R・シュトラウスのマジックアワー / 四つの最後の歌
「ツァラトゥストラかく語りき」

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「リヒャルト・シュトラウスはお好き?」

 サガンの小説ではないですが、あるとき年配のクラシック・ファンの方にそう聞かれました。後で判明したのですが、その人はきらびやかな交響詩で有名 なこの作曲家をクラシックの入門作曲家のように位置づけていたのです。つまり大編成のオーケストラ曲は素人にも迫力が感じられ、普段はクラシック音楽をほ とんど聞かない人でもその名を口にするのではないかと思い、こうした音楽への造詣の深さを計るリトマス試験紙を差し出していたわけです。どんな分野であれ、知識がどれだけあっても別に偉いということはないでしょ う。でもその人の意図がそのとき何となく読めた自分も同じ心理をどこかに持ってたのかもしれません。どうもクラシック・ファンという人種は時々この手の 背比べをしたがるようで困ります。

 リヒャルト・シュトラウス といえばご存知、映画 「2001年宇宙の旅」の冒頭で流れる「ツァラトゥストラかく語りき」や、「アルプス交響曲」などの、映画音楽のような作品がまず頭に浮かびます。です から気持ちは分からなくもありません。というのも最 近、いかにもジムで体を鍛えていそうな感じのアメリカ人男性にいつも聞いてる音楽のことを尋ねられ、クラシックも聞くと答えたところ、「エイティーン・トゥエルヴ!」という元気 の良い声が返ってきました。これはチャイコフスキー の1812年を知ってるぞ、という意味です。ファンでないアメリカ人にとって、クラシックといえばチャイコフスキーです。それも金管が賑やかで大砲の音まで聞ける序曲「1812年」はこのジャンルの 代名詞なのでしょう。

 さて、交響詩ではないリヒャルト・シュトラウスの曲として、最初に触れた年 配のクラシック・ファンの人に対して返答したのが、ちょっと嫌らしいですが「四つの最後の歌って良くないですか?」でした。この曲集はオーケストラの伴奏による歌曲集なのですが、この作曲家の晩年に書かれたもので、夕映えの中 にいるような独特の美しさに満ちています。モーツァルトの白鳥の歌とはまた少し違った感覚ながら、充実した喜びとほんのわずかな寂寥感が交 じった穏やかさは、それこそマジック・アワー(日没 直後の夕映え)のようです。そして、そのファンの方は大変喜んでくれ、無事に話が続けられました。



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       Richard Strauss    Four Last Songs
       Elisabeth Schwarzkopf    George Szell    Radio-Symphonie-Orchestra, Berlin ??

リヒャルト・シュトラウス / 四つの最後の歌
エリザベート・シュワルツコップ
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ジョージ・セル / ベルリン放送交響楽団(写真は一番上)
 CDですが、定番のシュワルツコップのものはどうでしょうか。この人はフル トヴェングラーの歴史的名演であるベートーヴェンの「バ イロイトの第九」でも歌っている名ソプラノです。そのユーモアとウィットに富んだ受け答えから大変頭が良いことを窺わせ、往年の大歌手ですが、どこかお茶目な雰囲気もある人です。1915年生まれで、65年のこの録音時 には49歳というベテランでした。盛 りを過ぎているという意味では声の張りはやや衰えているかもしれません。フォルテの強さでヤノヴィッツなどにかなわないことは分かっています。頭打ちに なってしまっていると言える瞬間もあるでしょう。しかしその分声を張り上げないやわらかさがあり、さりげな く力が抜けていて、静かな部分での己を見つめるような内省的な美しさは他に代えがたいものがあります。そういう部分では声楽家の構えた音というよりも、普 段の声のような自然さも感じられます。伴奏はセルとベルリン放送交響楽団との組合せで、CDは録音も大変良い状態に仕上がっています。格調の高い歌で 時代をリードしたプリマ・ドンナが後の世代に残してくれた最高の贈り物です。



