これも白鳥の歌?
      モーツァルト交響曲第39番ホ長調 K.543

endofsummer

取り上げる CD 28枚: コレギウム・アウレウム/ホグウッド/ガーディナー'88, '06/ピノック/コープマン/インマゼール/テル・リンデン/ノリントン
/マッケラス/ヤーコプス/ブリュッヘン/ヘレヴェッヘ/アーノンクール/A・フィッシャー/ワルター/ベームBPO, VPO/ケルテス
/カラヤン'70, '77, '88/スイトナー/マリナー/クーベリック/ブロムシュテット/レヴァイン/ザンデルリンク


ピリオド奏法について
 モーツァルト=優美なメロディーというのは思い込みだとしても、そう感じる人は案外多いのではないでしょうか。同様に古楽嫌いの人も結構いるようです。オーケストラの弦楽器奏者の場合はビブラートをかけないと正確な音程を求められ、難しいから嫌うということはあるでしょうが、一般の愛好家の中にもアレルギー反応を示す人もいるところから、これは必ずしも技術的な意味ではなく、聞こえ方の問題もあるようです。しかも、攻撃的な拍の取り方だけでなく、古楽器の弦の音自体が細いといって嫌がる人もいるようです。私は古楽器の繊細な倍音は大変 好きで、バッハの受難曲やミサ、ハイドンからベルリオーズまで、ピリオド楽器とその奏法を好んで聞きます。室内楽などはわざわざマイナーなクァルテットを探すほどで、独特のアーティキュレーションも控え目で効果的なものは好きです。ただ、どうもモーツァルトの交響曲とピアノ協奏曲だけは例外である場合が多いようです。したがってここでは、他のところでは決してしないのですが、 ピリオド楽器とその奏法によるものと、従来通りの演奏とを分けて説明することにしようと思います。


曲について
 40番と同じ年に書かれた39番も名曲で す。これら二つと最後の交響曲第41番「ジュピター」を合わせて三大交響 曲と言いますが、個人的にジュピターはあまり得意でないので今回はスキップします。私自身モーツァルトの交響曲とい えば、38番「プラハ」の冒頭が華々し過ぎて第二楽章からかけるというのを除けば(三楽章しかない曲の一番壮麗な楽 章を取ったら何も残らないじゃないか、お前はほんとのおばかさん!)、ほとんどこの39番と40番ということになっ ている気がします。
 この曲はまた、モーツァルトの「白鳥の歌」だとも言われます。そのタイトルで別の章を設けたのに(「モーツァルトの白鳥の歌/クラリネット五重奏曲」) そこでは触れませんでしたが、確かに透き通った透明さがあり、穏やかで優美な旋律が大変魅力的です。交響曲の中でこ の波長の曲は他にないように思います。


 この曲の演奏で忘れられないものの一つに、セルジュ・チェリビダッケが壮年時代に、確かシュツットガルト放送交響 楽団を指揮したものがあります。恐らく南ドイツ放送協会提供のテープが NHK の FM でオンエアされたものだったのだろうと思いますが、今インターネットで探してもアップしている人は見当たりません。当時のチェリビダッケは幻の指揮者で、 晩年の遅いテンポの解釈ではなく、独特の弱音奏法を敢行していました。最弱音は非常に張り詰めた音で、本来ならフォ ルテの指定があるところでも弱い音で演奏させていました。この方法論でやられた第39番が印象的だったのです。出だ しのティンパニが本当に静かに叩かれ、聞き耳を立ててしまいます。プラハの頭のところで元気良さに負けるぐらいの意 気地なしですから、これには魅了されました。各旋律も、一つひとつが痛いほど浮き上がって聞こえました。まあ、かな り奇抜なところのある、若さと気負いに満ちた解釈だったのか もしれませんが、白鳥の歌と呼ばれるこの曲の美しさを存分に聞かせてくれました。
 それから時が流れ、チェリビダッケのせいでCD探しに苦慮することになりま す。そんな演奏は他に全くないわけです。



古楽器演奏、またはピリオド奏法によるもの
 
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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Collegium Aureum

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
コレギウム・アウレウム合奏団
 古楽のパイオニア、1977年の録音です。後期交響曲集は72年から80年の間に収録されています。忘れ てはいけない魅力的な楽団です。
 第一楽章はしっかりとしたアタックで始まりますが、後の古楽演奏家たちが問題提起したやり方のように強烈 なティンパニが力で押すという感じではありません。ゆったりめのテンポで自然な歌があります。流麗にしよう というような抑揚ではなく、自発的で自分の呼吸になっている歌です。やはり後のピリオド奏法のようではない ながら、全体にアタックは弱くはなく、くっきりとしたリズムを感じさせます。
 第二楽章はのびのびとした歌が楽しめます。テンポは中庸。弱いところの緊張感が美しい演奏もある中、彼ら はことさら静けさを強調するのではなく、健康で自然です。もう少しはかなさを感じさせてもいいかなと思わな なくもないですが、それはないものねだりでしょう。
 第三楽章は割と重めのリズムで引きずる感じがします。テンポはオーソドックスですが、やや速めでしょう か。フレーズを区切って行く感じが軽さよりも真面目さを感じさせます。
 第四楽章では前よりテンポが速まり、この楽章としては中庸なものでしょう。ここも慌てず真っすぐで、実直 で面白さはありません。奇異なところのない自然さがこの演奏の魅力でしょう。

 録音はいつものように、残響の美しいものです。
 


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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Christopher Hogwood    The Academy of Ancient Music

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
クリストファー・ホグウッド / エンシェント室内管弦楽団
 トレヴァー・ピノック、ジョン・エリオット・ガーディナーと並んでイギリス古楽の代表的な指揮者であるホグウッド ですが、特にピノックとはレパートリーが似通っており、バロック&初期古典派ということでよく比べられるのではない でしょう か。全集の録音時期はホグウッドが1978年〜85年、ピノックが1992年〜95年と、ホグウッドの方が10年早 く、モーツァルトの交響曲の古楽演奏としては事実上最も早い時期に出て来たものです。そして古楽器の演奏法自体は 60年代から色々試みられてきたことですから、必ずしもホグウッドがモーツァルト演奏の見本となったとも言えないで しょうが、やはり一つのマイルストーンではあると思います。
 今聞くと、ホグウッドの演奏は決してエキセントリックなものではありません。ピリオド奏法だなと思わせる点は三点 ほど。極端ではないですが例の独特の、一つの長音符の中での持ち上げて降ろすような弓の力の入れようが聞かれるこ と。 フレーズの区切りで音をあまり長く延ばさないであっさり切ること。そしてティンパニなどのリズムの扱いに工夫があり、例えば二つ続けてビートを刻むような ところで均等割するのではな く、タン、タン、ではなくてタターン、とやらせることなどです。他にも楽譜の上でたくさんの解釈上の工夫があること と思いますが、聞いていて主に気づくのはそれぐらいでしょうか。テンポなどは速めではありながら自然な方で、全体に 軽く快活なところがロマン派的ではないですが、攻撃的という印象は全く持ちません。

