シューベルト / 交響曲第5番

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 交響曲第5番変ロ長調 D.485 はシューベルトが十九歳のときに作曲した初期のシンフォニーの代表曲で、モーツァルト風ともされる優美なものです。そう言われるだけあって全ての楽章が愛らしく軽やかで、他の作品にあるようなロマン派的なトゥッティや深刻さに縁がありません。「未完成交響曲」、「ザ・グレイト」に次いで人気のある作品です。この作曲家に時折ありがちに感じる肯定に埋め尽くされた執拗さのような部分も顔を出さず、「未完成」と一緒に入っていてくれると有り難いと思ったりもします。

  前記事で取り上げた「未完成」のブロムシュテット盤にもインマゼール盤にもカップリングされていたのでそれでも良いですし、ベームのベルリン・フィルとの廉価盤(1966)も気に入ってました。後のウィーン・フィルとのときより軽快なテンポであり、録音も新しくはないはずなのに全く遜色がなく、音も潤いと繊細さを感じさせる名盤だと思います。しかしこの曲の演奏として理想的だと思えるものがもう一つ別にありますので、マイナーなものを出してと言われるかもしれませんが以下に取り上げます。



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      Franz Schubert   Symphony No.5 in B, D.485
      Heinrich Schiff   Royal Northern Sinfonia ♥♥ 
      Symphony No.8 (7) in b, D.759 "Unfinished"
      Vernon Handley   Ulster Orchestra

シューベルト / 交響曲第5番変ロ長調 D.485
ハインリヒ・シフ / ロイヤル・ノーザン・シンフォニア
♥♥
シューベルト / 交響曲第8 (7) 番 ロ短調 D.759「未完成」
ヴァーノン・ハンドリー / アルスター管弦楽団

 シューベルトの5番はハインリヒ・シフとノーザン・シンフォニアの演奏が生きいきとした名演で、今のところこの曲のベストのように感じています。指揮者のハインリヒ・シフは1951年オーストリア生まれで元々チェリストでもありましたが、2016年に亡くなっています。ロイヤル・ノーザン・シンフォニアは1958年設立のイギリスの室内オーケストラで、イングランド北部のニューカッスル・アポン・タインに隣接した南側、ゲーツヘッドの町が本拠地です。位置的にはスコットランドに近い北東部です。かねてからこの古典派的な5番は室内管弦楽団のような編成の小さなオーケストラの方が似合ってると思って来ましたが、この団体はその意味でも理想的でした。同じイギリスのアカデミー室内管弦楽団と同様、古楽器の団体ではありません。しかしその分変なアクセントが乗ることのない自然な美しさが期待できます。アカデミー室内管と比べれば聞き慣れない名前でしょうけれども、ロイヤルの称号を女王から与えられています。1992年の録音で、シャンドスがコンピレーション企画として意匠を変えても出し続けているもので、価格も手頃に手に入る上ダウンロードもできるし、サブスクライブのサイトにもあります。

 テンポはピリオド楽器のインマゼール盤と変わらない軽快なものですが、ややゆったりの箇所もあります。一般的な古楽器の楽団よりも拍を区切って行く傾向がなく、やわらかさを感じるのが特徴で、最初に述べたように生きいきとしていて力の抜けた演奏です。細部までニュアンスが豊かなのに、くつろいで楽しんでいる感覚に溢れているのです。個別的に言えば明るく朗々と歌うフルートが印象的です。第二楽章も速めのテンポ設定ながら爽やか表情豊かに歌っています。このテンポこそがベストでしょう。やはりフルートが美しく響きます。
ニューカッスル・アポン・タイン、キーサイドオール・セインツ教会で収録されたということですが、残響が潤いを添えます。同じ演奏家で3番も収録されています。

 そしてこれにカップリングされているのは「未完成」です。演奏団体が変わり、ヴァーノン・ハンドリー指揮のアルスター管弦楽団です。録音は1989年。こちらについては「未完成」 の項で触れませんでしたが、やはり素晴らしい演奏です。正統派の解釈で変わった特徴があるわけではないものの、この盤を持っているのなら他のは買わなくてもいいかなと思えます。ヴァーノン・ハンドリーはイギリスの指揮者で、エイドリアン・ボールトの助手を務めていた時期もあって「惑星」などのお国ものを得意としているとみなされていたようです。2008年に亡くなっています。アルスター管弦楽団は1966年に設立された北アイルランドのベルファストのオーケストラです。ここでの「未完成」はやはりインマゼールの盤と同じようなテンポ設定で、同様に快活で歯切れの良い一面も聞かせます。ただ、リズムを鋭くしないところはモダン楽器のオーケストラらしいところです。第二楽章ではややゆったりになり、さらに重みを増して伝統的な運びに聞こえます。大きな起伏はつけない控えめな表情ですが、静かになるところではぐっと抑えていてロマンティックです。
 上に写真を掲げた二つのジャケットは同じ内容で、時期によってデザインを変えているものです。




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