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       Richard Strauss    Four Last Songs
       Gundula Janowitz (S)   Herbert von Karajan    Berliner Pilharmoniker
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リヒャルト・シュトラウス / 四つの最後の歌
グンドラ・ヤノヴィッツ
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ヘルベルト・フォン・カラヤン / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

 グンドラ・ヤノヴィッツの歌は、この曲の演奏の中で恐らく最も上手なものの 一つではないで しょうか。シュワルツコップの後、ドイツを代表する名ソプラノであることは皆さんご存知のことと思います。この人がオイゲン・ヨッフムの指揮の下、オルフ のカルミナ・ブラーナで歌った「イントゥルティナ」での名唱は忘れがたいものです。この四つの最後の歌は1974年の録音ですから、彼女が三十七歳のとき です。艶のある声でダイナミックであり、声量もあります。やや固めて朗々と響かせるテクニックもあって強い音は圧倒的です。 ビブラートはしっかりかけて歌いますが、技術的にも肉体的な声としても、シュワルツコップを上回っていることは明らかです。カラヤンのバックはスローなと ころでテンポをぐっと落とし、大変味わいがあります。枯れた味としみじみ歌うという意味でこの曲らしいベストな演奏はと言えばシュワルツコップですが、 声楽作品としての完成度の高さではヤノヴィッツが一番でしょう。



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      Richard Strauss    Four Last Songs
      Cheryl Studer    Giuseppe Sinopolli    Staatskapelle Dresden
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リヒャルト・シュトラウス / 四つの最後の歌
シェリル・スチューダー
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ジュゼッペ・シノーポリ / シュターツカペレ・ドレスデン

 シェリル・スチューダーはアメリカのソプラノです。このCDはあまり注目されていないのかもしれませんが、 良い演奏だと思います。案外ドイツ語らしい子音の発音が目立つ感じですが、ヤノヴィッツほど固めて強い音を前へ出すのではなく、常に透き通っていて繊細さ があり、フォルテではややメタリックなときもあるながらきれいな艶が聞かれます。 強い音では輪郭のはっきりした幾分細めの響きに感じるときもありますが、弱音でのやわらかさは大変美しく、コントラストが付きます。安定した歌唱でオペ ラっ ぽい過剰さがなく、ビブラートも品が良いのがこの人の魅力です。その容姿と病死してしまったこともあって高い人気を保っているソプラノの盤もありますし、 最近の歌手もオペラ系の人を含めて色々歌っていますが、四つの最後の歌で品の良いものとなるとどうも限られてくるような気がします。比較的新しい中ではこ の人が一番でしょうか。1993年の録音で、シェリルはこのとき三十八歳でした。



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ツァラトゥストラかく語りき
 リヒャルト・シュトラウスらしい大編成の交響詩も一つ取り上げてみます。カラフルな管弦楽で起伏に富んでいるという意味でクラシックの入門曲として は真っ先に挙げるべき作品群であり、そうしたページでまとめてご紹介すべきかもしれないものの、「四つの最後の歌」のついでと言ってはなんですが、ここで 扱うことにしました。