 第一楽章は全体にピノックよりも溌剌としているように聞こえます。テンポも比較すると速めです(全体としては中庸 やや速め)。冒頭からのティンパニは軽やかで、キレはありますが過度に力強くはしません。ただ、叩き方のリズムは上 で述べたように、二拍目にアクセントが来て弾むような工夫があります。前進する力として、打楽器は全体を活気づける 役割なのでしょう。短くて歯切れが良いです。冒頭から夢見るような白鳥の歌を期待するのはお門違いでしょう。細く繊 細な弦の音は爽やかで、風のように軽く運びます。
 第二楽章もやや速めで軽く、旋律を歌う弦のやわらかさが印象的です。
 第三楽章は力が抜けて軽やかながら、テンポはピリオド奏法にしては比較的ゆっくりで、伝統的な演奏と変わらない オーソドックスなものに感じます。ここには尖ったところはありません。
 第四楽章もテンポは普通で、全く違和感がなく美しいです。

 録音は艶やかにして繊細です。やや高域がはっきりしていますが、それだけにバロック・ヴァイオリンの音が大変きれ いに聞こえます。比べるならばピノックよりやや明るい音に録れています。残響もほどよく、かぶりがなくて潤いもあり ます。



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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       John Eliot Gardiner    The English Baroque Soloists

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
ジョン・エリオット・ガーディナー / イングリッシュ・バロック・ソロイスツ(旧盤)
 ガーディナーについてはミサ・ソレムニスの頁で取り上げ、学問的考証が行き届いていて品行方正だ けども、例外的に魅力的だったそのミサを除けば普段はあまり優先順序高くは聞かない旨の冷たいこと を言いました。実際高く評価されたベートーヴェンの交響曲でも、田園はアーノンクールやホグウッド の方が好きだし、全集として見てもどちらかというとインマゼールに惹かれると思ってきました。しか し39番のモー ツァルトの白鳥の歌はガーディナーが好きです。古楽器の演奏グループの中で一番です。それとも、す べての CDの中で、と言っ てもいいかもしれません。
 この人の魅力は、ちょっとわかり難い気がします。完璧に整っていてどっちの角度か ら見ても崩れることがありませんが、感性を持ち合わせてない学者肌というわけではないのでは、と 時々思うときもあります。人は多面的ですから本当に理解するのは難しいです。「学者の音楽で感情表 現 に欠ける」というようなことを前に言っておきながらここで反対のことを書いて恐縮ですが、身内 では打ち解け た顔を持ち、繊細で親身なところもあるのでしょうか。ともかく、この39番は控え目ながら生きた動 きを感じます。細部まで注意が行き届いており、その美への独特のこだわりが心地良いです。具体的に 言えば、ジャズシンガーがよくやる手ですが、歌う弦の声部が前へ出てくるところでそれとわからない ほどわずかに歩を緩めて際立たせたり(奏者の自主性?)、短い音価で行くところとテヌートを使い分 けたり、旋律のしな りに微妙に陰影があったりします。そしてそれらがすべて自然で自発的な歌になっています。他の演奏 と比べてのその違いは大変微細なので、何かをしながら聞いていると気づかずに通り過ぎてしまうかも しれません。

 第一楽章は出だしから響くティンパニが温かい響きであまり尖らず、心地良いです。ロマン派的な解 釈 のように目立たないように叩かせるわけではなく、しっかりリズムを刻んではいますが、でしゃばらず、むしろそ のリズムが心地良く感じます。
 第二楽章はゆったりとしています。40番ではやや速く通り過ぎたのに、どうしたことでしょう。細 やかな配慮にこの曲への愛情を感じます。弦の音が大変美しいです。ガーディナーってこれほど表情豊 かだったでしょうか。ホグウッドも、ピノックさえもちょっと色褪せる気がします。イングリッシュ・ バ ロック・ソロイスツも大変上手いのでしょうけど、これほど微細な表情の違いを指示されて生き生きと アウトプットできるというのは、指揮者とこの楽団との普段の信頼関係を知らされるようです。愛おし む感覚がたまりません。
 第三楽章も生き生きしています。ティンパニの低めながら軽い響きが心地良いです。リズムはくっき りと刻んでいますが、ブツ切れ感は全くありません。フォルテが力づくにならず、中間部の歌もよくしないます。あのピノックの方が速くて前のめりになっている ようにすら思えるほどです。第四楽章もその傾向は同じで、ピノックよりテンポは緩め、慌てる感じが ありません。ホグウッドとはほぼ同じテンポですが、それでも若干遅めでしょうか。ピリオド奏法のせ かせかした感じが全くありません。どこをとっても美しくゆとりがあります。

 40番もそうでしたが、今はなくなってしまったレーベル、フィリップスの1988年の録音がまた 優れていま す。残響はほどほどあり、中低域がわりと響きますが、自然で弦の艶もあまり細くならず、理想的で す。



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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       John Eliot Gardiner    The English Baroque Soloists  2006

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
ジョン・エリオット・ガーディナー / イングリッシュ・バロック・ソロイスツ(新盤)
 ガーディナーは2006年にロンドンのカドガン・ホー ルで行ったコンサートのライブ収録盤も新しく出しています。こちらは 41番とカップリングになっていますが、表現の方法論は旧盤とほとんど変わっていません。 第一楽章と第二楽章はテンポにおいてほぼ同じで、新録音の方が ゆっくりの部分でややあっさりしているように思え、ささやくようだったところが少し普通の 小声になり、言いようによってはより健康になったとも表現できるかもしれません。スラーに よってつながる度合いもわずかに減っている気もします。それとも高 音の残響成分が減っているので切れて聞こえると いうのもあるかもしれませんが、いずれにしても違いは微妙です。第三楽章は旧盤よりやや ゆっくりで静かになり、途中木管(クラリネットとフルート)が装飾音符の掛け合 いを演じたりしますが、第四楽章は逆に明らかに速くなって快活にさらっと流れま す。

