピリオド奏法の尖った癖は全く感じられません。第一 楽章などで顕著ですが、ヴァイオリンの高音部を途切れさせずに続けて上のラインを形成するところ、スラーと呼ぶ のは違う気がしますが、滑らかで面白い処理です。弦だけでもないようですが、このヴァイルに特徴的な指示なので はないかと思います。第二楽章の有名なメロディーも最初の響きからして美しく、やはり古楽器楽団の弦の余韻はい いなあ、と思わせます。静かにねばるように歌わせるのは古楽の運弓のイントネーションでもあるのですが、思い 切って弱めるところなど、それまでの古楽器バンドが控えてきたロマッティックな印象もあり、最もきれいな演奏の 一つだと思います。ティンパニで力強く区切りを与えるところも情感があり、編成が小さいので音も濁りません。

 ターフェルムジーク・バロック・オーケストラはヴァイオリンのジーン・ラモンがリーダーを務めてきた カナダの古楽器オーケストラですが、主席客演指揮者という形でドイツ出身の指揮者、ブルーノ・ヴァイル 迎えて新たにベートーヴェンの交響曲全集を出しました。このバンドとしては初めての挑戦です。録音は2016年で、分売は英雄と田園、第九なので今のところ第7は全集 でしか手に入らないようですが、8番も唯一無二と言える名演なので揃えても全く損はないと思います。



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