「ツァラトゥストラかく語りき」です。後で触れますが、映画で有名になったあの曲です。そしてこのタイトルはドイツの哲学者ニーチェ (1844-1900)の著作の名前です(
ツァラトゥストラは ゾロアスターのドイツ語読み)。それを音楽に仕立てたというのですから、どんな風にかというところに興味が湧きます。でも作曲したシュトラウス 本人はその思想を理解していなかったのだと批評家がどこかで書いていたのを読んだ記憶もあります。確かに豪華絢爛なあの音を聞くとなんかそんな気はするけ れど、人の頭の中を断定するのはいただけません。
 じゃあ、その思想ってほぼほぼどういうものなのか。それは、無理です。哲学書には読むだけで難しいのがありますが、この本はそんなではありません。でも 「超人」だとか「永劫回帰」、アドラー心理学のヒントにもなった「権力への意志」(フロイトが何でもセックスに還元すればアドラーは何でも権力分析をする と言われます)などという、そもそも意味のとり方の難しい用語と対決しなくてはいけなくなります。ただ、そういうことは厄介に感じるとしても、例えば シェークスピアを読んだら話の筋には感心せずともちりばめられた警句の深みに驚くこともあるように、ヘーゲルやニーチェの思想には大枠で賛同されないかも しれませんが、後世への影響著しかった時代の寵児にはそれなりに学ぶべきものもあるでしょう。そんな風に謙虚に構えて曲を聞きながら、深遠な気持ちになっておくのもひとつです。あのコントラバスが、ここのオルガンのパッセージがニーチェのどの語句に対応しているかと追求するのも楽しいかも分かりませんが、 そっとしておく手だってあります。 

 それでもニーチェといえば「神は死んだ」の言葉
(「ツァラトゥストラ」に出てきます)で 有名な人なので、そこは押さえておきたいでしょうか。ニーチェがなぜゾロアスターを選んだかという説には、キリスト教にも影響を与えたその教義を肯定的に 見る意見が多いですが、どんな宗教でも熱心な信者にとって異教は魔教です。キリスト教徒には信仰をぐらつかせるサタン(悪魔)の誘惑という概念が存在して いるし、近頃ではそのシンボルである翼のある聖霊(フラワシ Fravashi/上の画像のモノリスに刻まれたもの)をタトゥーにするとクールだという意見もあるものの、拝火教であるゾロアスター教にはインパクトが あったのも事実です。ある原典主義のキリス ト教徒の方が「私はニーチェ のツァラトゥストラを読みました。その上で神が正しいという思いを強くしたのです」と力説されていたのを子供の頃に聞いて印象深かったことがありました。 もちろんちゃんと読まれたのだろうと思います。論駁したくてページをめくったのでしょう。しかしその人をそこまで恐れさせた思想の誕生については、それが キ リスト教倫理のほつれが目につきやすくなってきた時代だったということは考慮してあげた方がやさしいかもしれません。そして曲を聞く我々には、ニーチェと 同じ時を生きたリヒャルト・シュトラウス(人としては二十年、作品としては十一年後)が吸っていた空気を想像してみる余裕があります。若者は伝統を煙たが るものです。オーストリアの人はカトリックを、ドイツの人は新教を、という具合に。このときシュトラウスは三十二歳でした。ドイツでは、バッハの時代には 罪 を背負って常に神の審判を恐れ、日々許しを請うのが普通の状態だったわけで、その後もそうした精神は続いて来ました。したがってそこからの解放は輝いて見えたに違いありません。そう考えると作 曲者のニヒリズムへの憧れも分かる気がして来るではないですか。

「権力への意志」なんて物騒な言葉が出てきましたが、本当の意味はともかく、この作曲家はよく比べられる同時代のワーグナーなどよりずっと権力志向が薄い 感じがします。拝金主義のスクルージだという見方もあるようですが、色々な話を総合すると、どうも悪い人には思えません。ヒットラー政権下で帝国音楽院の 総裁やトスカニーニが辞めたバイロイト音楽祭の主席指揮者の地位を引き受けたりしたがために(その後体制の意向に背いて降板)ナチの協力者だと追求された こともあったけど、実はそうしたコネを使って強制収容所から親戚一同を助け出そうと試みたのだし、少なくともユダヤ人だった義理の娘とその子供達(彼の孫 たち)の命は救ったようです。真正面からぶつかるタイプではないのでしょう。老練さと無邪気さが混在しているようにも見えます。飄々としていて、非難の言 葉をいつもとぼけた口調でかわすその性格、なんか好きですね。マーラーという人はちょっと口が悪かったのだろうし、作曲家の妻は常に悪妻にされるから割り 引いてあげてほしいですけど、騒々しい奥さんとの微笑ましい話も伝わっているので解説などを読んでみてください。彼の死後8ヶ月で後を追うように亡く なったのは仲が良かったせいではないかという気もします。因みにシュトラウスが憧れていたニーチェ自身も作曲はしました。多分、自分の思想を音で表そうな どとは考えなかっただろうと思います。




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       Richard Strauss   Also Sprach Zarathustra
       Herbert von Karajan   Berliner Philharmoniker ??