 最も気になる違いは音でしょうか。旧盤はフィリップスの録音でバランスの良いものでし た。この新盤の方は近頃の主流となっているライブ収録で、レーベルも多くのパ フォーマーが採算的に大手から出さなくなっている流れの中、ソリ・デオ・グロリア (SDG)から出ています。これは2005年にロンドンで設立されたガーディナー自 身のレーベルのようで、非営利で彼らの録音を継続させて行くための団体だとホームページでは紹介されています。昨今は機器も発達してある程度の投資でこう いうことが可能なようです。ジャケットには目立つところに楽団員全員の名前と謝辞が記さ れ、第一ヴァイオ リンのリーダーがアリソン・バリーだということもわかり、民主的かつ手作り感があって良い 雰囲気です。録音はフローティング・アースという会社が担当していることに なっており、プロデューサーはイサベラ・デ・サバタ、バランス・エン ジニアがマイク・ハッチとなっていますが、イサベラはどうやらガーディナーの奥さんのよう で、家族経営を窺わせます。音は近頃の傾向か、あまりきらびや かにならないバランスのもので、ハイ上がりの再生機器にはちょうどよいのでしょうか。中低音 はそこそこ響いてバランス的にも厚めなので見通しが良いとい う感じではありません。派手さのない高域は残響成分がほとんどないデッドなもので、弦の音に艶を加える傾向はありません。小さいところは応援したいのでネ ガティヴなことは言いたくないですが、コンサート収録らしい生っぽさはあるものの、ちょっ と古いラジオを思わせる小ぢんまり感もあり、自分としては旧盤の方をとりたいかなというと ころです。

 
 
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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Trevor Pinnock    THe English Concert
 
モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
トレヴァー・ピノック / イングリッシュ・コンサート
 40番が同曲のベストと言える出来だったので期待しました。結論から言えば私は 39番に関してはガーディ ナー(旧)の方がちょっといいかなと思います。どれか一人の演奏者が常に好みなら経済的なのですが、そうい うわけにもいかないのが楽しいところでしょう。しかしこのピノックの39番もやはり優劣つけがたいほど魅力 的です。古楽演奏の中で常に誇張が少なく、ゆったりとした歌があって安らげるのがピノックですが、ここでも 例外ではありません。

 第一楽章はテンポの上ではピノックもガーディナーもほとんど同じです。表現上ではピノックの方は、比べればピリオド奏法特有の語尾でスーッと力を抜いて引っ張る所作や ディナーミクの癖が若干強い気がします。リズムの端正さではガーディナーで、力を抜くところでもガーディナーは美しく感じます。ゆっくりのところでかなり遅くする 傾向があり、静けさあるのですが、ピノックは最初の楽章からそのように緩徐楽章のような扱いはせず、素直に 流れます。
 第二楽章は前半ではガーディナーの方が静かに抑えた感じで進行し、語りかけるように一音一音を丁寧に、愛 おしむように抑揚を付けて行きます。一方ピノックはもう少しあっさりしていて、リラックスしているとも言え る自然な抑揚が良いところです。しかし三分の二あたりから後ろになると、静かなところでピノックが滑らかに つないで行くように変化し、大変美しいです。最後に向かってさらに減速して行き、ささやくような風情になっ てくるところではため息が出ます。こうなるともはやガーディナーとも甲乙付け難いでしょう。
 第三楽章はピノックの方が若干速くて流れますが、何気ない自然さがあり、それよりも遅いガーディナーはア クセントがあって溌剌とリズミカルです。第四楽章もピノックの方がはっきり快速で流れるように進み、ガー ディナーはリズカルで弾むようです。

 全集の録音は1992年〜95年で、優秀録音です。適度に残響があり、細部がよ く聞こえながら全体が溶けて弦が美しいです。輸入盤ではバラでも出ています。



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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Ton Koopman   The Amsterdam Baroque Orchestra

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
トン・コープマン / アムステルダム・バロック管弦楽団
 バッハを大変愛しているように見受けられるコープマンですが、そのバッハでは軽さの中に適度に揺らめく抑揚が あり、やわらかな印象でした。モーツァルト でも基本的にその楽しげな波長は変わりませんが、他の古楽の指揮者同様、やはり70年代以降に確立されてきたピ リオド・モーツァルトのセオリーは外してい ないようです。つまり、溌剌として歯切れ良い、ロマン主義的な霧の中で夢を追ったりしない覚醒したアプローチで す。39番は元気良く始まりますが、誰かの ように頭のティンパニが非常に強いというわけではありません。しかし途中での叩き方にはクレッシェンドなどの工 夫があります。意外なところでタン、タン、 とリズム感を感じさせる強調が入ったりもします。テンポは中庸ですが、例によってスラーで延ばさないので実際よ りも速めに聞こえるようです。
 第二楽章もほぼ中庸なテンポですが、ここでは逆にピリオド奏法の平均よりはややゆったり目に聞こえます。一音 の途 中で弦がクレッシェンドしてディミヌエンド するメッサ・ディ・ヴォーチェの呼吸はありながら、あまり目立つ方ではありません。フレーズの区切りは軽くて さっぱりしています。ここもやはりレガートの 演奏ではありません。コープマンらしいのは力が抜けているところでしょうか。緊張感のあるピアニシモで息を呑む 美しさという感じではないです。

 録音は1994年でレーベルはエラートです。中域に寄った響きで、残響はほどほどの長さですが、やや箱鳴り感 があります。高域が艶やかという録音ではありません。


  
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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Jos van Immerseel    Anima Eterna
 
モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
ヨス・ファン・インマゼール / アニマ・エテルナ
 いかにもピリオド奏法の語法なの に、その沸き立つようなエネルギーで来られると説得されてしま うインマゼールとアニマ・エテルナの演奏、39番では自分の中の矛盾感が最高潮となります。というのも、この白 鳥の歌とも呼ばれることのあるお仕舞いから三番目の交響曲は、その繊細で優美な旋律が魅力的で、静かに、もし悲 しみというものがあるのなら結晶の中に閉じ込めてしまって、あくまでも透明に羽のように軽やかに翔けてほしいぐ らいに思っていたわけです。ところがこの演奏、軽いは軽いものの、そういうヨーゼフ・ランゲの肖像画みたいにう つむいて遠くを見ているようなのは本当の モーツァルトじゃないよ、歴史の垢だよと言わんばかりに嬉々として弾けんばかりです。しかも聞いているとそれが この曲本来だと思えてくるから不思議です。

 ティンパニが元気いっぱいなのは迷惑です。しかし頭の部分からキレが良いです。でもアーノンクー ル盤がタメを作ってからテンポを遅め、断定的な迫力をもって叩いているのとは違い、軽くて弾けるような音です。 第一楽章は全体に力強くはありますが、その中に軽さもあります。第二楽章はやや速めのテンポながら自然な歌があ ります。第三楽章はテンポは普通ですが、やはり弾むようなリズムでダイナミックです。終楽章は特に速くなく、古 楽器による演奏であることをさほど意識させないオーソドックスなものに聞こえます。
 伝統的な演奏とどちらが好きなのかと言われると今でも悩みますが、もはや方法論だけでは決められない、ひとつ の完成された演奏だと思います。