リヒャルト・シュトラウス / 交響詩「ツァラトゥストラかく語りき」
ヘルベルト・フォン・カラヤン / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 ??

 この曲はやはり名曲で、よくぞ考えついたという出だしです。売れる小説は最初にクライマック スを置く、みたいな感じもします。ジャケットに宇宙ものが多いのは 当然例の映画の影響でしょう。その「2001年宇宙の旅」の演奏は同じカラヤンでも1959年の録音である ウィーン・フィルとのもののようです。録音会社のデッカが異議を唱えたために映画のクレジットには出ず、出だしのオルガンなどを波形比較などして調べた人 がいるのです。カラヤンはその後二度録音していますが、
この1973年のアナログ録音がベストではないかと思います。一部シンバルの音がクリップ気味に聞こえるかもしれませんが、大したことじゃありません。カラヤンの「ツァラトゥストラ」は大定番であって、他にも色々良いものは出て来てる にしても、やはりまずこれという感じなのです。アンサンブルが揃って最も流麗な時代のカラヤンです。起伏の大きさ、レガートでつながれた盛り上がりの美し さ、カラヤンは R・シュトラウスか「悲愴」だ、などと言われるのも頷けます。これが80年代のデジタル録音となると、他でも述べましたが楽団員たちとのトラブルが影響し てか、形は整ってるけどちょっと無機的な抑揚の動きに聞こえてしまいます。そちらを褒める方もいらっしゃるのであくまでも自分の印象に過ぎませんけれど も。そしてトータルでは音的にもこの70年代の録音の方が良いように思います。初めて買うならツァラトゥストラはこれが間違いのない一枚だと思います。



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      Richard Strauss   Also Sprach Zarathustra
      Zubin Mehta   Los Angeles Philharmonic ?

リヒャルト・シュトラウス / 交響詩「ツァラトゥストラかく語りき」
ズービン・メータ / ロスアンジェルス・フィルハーモニー管弦楽団 ?
 
カラヤン以外でも数点挙げます。こういう曲だからオーケストラとしての最優秀録音で聞きたいわけですが、それについ てはなかなか難しいところがあります。上記のカラヤンから遡ること五 年前(1968)、メータの LAフィル盤が出て来て、以後しばらくの間騒がれました。好きな人は今でも名盤として忘れずにいます。インド(ペルシャ)系の指揮者ズービン・メータはそ の頃名が知れて来て勢いに乗り始めたところであり、レーベルはスタジオ録音の明晰さで当時最もオーディオ的に評判の良かったデッカ、その上評論家の方も褒 めて賞を取り、相当に人気があったのです。翌年の「春の祭典」もそうでした。現在聞いてもその音のクオリティは大変高いもので、レコード録音にお金がかけ られなくなった現代ではライヴ収録が中心になってしまったこともあり、今や貴重な記録となりました。フォルテで混濁しないという意味ではカラヤン盤より良 いです。マルチマイクのセッションらしく、普段聞こえることのない音がはっきり聞こえたり、ヴァイオリン・ソロが目の前に出て来たりしますし、シンバルは シャンと伸びて濁りません。オルガンは重低音が轟きます。必ずしも自然なバランスとは言えないかもしれないけど、弦の音なども同じようにセッション録音で 比較的最近のマッケラス/ロイヤル・フィル(1995) の線のくっきりした演奏よりもほぐれてる気はするし、力強さと落ち着きのバランスが取れたより新しい2012年のドゥダメル/ベルリン・フィル盤がライヴ収録で大音量での限界があ ることなどを考えると、録音の良さで選ぶなら一番は案外まだこれかもしれないわけです。因みにスタジオ・セッション録音としては他にもマゼール盤、小沢盤 などもあり、より新しいところでは「惑星」で切れの良い演奏を見せていたユロフスキ盤もあります。比べてみてください。

 演奏の方はというと、カラヤンと比べると遅くて真っ直ぐな印象です。出だしの映画で有名な部分での迫力はそのカラヤンの73年盤と比べてもよく響かせて いて負けず劣らず魅力的です。その後は多少平坦に感じる人もいるかもしれません。全体の三分の二ほどまでは時折速める部分はあるものの概ねゆったりとした テンポだからです。「病より癒え行く者」からはスピーディな部分ももっと出ますが、それは一度音が止む空白の区切り(ゲネラルパウゼ)の前後からです。そ してその後は十分に盛り上がった感じに聞こえます。まあカラヤンのような劇的な効果や磨かれて粘る旋律などはカラヤンの特徴なので比べるべきではないで しょう。こちらは表現上の大きな特徴はないにせよ、
ゾロアスター(ツァラトゥストラ)教の家に生まれてシュトラウスが曲を作ったときと同じ年齢だった三十二歳のメータ、十分に迫真の運びを見せています。



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      Richard Strauss   Also Sprach Zarathustra
      William Steinberg   Boston Symphony Orchestra ?


リヒャルト・シュトラウス / 交響詩「ツァラトゥストラかく語りき」
ウィリアム・スタインバーグ / ボストン交響楽団 ?
 ウィリアム・スタインバーグ盤はホルストのページで取り上げているのと同じです。以前は別々だったものが組み替えで一つにされてい ます。演奏についてはその「惑星」と同じことが言えますが、これが明晰で良いのです。テンポはトータルでは速めですっきりしており、力強いツァラトゥストラです。そして静かな 部分ではじっくりと歌います。センシティブでどの音も意識高くコントロールされており、きびきびとした清々しい印象です。カラヤンの濃厚なレガートとは 趣が違うので、あちらが良い人にはあっさりし過ぎに聞こえるかもしれません。そこは好みだと思います。

 1971年のドイツ・グラモフォンのアメリカでの録音です。良いコンディションですが若干輝きが強く、弦も線が細くて輪郭が立つ固形的な音です。ハイに 寄った薄いトーンなのでイコライザーで調整すると改善するとは思うものの一般的な方法ではありません。「惑星」の方が多少弾力と奥行きが感じられるでしょ うか。それで?は一つとしました。


 カラヤンとは違って歯切れる方向ですっきりした演奏と言えば、この時代、ショルティ盤も人気があったようです。シカゴ響とは1975年のデッカのアナログ録音で、スタインバーグ の表情豊かさ、自在さとは若干趣が違って全体にもう少しドライで四角な印象があります。くっきりしているところが好まれるのだと思います。その後96年に はベルリン・フィルとライヴ盤も出しました。死の前年の 録音で、表現は若干やわらかく滑らかになっている感じです。心なしかカラヤン寄りのレガートで角が丸い印象もあります。弦の音もシカゴの録音とは違い、カ ラヤンのときを思わせるように艶がある、ベルリン・フィルのものによくあるバランスに収録されています。

 前後して時代はより遡りますが、常任としてはショルティの前の前のフ リッツ・ライナー
/シカゴ響盤 (1954)もコントロールの行き届いた切れのある演奏 として名盤と言われて来ました。この時代としては驚異的なコンディションの RCA 録音です。切れるといっても必ずしも全編速いというわけではなく、ゆっくりのところもそこから立ち上がってどんどん速くなって行くところも共に一瞬たりと も手綱を弛めず、この人らしく痛いほどに引き締まった緊張感のある演奏です。こういう波長のものならではの熱いファンの方も多くいらっしゃるようです。ライナーはその後62年に再度新しい録音を出したものの、旧盤より幾分テンションが 和らいだためか日本では評判は芳しくないようです。リラックスというよりは張り詰めたものが減った分どこか ほの暗い景色のあるパフォーマンスながら、そんなに言うほど悪くないと思うし、録音の質も絶対評価では低音の厚みが出て弾力と潤いがある分旧盤よりも良い と思います。



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      Richard Strauss   Also Sprach Zarathustra
      Andris Nelsons   City of Birmingham Orchestra ??