 2001年の録音は大変優れています。透明さがあり、ヴァイオリンの音が瑞々しく響きます。編成の大きくな い、楽器にこだ わったオーケストラの良さが十分味わえます。



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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Jaap Ter Linden    Mozart Akademie Amsterdam

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
ヤープ・テル・リンデン / モーツァルト・アカデミー・アムステルダム
 オランダのヴィオラ・ダ・ガンバ奏者、ヤープ・テ ル・リンデンのバッハのチェ ロ組曲はリラックスした大変素晴らしい演奏でした(「癒しのバロック・チェロ」)。ここ では指揮者としてモーツァルトの交響曲に挑んでいます。その名を冠した楽団を作って全集も出していると ころをみると、この作曲家に特別な思い入れがあるのでしょうか。
 39番の演奏ですが、第一楽章は出だしの音から厚みがあり、ティンパニは低音寄りの響きです。テンポ はやや遅めで、素朴さを感じます。リズムはわりと重めで、軽快で歯切れ良いといういかにも古楽器演奏と いう感じのものではありません。また、静けさと繊細さに特徴があるという方向でもありません。オランダ の指揮者と楽団ですが、ひとことで言うと実直なドイツ系の人のような演奏に感じます。途中で走ったりす る表現は一切なく、一音一音はっきりとアーティキュレイトして行きます。
 第二楽章はゆっくりです。スラーでつなぐのではなく、区切って行く感じで、滑らかに流れるようにやる 意図はないようです。
 第三楽章は重めのリズムでどっしりとしています。中庸ややゆったりめのテンポです。第四楽章もどっし り、しっかりしており、くっきりと重めなリズムです。スポンジに対するパウンド・ケーキというところで しょうか。テンポもこの楽章にしてははっきりと遅めだと思います。どこまでもゆったりと一定に進みま す。面白みと軽さはありませんが、素朴で実直な良さがあると言えるでしょうか。

 2001年の録音は残響が全体に良く付き、しかし高域が響き過ぎることはなく、バランス的には中低域 寄りです。



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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Roger Norrington    Radio-Sinfonieorchester Stuttgart

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
ロジャー・ノリントン / シュトゥットガルト放送交響楽団
 ノリント ンという人は存在感のある人です。とにかく楽しい演奏という意味では他にはない良さがあるの ではないでしょうか。特にユニゾンで始まるところが芝居っけのある25番や、ともすると大編成で重たく なりがちなジュピターなど、これほど楽しく乗れる演奏はめったにあるものではありません。39番は個人 的にはささやくように美しく歌って欲しいですが、そういう期待を押し付ける相手ではないでしょう。これ はこれで喜んでみたら良いと思います。

 第一楽章は軽く明瞭なティンパニの音、という感じでもないながら、やはりなかなか元気に叩かれて始ま ります。ロングトーンの途中で弱めたりする独特の呼吸法はここでも健在で、ただ歯切れ良くやるだけでは なく、結構引きずったような拍の扱いもあります。低くうごめくような構えから何か獣が飛びかかるような バネの効いた表現もあります。
 第二楽章も途中からスタッカートにしたり、飛び跳ねるような動きがユーモラスです。
 第三楽章はアクセントに癖があるものの、案外普通に聞こえます。昨今は他の演奏者も色々仕掛けを工夫 するからでしょうか。終楽章はやや遅めのテンポで、重めのリズムでくっきりとしています。



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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Charles Mackerras    Scottish Chamber Orchestra

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
チャールズ・マッケラス / スコットランド室内管弦楽団
 オーストラリアで生まれ、イギリスとチェコで学んだ幅広いレパートリーを持つ指揮者でしたが、 2010年に惜しまれつつ亡くなっています。
 モダン楽器によるピリオド奏法を行っていますが、突飛なところはなく、レクイエムで見せた先鋭さ、寒 色の響きという特徴はここではあまり感じません。録音の状態も違うので演奏だけの問題とも言えません が。最近のものらしく色々工夫は感じられますが、案外淡々として自然な進行です。むしろもっと前の時代 の語法かと思わせるような部分も聞かれます。

 第一楽章は出だしの部分で、二拍目に三つ続くティンパニのリズムが二音に聞こえます。弱いのか叩かれ ていないのかと耳を澄ましましたが、他のパートもそういうリズムになっているので、そう演奏しているの でしょう。つまり「ダーン、ダダダーン」ではなくて「ダーン、ダダーン」です。テンポは速いです。スト レートな歌わせ方です。結構迫力があります。ただ、中高域が反響によってきらびやかに響くせいで、 ちょっと音がキツい気もします。途中、第二主題への導入が大変遅く、その後意外にもチェンバロが鳴らさ れて次の主題が始まります。こうした抑揚によるのではない工夫は面白いと思います。それから途中から アッチェレランド(だんだん速くなる)して猛然と進むところがあります。フルトヴェングラーですらモー ツァルトでは途中から駆け出したりはしないものだと前に言いましたが、これにはちょっと驚きました。ま た、通奏低音の弦が持続音に聞こえているとでも言いたくなるような処理があったりもします。
 第二楽章は中庸なテンポです。前の楽章と比べるとゆったりに聞こえます。やはり語尾は過度には延ばし ません。リタルダンドが出たりしますが、表現上突飛な感じはどこにもありません。中間部の力強いところ が印象的です。静けさの方には力点がないのでしょうか。全体にテンションの高い演奏です。
 第三楽章は速いです。そのせいもあり、ちょっと低音のボンつきが気になりました。エネルギッシュで す。教会録音のようによく反響しています。
 第四楽章は普通に速いです。反響の中でどんどん続けて進行して行く感じです。このテンポならもう少し 音が明瞭だといいと思います。

 撫でるようにつなげて行くテヌートの弦が場所によってすすり泣きのような効果をもたらしています。対 してリズムははっきりとしています。しかし全体的には表現はオーソドックスなものに感じます。中低音が ボンとよく響くところは同じ趣向のアダム・フィッシャーとは録音場所も録り方も違うようです。トータル では意外とストレートな演奏に感じます。レクイエムで見せた厳しく引き締まったクールさとは別の印象で す。

 2007年の録音はエンジニアが元デッカのジェームズ・マリンソンです。ただ、すでに色々述べました が、今回の録音のバランスは正直私の好みではありませんでした。



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      Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
      Rene Jacobs    Freiburger Barockorchester

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
ルネ・ヤーコプス / フライブルク・バロック・オーケストラ
 アーノンクールに勝るとも劣らない古楽独特の工夫が凝らされた新しいヤーコプスの録音、白鳥の歌とも呼ばれる 39番では比較的その元気さが抑えられているような気がしますが、傾向は同じだと言って良いでしょう。第一楽章 は中庸なテンポで決して速くはありませんが、リズムがくっきりしています。第二楽章のテンポはゆったりしていま すが、古楽独特の山なりの強弱がかなりしっかりと付けられていま す。第三楽章は速く、短く切って強調されたリズムで勢いが良く、第四楽章のテンポは中庸ですが、はきはきしてい てブラスが元気です。