リヒャルト・シュトラウス / 交響詩「ツァラトゥストラかく語りき」
アンドリス・ネルソンス / バーミンガム市交響楽団 ??
 1978年ラトビア生まれのこれからが楽しみなネルソンス、出来不出来はあるかもしれないけど若手の中では派手な演出に傾かずに工夫があり、誠実で熱い 演奏をします。このツァラトゥストラは良い出来です。今回クラシックの入門向きの曲の章を設けた加減で再度調べ直してみた結果、70年代のカラヤン盤以外 でこれはというものはこれまでのところ二つぐらいかと思いました。それは次のエド・デ・ワールト盤とこのネルソンスのものです。ネルソンスは出だしでは ティンパニが目立つ迫力のある演奏で、その後はセクションごとに力強いところとやさしいところのメリハリがあって、落ち着いた中に熱さを感じさせます。例 によってところどころ表情の工夫が聞かれるけど誠実さもある運びで、内側から粘るように盛り上がるエネルギーも感じられます。それは正直な告白であると同 時に彼が独自の景色を見ているような印象も持たせるものです。カラヤンのように、流れるような流麗さを持ったままときに奔流のごとく速めるというのとは違 いますが、それでも徐々に熱く速まるところも聞かれます。そして最後の静かでゆったりなところがなんともデリケートで美しいです。

 2012年オルフェオの録音は新しいだけに良くてありがたいです。ただし華やか、艶やかという方向ではなく、落ち着いていてわずかにオフな傾向も感じら れます。ライヴを編集したもののようで、そうした特徴が表れたこのごろらしいものです。拍手は入りません。



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      Richard Strauss   Also Sprach Zarathustra
      Ed de Waart   Radio Filharmonisch Orkest Holland ??

リヒャルト・シュトラウス / 交響詩「ツァラトゥストラかく語りき」
エド・デ・ワールト / オランダ放送フィルハーモニー管弦楽 団 ??
 これがまた素晴らしい演奏でした。エド・デ・ワールトがオランダ放送フィルハーモニー管を振ったものですが、この楽団は終戦の年に結成され、ハイティン クやフルネ、そしてこのワールトらが育てて来たオーケストラのようです。カラヤン盤以外で良いと思った二つのうちの一つです。カラヤンのように磨かれたダ イナミズムというよりも、鮮烈さよりやわらかな豊かさを感じさせる、しっとり落ち着いた大人のツァラトゥストラです。雄大な自然の中の夕暮れを思わせるよ うな瞬間もあります。楽器が減ってゆったりなパートでは、ヴァイオリンの浮き出る感じが室内楽のソロ的な響きを聞かせ、それによって繊細な味わいが加わっ て細かなニュアンスが聞き取れます。鮮烈でないように書きましたが迫力も十分であり、出だしの切れの良いティンパニはどの盤より満足行くと思います。

 2005年の録音で、レーベルはエクストンとなっています。日本の会社のようです。やや中央にまとまった定位ですが前述の説明通り良い音で、重低音も聞 かれます。残響はあまりなく、ヴァイオリン・セクションの人数が少なく聞こえ、ティンパニなどもくっきりとしています。マイクを別立てにしたのでしょう か、ちょっと不思議なバランスです。狭い箱スタジオかという独特の鳴り具合で、ライヴに近く余分な輝きがないけど濁りません。



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