 録音は40番のところで書いた通りで、低音がしっかりしていて残響は少なめです。2008年の収録です。

 

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      Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
      Frans Bruggen    Orchestra of the Eighteenth Century

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
フランス・ブリュッヘン / 18世紀オーケストラ
 以前とは違い、大変自然体になってきたブリュッヘンですが、39番の演奏で特徴的なのは、古楽器に よるピリオド奏法でいつも感じるブツ切れ感がないところでしょうか。拍の区切りをはっきりと取るところと、それに対 するアンチテーゼのように故意に引きずるところとを設けてコントラストを付けるという手法はピリオド奏法の他の指揮 者でもときどき聞かれますが、ここでは後者の引きずるようなテヌート気味の歌わせ方が印象的です。そして古楽演奏で はめずらしく全体にスラーがかかったようなその扱いにより、旋律線がよくしない、滑らかです。第二楽章はゆったりめ のテンポです。後ろ二つの楽章は大変オーソドックスな印象です。

 グロッサの2010年の録音は40番のところで述べた通り、自分の好みからするとややオフで明瞭さに欠けるような 印象を持ちます。演奏は自然で素晴らしいのでちょっとだけ残念です。これも再生機器によるかもしれません。



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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Philippe Herreweghe    Orchesre des Champs-Elysees

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
フィリップ・ヘレヴェッヘ / シャンゼリゼ管弦楽団 
 40番よりもストレー トさが減り、その分工夫が生きた演奏であるように感じました。第一楽章のテンポは中庸で、遅い方ではありませ ん。第二楽章もゆったりの方向ではありません。洗練を感じさせる速度です。表現はピリオド奏法をとっている演奏 家たちの中で最も誇張 がないものかというとそうでもなく、この人にしては案外メリハリが効いている方でしょう。リズムが適度に歯切れ 良くて心地良いです。拍の区切りと間の置き方は くっきりとしています。所々で意図的な音の強弱による揺れというか、歌い回しに微妙な変化が聞かれます。こうし た表現が説得力を持つかどうかは受け手の感性にもよると思いますが、最近のように数としても色々工夫の凝らされ たものを聞くようになってくると、ディテールが少し違うバリエーションの一つぐらいに聞こえてしまいがちで、必 然性はよくわからない気もします。少なくとも私には新鮮ということはありませんでした。第三楽章は軽快で弾むよ うです。第四楽章も同じ傾向で、快活で生きいきしています。

 録音はトータルでバランスが良いですが、響き方が生真面目で個人的にはあまり魅力的ではありませんでした。 2012年の録音です。



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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
     Adam Fischer    The Danish National Chamber Orchestra

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
アダム・フィッシャー / デンマーク国立室内管弦楽団
 ハンガリー生まれの指 揮者によるモーツァルトです。モダン楽器を使って古楽器奏法のアーティキュレーションでやる、いわゆるピリオド 奏法ですが、全体の印象は大変フレッシュです。弾けるような軽さがありながら優美な歌が聞け、この39番はなか なかの名演だと思います。

 最初の楽章でこの曲に対するアプローチはわかるもので、伝統の塵を落として元気良く先鋭にやりたいのか、白鳥 の歌と呼ばれるこの曲の持つ優美さに焦点を当てたいのかがはっきりします。ピリオド奏法では結構グイグイ来られ るものが多い中、この演奏はどちらのステレオタイプにも堕せず、新鮮にして優美です。リズムに工夫がある一方 で、その静かに繊細にしなう歌 い回しは絶品です。出だしのティンパニは結構軽い音で間を取って落ち着きはあるながら、結構勢い良くリズミカルに叩かれます。途中で緩めるなど、均等なリ ズムでないところと、打っておいて止めるような拍の区切りに意欲が聞かれます。一方で続くメロディーラインは繊 細に表情を付けます。
 第二楽章はテンポこそゆったりしているわけではありませんが、ここにも静けさがあります。やはりフレーズの語 尾を切るところとアクセントは現代のピリオド奏法的ですが、デリケートで美しく感じます。
 第三楽章はあまり力を込めたようにはなりません。リズムに軽さがあるせいでしょう。リズミカルで独特のグルー ヴ感があります。それでいて弦が歌うところでは対比的に滑らかに、引っ張るように撫でて行きます。
 第四楽章は40番の第一楽章同様、細かく浮いたり沈んだりしながら進行します。テンポはやや速めながら常識的 な範囲内で、この演奏者は全曲を通じて、たとえ駆け足になっても威圧感は感じません。軽さがあります。

 2012年の録音はこの手のピリオド奏法モダン楽器というものの中ではきれいなものの一つでしょう。弦も管も 瑞々しく心地良いです。レーベルはデンマークのダカーポです。



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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Nikolaus Harnoncourt    Concentus Musicus Wien

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
ニコラウス・アーノン クール / ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
 モーツァルトの三大交響曲はこれまでにすでに二度録音している古楽ムーヴメントの急先鋒、アーノンクールですが、 年とともに穏やかになって行っているこの指揮者にしては珍しく、モーツァルトの交響曲についてはこの最新の録音でも 最初のものとさほど変わらない劇的な表現を貫いています。最初はロイヤル・コンセルトヘボウと1980年に録音して そのアグレッシブさが話題になり、次いで91年にヨーロッパ室内管弦楽団、そして今回アーノンクール自身が設立した 楽団による古楽器の演奏となりました。この指揮者は好きですが、ヴィヴァルディの四季とモーツァルトの交響曲、特に この39番だけはその創意工夫が個人的には必然に感じられない気分のままでいます。四季については昔のイ・ムジチの ようなまったりした演奏が今決して繰り返されなくなったことをさして懐かしく思わないのですが、「白鳥の歌」はもう 少ししんみり聞きたいと言えば、やはり時代に乗り遅れてるでしょうか。

 第一楽章から芝居っ気は全開で、ゆっくり主題を提示した後のつなぎで軽快に走ったり、ティンパニの加わるところで 遅めて断定的に強く打たせたりしています。テンポは速めです。
 第二楽章はこの人独特の歌い回しの上手さが堪能できます。ただ優美なだけではないモーツァルト像を示すというのが アーノンクールの意図なのでしょうが、元々美に対する感受性が豊かな人なので十分に美しいです。テンポは中庸やや速 めというところです。
 第三楽章はまたテンポが大胆に変動し、ティンパニは元気よく強調されて叩かれます。
 第四楽章はあまり速いとは言えない中庸なテンポながら、アクセントはやはり強くて勇ましいです。

 録音は新しく、2013年でムジークフェラインでのライブ収録です。



モダン・オーケストラによる演奏

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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Bruno Walter    The Columbia Symphony Orchestra

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
ブルーノ・ワルター / コロンビア交響楽団
 40番が定番と言われる名演であり、ワルターと言えば歌にあふれた手弱女振りというのが評判ですから、39番 についてはその曲の性質からぴったりだろうと想像するわけです。果たしてどうかというと、そういう思い込みから すると案外元気です。
 第一楽章は最初からほどほど力強いですが、ピリオド奏法とは違ってティンパニは鋭くはありません。編成が大き いせいもあって分厚い音が重めにやって来ます。テンポはゆっくりです。個人的にはかなり遅いなと感じます。節回 しはヘヴィ・クリームのように滑らかです。
 第二楽章は大変ゆったり、静かに入ります。やはり滑らかだけれども、一歩ずつ踏みしめて歩くような運びです。 もう少し軽 さとウィットがあってもと思わなくもありませんでした。真面目でじっくり、悪く言えば若干間延びしているとも表現で きるかもしれません。
 第三楽章は力強くてくっきりしています。テンポはやや遅めながら、中庸の範囲です。中間部ではワルターらしく 滑らかに歌います。
 第四楽章はモダン・オーケストラの演奏としては中庸な方で、遅くはありません。そして大変はきはきしています が、軽やかというのとは違います。好みとしては、この楽章はもう少し軽快に行ってくれればと思わなくもありませ んでした。しかしワルターで揃えたいなら、やはり名演だと思います。

 録音は1960年。40番のときのセッションとはバランスが違います。イコライザーで調整しても、40番の方 が上手く行きました。少し寝ぼけて反響が多いような気がします。ソニーの日本盤 DSD リマスターは、ここではややシャキシャキした音に感じます。



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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Karl Bohm    Berliner Philharmoniker  

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
カール・ベーム / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 モダン楽器によるオーケストラの演奏で、三大定番と言われるものの一つです。残りはワルターとカラヤ ンですが。ベームの演奏は大変実直で生真面目、リズムの一つひとつがくっきりと手に取るように見えま す。こう言うと古楽器の演奏がリズムをはきはきと区切って、ときにスタッカートのように歯切れ良くやる のが流行になっているのと似ているように聞こえますが、実際に聞くと全くニュアンスが違います。古楽器 オーケストラの指揮者たちは鋭角にえぐることで新鮮な驚きを提供したいという意図があるのだろうと思い ます。一方でベームのリズムのかっちり感は、鋭く切れるという方向ではなく、一歩ずつ区切って確かめて 行くような真面目なもので、重さ軽さで言うなら重みを感じます。

 二つある録音のうち、ベルリン・フィルとのものが前、ウィーン・フィルとのものが後になり、前者の方 がテンポが速くて筋肉質だというのが全体的な傾向ですが、この39番についてはテンポはずいぶんゆった りで、ウィーン・フィルに迫るところもあります。大変しっかりと演奏しているなという印象です。

 1961年の録音はステレオ初期ですが、何の不満も感じないバランスの良いものです。リマスターのせ いもあるのでしょうか。これについては比べてないのではっきりしたことが言えませんが。



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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Karl Bohm    Wiener Philharmoniker  

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
カール・ベーム / ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 
 ベーム晩年の、大変ゆっくりな演奏です。レクイエムなど、私はちょっとついて行けませんでしたが、これもかな り遅く感じます。止まりそうだというと言い過ぎでしょうか。ただ、この時代の大変正統的な演奏をする指揮者です し、やわらかな音の伝統的なオーケストラですし、老翁ベームの良いところは自然体であるところです。力が一切入 らず、悠々と流れて行きます。第二楽章のゆったりさなど、他にはないのではと思わせます。これはこれで味わいが あると言えるでしょう。

 この時期の録音は大変ナチュラルで、グラモフォンのアナログ録音としても優れていると思います。1979年の 収録でした。



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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Istvan Kertesz    Viener Philharmoniker

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
イシュトヴァン・ケルテス / ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 ハンガリー出身のユダヤ系指揮者、ケルテスの演奏はどこにも欠点のない均整のとれたものであ り、そういう意味では正統派の最たる ものと理解されているベームのベルリン・フィルとの演奏と比較できるのかもしれません。ただ、ベームほど四角く はなく、やわらかな印象のあるモーツァルトの39番など、一つの模範と言えるかもしれません。ウィーン・ フィルとの演奏であるため、デッカの録音と相まって音の面からも喜ばれているようです。

 第一楽章はやや遅めのテンポで、モダン・オーケストラらしい落ち着いた重い運びで滑らかです。第二楽章もゆっ たりで、ここにはあまり波はありません。大変穏やかな印象です。第三楽章も終楽章もまた、大変オーソドックスな 完成度を見せます。

 1962年の録音は40番よりも古いようですが、ここでも音は悪くありません。



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      Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
      Herbert von Karajan    Berliner Philharmoniker

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
ヘルベルト・フォン・カラヤン / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 レガートの帝王、カラヤンの39番はどうでしょうか。静かな白鳥の歌に、滑らかでロマンティッ ク、艶やかなベルリン・フィルハーモニーという組み合わせは最高のような気がします。ただ、今あら ためてこうして聞くと、ピリオド楽器による演奏の嵐がクラシック市場を席巻した後の今となっては、 過度に大編成で重厚に聞こえるのではないでしょうか。颯爽としていたカラヤンですら、その滑らかさ が重さを感じさせます。

 この第39番についても、全部で何回カラヤンが録音をしたのか、詳しいことを知りません。一般的 に流通しているものは、1970年、77年、そしてラスト・コンサートでの88年ということになる でしょうか。演奏様式についてはこれも40番と同様で、モーツァルトに関してはカラヤンの演奏は時 とともに大きくやり方を変えて行くということはなかったように思います。1970年のこの盤の特徴 は、その後の77年のものよりも幾分ゆっくりで、レガート度合いも大きい気がします。カラヤンの個 性という意味では、案外この70年盤に特徴が出ていると言えるかもしれません。

 録音は十分に良く、イエス・キリスト教会で収録されているためもあって残響が長くて芳醇な味わい です。その分やや透明度は落ちるかもしれません。



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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Herbert von Karajan    Berliner Philharmoniker

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
ヘルベルト・フォン・カラヤン / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 1977年にはあまり期 間を空けずに新録音が出ました。ベルリン・フィルハーモニーザールでの録音で、旧録音よりも残響成 分が減ってすっきりしました。しかしデッドというわけではありません。大変良いバランスだと思いま す。テンポもややすっきり、スラーのつながりも若干もやが晴れたところがあるようですが、やはり相 変わらず滑らかにして重厚です。



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      Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
      Herbert von Karajan    Berliner Philharmoniker

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
ヘルベルト・フォン・カラヤン / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 
 1988年、ブラームスの来日時のライブが圧倒的名演で、それが日本での最後のコンサートになったということは別 項目で触れました(「カラヤンのラストコンサート」)。この39番は そのときに行われた演奏です。演奏順もあり、曲も曲であるがゆえ、ブラームスのような神懸かりの燃焼は見せません が、遅いテンポで、元来重厚だったカラヤンのモーツァルトの中でもさらに重厚な運びとなっています。第二楽章はさほ ど遅いわけではないですが、全体には何か、冗談と卑猥と白鳥のモーツァルトというよりもむしろ、病と向き合った晩年 のベートーヴェンとでも言うべき雰囲気で、もはや滑らかさや優美さという種類ではなく、重く真剣な印象です。

 音はさすがに日本でのライブ録音だけに、前二者と比べるといかにもライブらしい感じです。



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      Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
    Otmar Suitner    Staatskapelle Dresden

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
オトマール・スイトナー / シュターツカペレ・ドレスデン
 旧東ドイツの名門オーケストラ、シュターツカペレ・ドレスデンは落ち着きと深みのある音で、はったりのない誠実な運び が魅力的です。1960年から4年間音楽監督だったこのスイトナーの盤は、モダン・オーケストラの演奏する 39番の中ではバランスが良く、今のところ最も気に 入っています。40番では同オーケストラの後発盤であるブロムシュテットのも のが素晴らしい演奏でしたが、39番では自分の中で逆転していて、両方手の届くところ に置いておかなくてはならなくて悩むところです。

 第一楽章のティンパニは控えめで、やわらかく入ってスラーでつながります。リズムの区切れ感は40番のときのよう には出ておらず、この曲の雰囲気に合っています。残響のあるルカ教会での厚みのある音が魅力的です。古楽器奏法とは 違ってリズムは軽いものではなく、着実で滑らかであり、さすがに東側の伝統オーケストラの落ち着きです。
 第二楽章はやわらかく、静かで大変ゆったりです。ウィットに富んだという感じではなく、良い意味での真面目さを感 じます。運びはやはりピリオド奏法ではないので、スラーが聞かれます。穏やかでよくしなう節回しで、途中弱めるとこ ろで消え入るように繊細に扱い、スイトナーはこんなにデリケートな表情を与える人だったかと驚きました。展開部では 力のある盛り上がりを見せます。弦の音が繊細で滑らかです。
 第三楽章は遅めのテンポで、しっかりしたリズムながらしつこさがありません。
 終楽章はゆったりではあるものの、遅くは感じません。

 ドイツ・シャルプラッテンの1975年のアナログ録音は落ち着いた良い音です。ヴァイオリン群の艶と分解がちょう ど良く、最新録音に劣るところがありません。分解能の高いオーディオ・ファイル向けの音ではないですが、厚い低音の オーケストラが堪能できます。



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      Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
      Neville Marriner    Academy of St Martin in the Fields

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
ネヴィル・マリナー / アカデミー室内管弦楽団
 小規模な室内管弦楽団でありながら、古楽器による演奏ではないマリナーとアカデミー室内ですが、これはこれで独自の魅力があるかと思います。大げさでな く、常に端正でありながら繊細なウィットに飛んでいます。39番などは大変期待した演奏でした。フィリップスに録音 したこの盤の後にも EMI からディジタル録音が出ていますが、そちらはよりダイナミックな表現に変わり、テンポも遅めになっている部分があり、音は初期デジタルのちょっとギスギス したところのあるもの(主観の範囲ですが)なので、ここではアナログ盤の方のみを取り上げさせていただきます。

 ただ、40番のところでも述べましたが、このモーツァルトの交響曲については、少なくとも私の手に入れた DUO の廉価版シリーズの音はややオフで、反響も少ないデッドなものでした。ピアノ協奏曲などでは大変優れた録音になって いるのでちょっと残念です。
 39番も中庸なテンポで、第一楽章は、いつもどちらかというとやや軽快なことが多いこの人にしてはゆったり目に感 じます。しかし表現は過度に引っ張らない端正なものです。
 第二楽章も中庸のテンポで端正さが際立ちます。もう少しやわらかに表情をつけて歌う方が、と思わなくもないです が、マリナーらしく出しゃばらないのでしょう。第三楽章も中庸で端正、力が入らないところが特徴かと思います。終楽 章も遅くはなく、中庸なテンポで進みます。

 1978年と表記されている録音は、40番と8年の開きがあることになっていて別のセッションなはずですが、音は 案外似ていてやはりちょっと高域がオフ、残響の面からするとデッドです。弦に艶はあるのですが、40番同様、個人的 にはイコライジングしてしまった経緯があります。



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      Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
      Rafael Kubelik    Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunks

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
ラファエル・クーベリック / バイエルン放送交響楽団
 いつもゆったりとして独特のやわらかな歌のあるクーベリックはやはり39番、きれいです。熱気のある演奏では ないで すし、テンポもゆったりですが、案外はきはきしたところもある清潔にして繊細な演奏です。

 第一楽章はモダン・オーケストラとしては中庸の範囲のテンポですが、まあゆったり目と言えます。音の扱いはピ リオド奏法とは違って弦にスラーがありますが、一つひとつ音を出して行きますので、カラヤン・レガートとのよう に厚いもやの中でつながった滑らかさとは違います。出だしは力で押さず、管楽器もやわらかく抑揚があります。ワ ルターよりも間が取れているでしょうか。ピアニシモでよく延ばすところがきれいです。
 第二楽章は滑らかで遅めなので、棒のように延ばしているように感じる人もあるかもしれませんが、ニュアンスは かなり繊細についています。やわらかく弱めたり、大仰でなく膨らませたり、愛おしむようです。モーツァルトのは かなさというよりも大人の落ち着きを感じさせますが、後半は夢の中を漂うようで、いい演奏だと思います。録音が もう少ししっとりだったら演奏に合い、自分の中でベストの評価に入るかもしれません。
 第三楽章はゆったり力が抜けて、着実です。やや遅めでリズムが幾分区切れているように感じます。終楽章は中庸 なテンポに変わりますが、着実な歩みは変わりません。

 1980年の最初期のデジタル録音です。高域がややサラッとしてヴァイオリンに浮いた艶が加わりますが、バラ ンスは良いです。低音のたっぷりした音ではなく、室内管弦楽団のようにくっきりとして聞こえます。これでフォ ルテの弦がもう少し滑らかだったら文句のないところですが。リマスターによって印象が変わる範囲にはあります。



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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Herbert Blomstedt    Staatskapelle Dresden

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
ヘルベルト・ブロムシュテット / シュターツカペレ・ドレスデン
 スイトナー盤 の後にデジタルで出たドレスデン・シュターツカペレの演奏は、40番が圧倒的に良かったために期待しました。良 い演奏ですが、比べると私はスイトナーの方が逆転して良かったように思います。テンポが大変遅く、ちょっと着実 に過ぎるように感じられるせいだと思います。古楽器とピリオド奏法によるアプローチの正反対と言えるかもしれま せん。他の指揮者同様、40番の鮮烈に対して39番を静かで穏やかな曲だと位置づけているのでしょうが、ブロムシュテットの捉え 方は全体がロマン派的な緩徐楽章のように壮大な方向です。常に作為を感じさせない東ドイツの楽団ではあります が、ここではオーケストラの自発的な中庸さを超えて指揮者の設定を感じます。

 第一楽章のテンポはしっかり遅いです。角を付けて区切るわけではないですが、リズムも重いです。一音一音はっ きりしていて大変ゆっくりやります。
 第二楽章はスイトナーよりゆっくりしています。悪く言えばのっぺりしているとも表現できるでしょうか。展開部 では盛り上がりますが、全体では私はやや平坦に感じます。ただ、クーベリックにもそんな感じがありましたが、よ く聞いていると穏やかで、染み出してくる味わいがあるとも言えます。
 第三楽章はスイトナーとほぼ同タイムで、一歩一歩進みます。ただ、やはり主観的にはスイトナーより遅さを感じ ます。どうしてでしょうか。リズムの区切れた感じから来るのか、平坦さのせいでしょうか。第四楽章も遅く平坦に 感じます。真面目な好演という見方もあると思いますが。後半では力強さもあり、この楽団の伝統を感じさせます。

 1982年の DENON PCMシリーズのデジタル録音はシャルプラッテン側の技術者を立て、厚みのある自 然なバランスで弦も爽やかです。



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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       James Levine    Wiener Philharmoniker

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
ジェームズ・レヴァイン / ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 ウィーン・フィルの演奏です。アメリカ生まれのユダヤ人の指揮者、レヴァインの盤も話題になったようです。この楽団で聞きたければベームかケルテスかこ の人かという話になるかと思います。演奏はケルテスと並んで大変オーソドックスです。
 
 第一楽章のテンポは中庸ですが、ややゆったり目かもしれません。明らかに古楽器の小楽団とは違います。第二楽章も オーソドックスなテンポ設定です。一方で第三楽章はやや速く、若干リズムにキレがあります。第四楽章もモダン・オー ケストラとしては速めの方でしょう。

 最大の魅力は VPO の音かもしれませんが、1986年の録音はこの楽団らしいやわらかい風合いをよく伝えてい ます。ただ、鮮明な方向ではなく、案外残響が含まれた録り方です。キツさはありません。



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       Mozart   Symphony No.39 in E Major K.543
       Kurt Sanderling    Deutsches Symphonie-Orchester Berlin

モーツァルト / 交響曲第39番ホ長調 K.543
クルト・ザンデルリンク / ベルリン・ドイツ交響楽団(旧ベルリン放送交響楽団)
 ザンデルリンクは現在のポーランド領に生まれ、ユダヤ系であったためにナチから逃れてソ連でデビューし、後に東ド イツで活躍した指揮者です。2011年に98歳で老衰のため亡くなっています。
 一方ベルリン・ドイツ交響楽団の方は以前ベルリン放送交響楽団という名で呼ばれており、米軍占領地区の楽団として 設立された旧西側のオーケストラなのですが、ベルリンにはたくさんのオーケストラがあって混乱します。同じ名前のベ ルリン放送交響楽団は東側にもあり、現在も存在しています。また、ベルリン交響楽団という名前も二つあります。東側 にあったものは現在ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団と名称を変え、西側のものは戦後に設立された楽団で、現在は リオール・シャンバダールが主席指揮者を務めています。この楽団は私も聞きに行き、世間の軽い扱いとは裏腹に大 変上手で楽しませてくれました。特にアンコールで取り上げられたエニグマ変奏曲の「ニムロッド」は、通常最後で 盛り上げるところを中程以降で波打つようにエネルギーを高め、圧倒的に気の入った名演だったため、以後どの CDにも満足できなくて困っています。脱線しましたが、これ以外にも旧東側だった シュターツカペレ・ベルリン(ベルリン国立歌劇場管弦楽団)もありますし、世界一上手いと言われるベルリン・ フィルは名を挙げるまでもないでしょう。今回このCDで演奏しているベルリン・ドイツ交響楽団は、1991年 という時期から言ってアシュケナージが 主席指揮者だった頃だと思います。

 さて、演奏なのですが、カップリングになっている田園もゆったりほのぼのとした味わいで良いのですが、気のせいか どうか、どうもミスが多いように思います。編集していないだけという問題だとも言い難い感じです。第一楽章でフルー トのテンポが走って合わず、フライングのように聞こえるところがありますし、クラリネットの音もピッチが合ってるの かと思う箇所があります。全体に揃わない微妙な感じはアンサンブルの乱れと言うべきかもしれません。正直、この楽団 一流だったっけとケースを再確認してしまいました。合っているところは問題ないので第二楽章などの美点に目を向ける べきでしょう。
 出だしで面白いのは、最初の音が一斉にドンと強く出るのではなく、ティンパニが鳴って一瞬遅れて他がスタートし、途中から盛り上 がるように感じるところでしょうか。ボン、ガ〜ンという感じで全体の演奏を象徴しています。テンポはゆったりで、この 人の演奏には独特のリラックス感があって良いです。音を鳴らす前にちょっと確かめているような風情があちこちにあっ て、ややもったりしているようにも響くのですが、ユルさは美点にもなり得ます。
 第二楽章はよく響かせていながらスローだという不思議な感覚です。穏やかできれいです。このゆったりした感覚は平 和で幸せです。これが良いとなると他では探せない個性です。やさしく抱かれているような感じと言いましょうか。続く 第三楽章も余分な力が入らず、ゆったりとたゆたって良い雰囲気です。アンサンブルの微妙な揺れも美点に聞こえてしま います。終楽章も肩の力が抜けています。技術的に言えば不満なのに、なんか魅力のある不思議な演奏だと思います。お 昼寝の後の幸せ、でしょうか。

 録音は良いです。ライブなので会場のノイズなどは聞こえますが、自然という意味では演奏ともども良い雰囲気です。 目の覚めるような音ではないですが、自然な弦ののびのびした音が楽しめます。Weitblick というレーベルは知りませんでしたが、ドイツのものながら日本で曲目選定をして、日本向けに出されているもののようです。中の解説もドイツ語、英語と来 て、日本語が印刷されています。



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